王子様と7人の小人(取り巻き)
《ある、数字と人で溢れた森の中の、学校というお城にちょっと変わり者の王子様がいました…。》
僕の名前は九重ガク。
音羽高校理数科3-2組。
生徒会長、水泳部。
僕は『モテる』らしい。
王子と呼ばれ、いつも女子が周りでキャイキャイしている。
ファンクラブなるものが存在したり、隠し撮りの写真が流出しているらしい。
かっこいいとか、素敵だとか、付き合ってほしいとかは、男の僕には正直嬉しい評価ではあるけど…。
でも残念ながら、
寄って来るこの子達は僕の運命の人じゃないんだ。
あ、今僕のこと変なやつって思った?
思ったよね?
『運命』とか信じちゃうの?
うけるー、中2かよーって。
え?別に怒ってないよ。大丈夫。僕王子だから怒ったりしないよ。
そんな君も運命の人じゃないから、お互いアウトオブ眼中ってことで。(にっこり。)
僕は3、6、9と言う数字を愛していて、この数字は宇宙の起源を意味していると言われる。
僕の名前にある『九重』の9もその一つ。
僕は、神の創造物であるこの世界の、数字や、科学、物質などの普遍的なもので証明できる形で『運命』を感じる人と一緒になると決めている…!
廊下でぶつかろうが、当番がかぶろうが、そんな根拠のない、証明できないチープな運命は運命とは認めない。
僕が求めているのは、もっとこう深くて、生命を宿す段階での出会うべくして出会う運命。
告白してくる彼女たちの、生年月日、出席番号、受験番号…ありとあらゆる数字を調べてみるけれど、運命に価すると思える数字は出ないんだ。(注釈:運命=王子基準)
だから残念ながら寄ってくる女の子達は僕の『運命』の相手には該当しない。
僕のことを少し話そうか。
僕は母に教育と際して、聖書を読まされてきた。でも僕は正直内容よも興味が湧いたのはそこに現れる数字たち。
そこに記される数字たちは、数学的思想が含まれている。(友愛数とか…)
僕は科学や数字が好きで、この世界は物質と数字という普遍的なモノたちできている思っている。
数字や科学たちは運命や、奇跡など、根拠のない曖昧な言葉で表す事を嫌う。
だから僕は根拠のある目に見える形で、『運命』の人を選択したいんだ。
僕はね、
炭素と酸素で二酸化炭素になることC+O2→CO2
鉄が熱され酸化することで酸化鉄になこと
2Fe+O2→2FeO
条件がかさなって起こる、御神渡りや、ダイヤモンドダスト、虹etc…。
『現象』とは物質と数字が、融合し目に見える形となって存在を誇示している『起こり』に思える。
素敵だと思わない?
人間が生きることへ命を燃やすように、物質と数字がまるで存在を顕示すために命を燃やしているようだと…!
儚く脆く、それでいて力強く『存在』を顕示すために命を燃やす…それこそが僕にとっての美しさ。
世の中には美術や、演劇、数学の公式など様々なものへ美しさを感じる人たちが存在する。
芸術家であれ、鑑賞者であれ好きなことに命を燃やすことは僕にとってそれは『美しい』。
山田問題をいつも首席解答するIMO子さんもその1人。
彼女には、揺るがない数学への愛を感じる。
数学の美しさへこだわりに、命を燃やしていると思うたび、どんな人なのか会ってみたい気持ちに駆られる。
この駆り立てられる想い…。
僕は彼女こそ、僕の『運命』の人なのではないだろうかと思う。だがしかし断定するには情報(数字)が足りなさすぎる…。
僕はこのIMO子さんの正体を知りたいがために、理数科の1年から3年までの筆跡を調べた。
(ちなみに僕が1年の時も3年生までの筆跡をしらべた。)
方法は簡単さ。1年の時は、生徒会アンケート集計を手伝ったり、2年、3年の時は生徒会アンケートを自主的に作りその下に「頭の体操」と評して簡単な数式を入れた。
理数科の回答率は99%…僕の思惑通り。
でも理数科の生徒にIMO子さんの筆跡に該当する生徒がいなかった。
山田問題は、理数科が対象だからIMO子さんは理数科だと思い込んでいた…。
結論。
偏差値の低い他学科にIMO子さんは存在する……!
IMO子さんの書く数字の3、6、9は決まって前かがみ気味だ。(これもまた僕の興味をそそる…)
この独特な筆跡を持つ人を、他学科の生徒から探すしかない。
ちなみに、僕が調べ始めて3年目、いまだにIMO子さんが存在するということは、僕と同じ3年生だということ…!
《という、へんな思想を志しに持つ王子様。
(一般的にこれを気持ち悪いという。)
この国を治める生徒会長というお立場。
国の未来が思いやられます…。
王子様には7人の小人の使いがおりました。使いといえば聞こえがいいですが、王子にとってはモブでしかない存在達のようです…。
おしゃべりと王子のことが大好きな小人達は今日も王子を囲んでおしゃべりに夢中です。》
《チチチ。
小鳥のさえずりが清々しい朝を教えてくれる、よく晴れた日の8:00。
リケジョで溢れる教室は賑やかです。》
「九重くーん!」
「今日調理実習あるじゃない?私の班はクッキーなの。」
「そうなんだ、僕の班は蒸しパンだよ」
「今日部活?」
「そうだよ。」
「えーじゃあ差し入れするね!」
「ずるーい!私もするー!!」
あっと言う間に1番後ろの、窓側の僕の席は7人の美しいく華やかな小人たちに囲まれる。
一昨日まで8人だった。
理由は想像がつく。
一昨日僕は8人の小人の一人、土田さんに告白され僕が振ってしまったからだろう。
女子の集団には恐ろしい掟が存在し、抜け駆けやはみ出す者たちは排除されるらしい。
女は怖い…。
「九重君、数学教えてくれない?」
「ずるーい!それは抜け駆けぇ」
「だって中間テスト心配なんだもーん」
「いいけど、僕は生徒会で忙しいからあんまり時間作れないけど。」
「えーいいの!?」
「だめ!だめ!抜け駆けなんか許さないー。数学なら『RINA♡の数学教室』で勉強すればいいでしょ?」
小人(取り巻き)達は賑やかだ。
正直僕は教えても教えなくてもどっちでもいい。
「なにその『RINA♡の数学教室』って?」
僕は聞いてみる。
「相模原女子の制服着た可愛いギャルが数学の教科書をわかりやすく解説するYouTube投稿。」
「これこれ。」
「 だめー見たら九重君RINA♡に惚れちゃうもーん!」
「ふーん。確かにかわいいね、相模原女子の制服?」
「でも、いないんだって。制服だけって噂。」
「でも現役JKらしいよ生年月日はいつだか公表してたよ。」
「まぁ素性を隠すなら制服ぐらいコスプレするよね。」
「ふーん…。」
僕は、小人のケータイから流れる『RINA♡の数学教室』を眺めた。
『因数分解していきまーす。えーっとここと、ここの数字を…。』
動画の中でRINA♡がホワイトボードに数式を書き計算していく。
確かに可愛い。
色白で、小顔で、まつげも長く、二重で。
巻いた髪をアップしているうなじも白いくて思わず息を飲む。
これは男にはたまらないだろう。
しかもセーラー服にミニスカート。
いちいち、脇を締めて説明するところも、
「わかったかな?」っと間を取るときのカメラ目線も色っぽさと可愛いさを引き立てる。
正直その辺のAVより抜けるんじゃないじゃないだろうか…?(注釈:王子も健全男子)
だが、僕は動画の内容そっちのけで重大ことに気づいた。
食い入るようにみるRINA♡の奥。
ホワイトボードの文字。
(2x–3y)(6x+9)
の因数分解。
「九重君どうしたの?」
「ほらぁ九重君もRINA♡に釘付けー!」
確実に…!
確実に…!!
何度も何度も見て、3年探し続けた…IMO子さんの筆跡!!
僕は確信した。
RINA♡=IMO子
間違いない!!
僕は小人そっちのけで、自分のケータイを取り出して『RINA♡の数学教室』のチャンネル登録をした。
《その素早いチャンネル登録さばきに小人達はあっけに囚われたのだった…
王子はこの美しい姫を探すために、数字と人であふれた森の中をさまよいます。》
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