vs異世界牛人
「さて、これでようやく……ん?」
訓練の帰りのエレベーターにて。
何故か行きより圧倒的に早いタイミングで止まっていた。
「おいおい……よりにもよって、故障かよ?」
訝る龍野。
『故障じゃないわよ龍野君』
龍野の思考を遮ったのは、ヴァイスからの念話だった。
『龍野君、実は秘密裏にセットアップしていた延長戦があるの』
『あぁ!? 延長戦、だと!?』
『ええ、延長戦よ。今から五分後に新たなる敵が現れるから、キッチリ撃破して頂戴』
ヴァイスはそれだけ言い残し、念話を打ち切った。
『おい? おい、ヴァイス!?』
いくら龍野が呼び掛けても、応答が無い。まあ当然ではあるが。
(やれやれ……覚悟、決めるか)
素早く意識を切り替えた龍野は、瞑想を始めた。
*
四分半後。
「カウントダウンを開始します。30 , 29 , 28......」
(潮時だな)
龍野は瞑想を止め、武器を構える。
「20 , 19 , 18......」
全身に魔力を纏い始める。
(さて……魔力の残りは中途半端な量だ。移動による
「10 , 9 , 8 , 7 , 6 , 5 , 4 , 3 , 2 , 1......0」
目の前の壁が自由落下する。
”二匹目の魔獣”は、その姿を現した。
それは――牛と人間とが半分ずつ混ざった見た目の、巨漢であった。
右手にはクレイモア(大剣)、左手にはハルバード。
(武器のサイズは、俺と同等かそれ以下だな……。ならば、俺も――!)
左手を掲げ、魔法陣を生成。そこから右手とまったく同じ大剣を召喚し、更に紫煙を纏わせた――重量を任意に変動できるが、再使用に一秒の間隔を必要とする――。
(これで、条件は互角、か。それにしても……あの両手の手袋、妙に主張してくるな。大して派手なデザインでもねえのに)
(だが、今は奴の武器を封じる!)
自身の体重を三分の二に減らし、ダッシュの速度を上昇させる龍野。
そのまま疾走し、斬撃を叩き込んだ。
「はぁっ!」
当然それぞれの武器で封じられる。
だが龍野は、心臓があると思われる場所に蹴りを叩き込んだ。
「ぐぅっ!」
うめく牛頭。
「まだまだっ!」
右手の剣先からレーザーを発射する龍野。
「なめるなっ!」
だが牛頭は武器をXの字に交差させ、レーザーを防いだ。
(ッ!
しかし施されていたのは、ハルバードのみであった。
当然クレイモアは耐えられず、レーザーに刀身を両断された。
「クソッ、我が愛剣をォ!」
(今だ!)
龍野は剣に魔力を纏わせたまま、中段の構え(二刀流の基本の構え。Xの字状に刀を構える。宮本武蔵が取った構えで有名)で接近し、腕を開く要領で斬撃を叩き込んだ。
「ッ!」
再びうめく牛頭。
彼の胸筋には、わずかな裂傷が生まれていた。
(ダメだ、浅い……! しまっ!?)
龍野が引いた牛頭の右脚に脅威を感じて飛び退くも、それは誤算であった。
ハルバードの槍が、龍野の障壁と鎧を貫通してきたのだ。
「ぐっ……!(対魔力化……やっぱそうなるわな!)」
「ほう、ブラフに引っかかっておきながら、ダメージを最小限に抑えるか。やるな小僧」
「お褒めにあずかり光栄だぜ、牛さん」
「牛頭と呼べ、小僧」
「わーったよ、牛頭さん(意外と怒らないな……。ヴァイスならともかく、俺にはこいつを怒らせる自信はねえ……。素直に直接戦って勝つか!)」
龍野は牛頭を分析しながら、中段の構えと距離を維持していた。
「これ程の戦いは久しいぞ、小僧!」
(やっぱ速いな!)
牛頭が一気に距離を詰める。
(だが俺が先だ! これで打ち止める!)
龍野は構えを解き、照射点がサイコロの"2"状になるよう、レーザーを放った。
「無駄だ小僧、既に我が武器で
しかし進撃を止めない牛頭。
「終わりだ!」
防御からの素早い刺突。
「ハッ!」
だが龍野は、剣を二本とも地面に突き立て、
(このまま攻撃に持ち込む!)
そして剣に魔力を纏わせ、一気に引き抜く。
龍野が態勢を整える過程で、必ず牛頭の体を通り抜ける。槍は前に突き出し、再び構えるには時間が要る。かわす術は無い――!
「ウオオッ!」
牛頭がうめいた。
龍野は勢いのまま地面に着地し、怯んだ隙を突いて一気に畳み掛ける――!
「はぁっ!」
だが牛頭は、片手で持ったハルバードで咄嗟に防御。
果たして――直撃は避けたものの、ハルバードは勢いに耐え切れず、牛頭の手からすっぽ抜けた。
(よし、これで武器は封じ――)
「感謝する、小僧。これでようやく、俺も全力を出せるものだ」
(ッ!?)
「あのハルバードには
牛頭は言い終えると、再び距離を詰める。
(やっべ、あの角――案の定、対魔力化されてんじゃねぇか!)
「さあ耐え切ってみせろ小僧! ここまで俺を追い詰めたんだ、容易いだろう!?」
右、左の順で繰り出されるワン・ツー。龍野は腕でいなすも、更に角による刺突が襲い来る。
(ッ!)
とっさにしゃがみ込んで回避。角が引かれるや否や立ち上がり、再び牛頭に視界を向ける。
「これはどうだ!?」
右脚による蹴り。
脛には全体に対魔力化が施されている。当たれば障壁と鎧を無視して、直接頭蓋骨を粉砕される――!
当然龍野は回避を選択。右脚は空を切った。
「なら、俺も真似させてもらう!」
龍野は刀を魔力に還元し、そして右腕に魔力を纏わせて殴打する。
加えて
(50kg――ただし一瞬だがな!)
果たして――攻撃を空振りした牛頭には回避できず、もろにその拳を心臓に受けた。
打撃武器に鎧など意味が無い――武器は防げど、衝撃は防ぎきれないからだ。もっとも龍野の鎧は特別だが――。
そして牛頭は勢いよく吹っ飛び、地面に大の字状に倒れ込んだ。
「ハアッ、ハアッ、ハァ……」
龍野はだらりと右腕を下げるも、すぐに紫煙を纏わせて構え直す。
「どうだよ、牛頭さんよぉ?」
「ああ、まさかこれ程とはな……。俺も長らく人間と戦ってきたが、こんな戦いは久しぶりだ……」
「そろそろ、楽になっちまうか?」
「ふざけるな小僧……こんな楽しみ、楽になって止められるか……!」
体をよろよろと起こし、ファイティングポーズをとる牛頭。
龍野は拳を構え――
「小僧、
「!?」
「俺にとっての拳と同じで、そっちが使いやすいんだろう!?」
「あ、ああ……!」
龍野は魔法陣を生成し、大剣を召喚した。
今度は一振りだが。
「いくぞ……覚悟はいいか、小僧?」
「ああ。そっちこそ、牛頭さん」
両者は呼吸を整える。そして――
「うおおおおおおおッ!」
ダッシュで一気に距離を詰め、互いの武器を振るう――!
果たして、立っていたのは――龍野であった。
「フッ、俺の
致命傷と呼べる斬撃を受け、胴体をぱっくりと割かれた牛頭が倒れながら、うめくように喋った。
「いや、あんたの
龍野が左脇腹を押さえる。
わずかに掠めていたのだ。
「小僧、そう言えばお前の名前、聞いてなかったな……」
「ああ。俺もあんたの名前を聞いてなかったぜ、牛頭さん」
「悪いが、俺に名前は無い……小僧。
「そうかよ。俺は『牛頭さん』でいいぜ」
「なら、名前を教えてくれるか……?」
「
「須王、龍野……ハハッ、いい名だ。お前のような素晴らしい人間と最期に戦えて、光栄だったぞ。じゃあな……龍、野……」
牛頭は全身を光の粒子に包まれ、そして消えていった。
「牛頭さん……出来ることなら、違った機会で会いたかったぜ……」
龍野は心に寂しさを感じながら、その場を後にした。
*
「これで二戦目は果たしたわよ」
「ええ。それでは約束の品を、きっちり二つ」
幹部格の研究員は、ヴァイスにチケット状の物体二枚を渡した。
「我が社による異世界転移をご所望の折には、是非、これをご提示くださいませ。姫殿下」
「ええ。異世界なる場所に行くときには、使わせてもらうわ」
「はっ。それでは、お体ご自愛下さいませ」
「ええ、そちらこそ」
ヴァイスは再び最敬礼(45度のお辞儀)で見送られながら、その場を後にした。
『龍野君、今度こそ終わりよ。え、何? 騙した罰を受けろ、って? いいわよ。立て続けに二戦も戦ったのだから。明日の午後十一時五十九分五十九秒まで、何でも命令なさい』
念話を打ち切ったヴァイス。
「さて、ご褒美はこれでいいわよね。龍野君」
陶酔の笑みを浮かべながら、ヴァイスは小型のエレベーターに乗り込んだ。
須王龍野("vs100"参加用) 有原ハリアー @BlackKnight
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