数字と、人で溢れた森の中で。
何が白雪姫なのか?
私は「いつか白馬の王子さまが!」などと数字で求められない運命やら、夢物語を信じたりしない。
統計学の中の数字や確率なら信じてもいい。
例えば、私と瀬波マコが出会ったことは
0.025%の確率で起きた出会いだ。
(これは日本で誰かと誰かが出会う確率である)
数字的根拠のないことを運命とか奇跡とかチープな言葉で言い表すならそれは“美しくない”。
出会に意味がないと思ってるのかって?
あるに決まっている。
なぜって?数字によって作られた神の産物であるこの世の中に偶然など存在しない。
そこには計算という神技法を用いて美しく示すに値するものが必ず存在するからだ…!
「ガリちゃん、今日掃除当番代わってくれない?」
「どうしてですか?」
「私バイトなのよ」
スクールカースト上位にいるギャルちゃんに私は今掃除当番を押し付けられている。
時刻は16:28。1と6と28。
あら2つも完全数♡
完全数とは自分自身を除く正の約数の和に等しくなる自然数のことである。
(6なら、1+2+3=6)
「失礼ですがあなたの時給はいくらですか?」
「なんであんたにそんな事言わなきゃなんないのよ」
「代わるのなら、相応の対価を知るいい機会だと思いまして。私の時間も12分×5の1時間で成り立っていますので。」
(中略:私は対価が欲しいわけではない。)
15分×4ではなく12分×5なのはもちろん……!!
インドが生んだ天才数学者「Ramanujan (ラマヌジャン)」のゼータ関数を称えて♡
「キモいのよ!さっさと代わって!!」
ギャルちゃんは箒を押し付けて行ってしまった。
人間の間に存在する言葉の世界は、私には理解のできない(正解がない)無限∞の世界だ。
なぜ、揺るがない数字(時給)の値を享受して、その解答欄に当てはめないのだろうか。
「リナさん、また押し付けられてしまったのですか。」
瀬波マコが声をかけてくる。
「はい、今週3度目です。マコさん。」
3は素数だから仕方ない、許してやるあげるわギャルちゃん。
でも、4回目はないわよ!素数じゃない!!
次は円周率という“無限呪文”をつかて呪ってやるわ!!
私がうつむいて前屈み気味に立ち
3.14159265359……と唱えれば皆恐れお退いてひれ伏すわ!
(注略;キモくて怖いから)
数学は絶大な神秘の力を秘めているのだ!
「では、マコもお手伝いいたします。」
「マコさん…。」
「礼にはおよびませんよリナさん。」
瀬波マコとの会話はいつも敬語。
これが私たちのお互いを尊敬し合う敬愛の証だ。
瀬波マコと私は出会うべくして生まれたと言っても過言ではない。
私の誕生日が12/3。瀬波マコは1/23。
素数で、全ての和も同じ6、完全数!
6は神が万物を創造した日とされている。
そう、数字によって作られた神の産物であるこの世が生まれた日と、私たちの生まれた日の和が同じ値を示す!これは必然を意味しているに違いないのだ。
「しかしリナさん、マコは17:20分に対戦予約があるのです。ですから17:00までには終わらせましょう。」
「御意!」
瀬波マコはゲームオタクだ。
暇があればゲームをしている。
モンハン、乙女ゲーム、BLゲーム、戦国大戦、動物のもり、アイドルますたーetc…。
休みの日はほぼゲーム。
人間の睡眠は約8時間。24時間は8時間×3。
人生1/3は睡眠というが、人生1/3をゲームに費やす人生を送ることが夢らしい。
ゲーム中の時間を邪魔されない努力も惜しまない。俗に言う「ペットボトル族」(リナ用語)らしい。
ペットボトル族とはゲームを中断したくないがために、トイレへ行く代わりに手近にあるペットボトルの中に用を足す種族。調査統計によるとゲーマーの7人に1人存在する。
7と1…素数♡
私はそんなことで瀬波マコを否定したりしない。出会うべくして出会っている大事な友人なのだから。
瀬波マコの容姿は、ヘルメットのような髪型、色白、ど近眼メガネ、身長144センチの小学生体系である。(12の2乗!ラマヌジャン♡)
同じくスクールカーストでは底辺のモブ。
しかし私たちモブに共通することは…!
ネット上では超人気アイドルということ。
これは私たち2人だけの秘密。
瀬波マコはメガネを外し、ベレー帽を被り丸襟のシャツを着ればこの世のゲーマーの妹アイドル『mako妹(マコモ)ちゃん』になる。
フォロワー数は万を超える…。
ネットで騒がれるアイドルは、スクールカースト底辺のモブによって征服されているといっても過言ではない…!!
「リナさんのこの後のご予定はなんですか?」
私たち以外誰もいない教室を、掃き掃除をしながら瀬波マコが話しかける。
「山田問(山田先生の問題)を取りに行くというラスボスに相当するミッションがあります。マコさん。」
「なんと!リナさん朝にコンプリートしなかったのですか!?」
「私としたことが…。どこかに落としたようです。」
「それはメンホーですね。(メンタル崩壊)」
朝は生徒や職員がわちゃわちゃしているので、すらっともらうことができるが、
休み時間や放課後は人目につきやすい欠点がある。
まぁ私がプリントをいただくくらいでIMO子がバレたりしないだろうが…。
音羽高等学校の理数科は偏差値が高いが、普通科はその名の通り普通である。
4、5組に存在する家政科と体育科は県内高校の偏差値平均下位である。
なので学科別のカーストでいうとエリートな理数科は他学科とは別人種であり、彼らにとって理数科以外の生徒は下級種族的地位である。(被害妄想含む)
この山田問は主に理数科の生徒が対象だ。
毎年何人か数学オリンピックの予選に出ていたりする。
そんな問題を下級種族の私が説いていると知ったらそれは下剋上が起きてしまうに価する!弱肉強食の生態系ピラミッドはひっくり返してはいけない自然界の掟である…!
(注略:リナは中二病患者。)
だからモブはモブなりに陰日向にひっそり生きることをわきまえなければならない。
これは掟はもとより、17年の人生の教訓である。
出るモブは打たれる厳しい現実がそこにはある。(ただしキモモブに限る)
キモくなければ英雄になれる可能性を秘めるが…。
そのキモモブ、キモヲタという肩書きを持った、選ばれし者だけが使える魔法がある。
それが、円周率と言う名の呪いの無限呪文
3.1415926535 89793238462643383279 50288419716939937510 58209749445923078164 06286208998628034825 3421170679…!!
(中略:普通の人間が唱えてもただの円周率でしかない)
瀬波マコは帰ったが、私は山田問を取りに職員室へ向かった。
タタタ……
ーーーー?
誰かが掲示板を見上げている。
メガネの真ん中に指を押し当てて少し近づく…
「あ。牧内さん」
九重ガク、学園王子…!
「…こんにちは」
うつむきながら控えめに挨拶して、通り過ぎようとおもった。
「このプリントもらいに来たんじゃなくて?朝落とさなかった?」
ひぃぃぃぃ!バレている!!!
…いっておこう。
数学好きというのは、世の中の
つまり、偽りの数字などを述べることをしないに等しい。
つまりつまりどういうことかというと、嘘をつけない人種が多いのだ。
「はい。実は」
一度は立ち去ろうとしたが、プリントに手を伸ばす私。
九重は、スクールカースト底辺、モブの貞子のような私にも
王子様スマイルで接する。
草食系爽やか体操男子…。
愛称の通り、誰からも愛される誠実で真面目で優しい印象の『王子様』のようだ。
「僕ね、このIMO子さんを探してるんだけど牧内さんしらない?」
「…ふ、普通科なんで」
はぐらかす。
嘘はついていない。
九重にとって、IMO子は目の上のタンコブ的な存在なのだろうか。
「理数科の1年から3年まで全員の筆跡を調べたんだけど結局合致する人がいなかったんだ。」
この王子様スマイルの裏に、執念深さと恐怖を感じるのは私だけだろうか…。
なかなか根気強く捜索中らしい。
「こんなに綺麗に回答する人に会ってみたいんだ。」
うっとりとそのはなまるのついた回答を眺める九重。自尊心や奢りなど感じない。
そこにあるのは相手への(IMO子への)尊敬だ。
「か、勝ちたいと思うからですか?」
モジモジと聞いてみる。
「僕は、数学の美しさに興味がないんだ。」
なんだって?
「だからIMO子さんのような数学に美しさを求める人には到底かなわないことはわかってる。」
…。いきなりの白旗宣言。
「僕が興味があるのは、
数字で神さまと人間の共存を証明すること。」
神さまを……証明する?
なかなかオタク路線な回答に、全身の毛穴が開いたと勘違いするほどの鳥肌がたった。
とりあえず関わりたくない。
絶対にバレるまい…。
そして、ユーターンして前かがみぎみに歩いて帰る。
王子の中でIMO子捜索願が出されているらしい……。
学校イチの変態=私
だと思っていたが。
この王子様こそが私を超える変態だと気づくのもそう遅くはなかった…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます