vs異世界蟷螂
「なっ――――」
龍野が最初に見たのは、巨大な
(で、でけえ……!)
カマキリもまた、龍野を見た。
『龍野君』
『何だ、ヴァイス?』
ヴァイスから唐突に念話が掛かった。
次の瞬間――
龍野目掛け、一直線に
(しまっ!?)
龍野が気付くが、もう遅い。
カマキリは巨大な鎌を振り下ろした。
「ぐっ!(すげえ重さだ……この分だと体重は
龍野を障壁が守る。
だがカマキリは、「攻撃が効いている」と錯覚しているのか、なおも手を緩めない。
巨大な
「クソッ……いい加減に、しろっ!」
龍野は障壁に守られながら、大剣を振るって追い払う。
だがキチン質の表皮は戦車の装甲並みに硬く、斬撃を無効化した。
(ダメか……なら、魔力を纏わせるしかねえな……。それにしても、もし俺が生身だったら、戦闘開始早々ながら死んでたぜ……)
しかし、「攻撃は効いていない」と察知したのか、カマキリは大きく飛び退いた。
ひとまずカマキリと距離を取った龍野は、警戒を緩めないまま、ヴァイスとの連絡を取った。
『何だよこんな時に!』
『状況に応じて
『見りゃわかるわ、俺の三倍以上のでかさだ!』
『お陰で体重も増えたわ。1000kgを限界とする測定器で検出できない程に、ね』
『やっぱりかよ』
龍野の見立ては正しい。それが証明された結果だ。
『知ってたの?』
『出会って一秒と経たず、一撃喰らったからな。それで大体察した』
『流石ね、龍野君』
『まったく、お前は俺を生かしたいんだか殺したいんだか……』
龍野はげんなりしつつ、意識をカマキリに戻した。
(それにしても……”鎌”ってのが、あいつを思い出させるから困るぜ……)
龍野は
その様子に反応したカマキリが、龍野に掴みかかろうとした。
「あぶねっ!」
カマキリの跳躍を回避し、反撃に転じる。
(接近戦は危険なのはわかった……だったら!)
龍野は剣先に魔力を充填し、
だが、背中に命中したはずのレーザーは、あらぬ方向に弾かれた。
(!?)
『そういえば龍野君。彼女には、体の一部に『
『余計なことしてくれるぜ……!』
『うふふ。けれど見ればわかるようにしているわ。せめてもの情けよ』
龍野はヴァイスに毒づきつつも、カマキリの全身を眺める。
背中は元より、大鎌などが黒く染まっていた。
(そこか……なら、そこに当てないようにしないとな)
龍野は特性を見切りつつ、高度を更に上げた。
(天井スレスレだ……。ここなら、大顎はともかく……大鎌は届かないな)
『更に付け加えて言うわ龍野君』
龍野を動揺させるように、ヴァイスが口を挟んできた。
『彼女、遠距離攻撃が出来るのよね』
『なっ――』
龍野が返事をする前に、障壁が展開した。
(何だ……何が起こった!?)
周囲に目をやると、電灯と観測機器(カメラなど)が壊れていた。といっても、全体の3%にも満たないが。
(クソッ、文字通りのバケモノじゃねえか!)
龍野は今の高度を維持したまま、レーザーを乱射する。
だが既に正面を向いたカマキリは、ある時は鎌で、ある時は体でレーザーを弾いた。
(やっぱダメか……)
カマキリは鎌を素早く振るう。
(ん? 今、目の前の空気が歪んで……)
そう思った時には既に、龍野の障壁が展開していた。
(またか!)
気づいた時には、既に何かは龍野を通り過ぎていた。
(生身だったら……俺は、もう……)
死への恐怖が、龍野を精神的にじりじりと追い詰める。
カマキリは再び跳躍した。
(く、来る……!)
そして両の鎌を素早く振るい、Xの字状の何かは龍野目掛けて襲いかかった。
(避けきれ……!)
再び障壁が展開。
だがこの連続攻撃で、耐久の底が見えつつあった。
(こりゃあ、何度も持ちそうにないぜ……!)
龍野は一度態勢を整える為に、危険を承知で一度着地した。
その瞬間を逃さず、カマキリが襲いかかる。
(今だ……!)
龍野は敢えて大鎌の攻撃を受ける。
当然障壁が展開するが、ガリガリと少しずつ削れ始めた。
(ヤバいな……。けど、絶好の機会だ!)
龍野は大剣に魔力を纏い、斬撃を叩き込む。
分子を直接分離するこの一撃は、キチン質の装甲にも有効であった。
初めてカマキリが苦痛を示す悲鳴を上げた。
(よし、効いてるな……!)
カマキリが苦しんでいる内に、一気に距離を取る龍野。
魔力を障壁に回し、障壁の耐久度を回復させる。
(ひとまず態勢は整えた……!)
そして追撃として、レーザーを叩き込む。
だが大鎌で防御された。
「へっ……まだそのくらいは動けるみてえだな」
ダッシュで距離を詰める龍野。
カマキリは攻撃を受けた箇所を左の鎌で
「単調な!」
龍野は(龍野の視点で)右に跳躍し、鎌の一撃を避ける。
点の攻撃は威力が高いが、かわされればそれで終わりだ。
「この距離なら……!」
脚の関節目掛け、レーザーを発射する龍野。
脚自体は黒かったが、関節は黒くない。対魔力化されていなかった。
であれば、いくら高硬度のキチン質の装甲であれ、貫かれる――!
「よし!(これで、片側の脚は封じた……。もう片方も!)」
だがカマキリは、苦痛を押し殺して跳躍した。
(クソッ、振り出しか……!)
龍野は距離を取ったまま、レーザーを放つ。
予想通り、カマキリは大鎌で防いできた。
(けどよ、もう無茶は出来ねえだろ!?)
レーザーを顔に照射する。
再び防御するカマキリ。
(やっぱな……お前、左の前脚が鈍くなってるぜ?)
今度はレーザーを、龍野が先程斬った位置に当てた。
この速度にはカマキリも追いつけず、コンマ数秒の差でレーザーが腹部の傷を照射した。
カマキリが絶叫を上げる。
「貫け……!」
しかし、龍野のレーザーは遅れて来た鎌に防がれる。
(だが、これでいい!)
龍野は
カマキリはその場から動けず、大鎌を構える。
「これで、終わりだ……!」
カマキリは大鎌を振り下ろし、龍野を貫かんとする。
だが龍野は加速の勢いで回避――いや、正確には避けておらず、通り抜けただけだが――した。
そしてこれまでに傷を付け、レーザーを照射した箇所に……
手にする大剣を突き立て、そのままレーザーを放って今度こそとどめを刺した。
「どうだ……!」
カマキリは断末魔を上げ、やがてドシンと音を立てて倒れた。
龍野は警戒を続けていたが、カマキリの体が光の粒子と化し、そして消え去った。
『お見事ね、龍野君』
『まあ、一対一だから何とかなったってだけだがな。こんなのを何体も相手するなんて、無茶だぜ』
『とにかく、訓練はこれで終わり。それじゃ、お城に帰るわよ?』
『ああ』
こうして黒騎士は、少々厳しい鍛錬を終えたのであった。
*
龍野と帰る直前、ヴァイスは、実験施設を提供してくれた幹部格の研究員と話をしていた。
「少々乱暴な方法ではございましたが……」
「いえ、とんでもありません姫殿下。2mを超える個体を作成してくださり、感謝の極みでございます」
「そう言えば、あなた方の宿願でございましたね」
「ええ。その通りでございます」
「結局、龍野君が倒しましたが」
「とんでもございません。後は貴女のご助力を受け、改めて研究致します所存でございます故」
「頑張って下さいませ。それでは、そろそろ失礼いたします」
「ええ。感謝の極みでございます、姫殿下。それよりも」
「何でしょうか?」
「姫殿下の騎士様のお手並みは、お見事でございましたな」
「ええ。貴方のご覧になったあの鎧騎士こそ、彼の実力でございますから」
研究員はヴァイスを最敬礼(45度のお辞儀)で見送った。
「うふふ……後でご褒美をあげないとね。龍野君」
ヴァイスは龍野を褒め称えながら、カツンカツンとヒールを鳴らしつつ出口へ向かった。
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