第7話

「えぇ、一緒に帰りましょ」


 と言う事で玄と碧、それに加えて鈴と稔とも一緒に帰ることにした。クラスを出る注目の的になり歩くたびに視線がこちらを追いかける。


 慣れている碧と神経が図太い鈴は気にした様子はなく堂々と歩いているが玄と稔は慣れず少し緊張気味に歩く。昨日よりも多くの人が話しかけてきた。やはり、一日たったことにより情報がたくさんの人に伝わったらしい。なんとなく答えてあしらう。


 学校を出て話しかけられることもなくなりホッと一息つく。


「桜木さんと黒井さんはいつもこんな視線にさらされているの? つかれないの?」

「私はもう慣れたわ」

「俺は未だなれないな」


 碧は慣れたらしいが俺は慣れない。こんなに見らるようになったのも碧と帰り始めた昨日からだから、一日であれを慣れろというのは少し無理がある。


「だいじょーぶ!」


 鈴のような初めから気にしない神経を持っていれば別であるが。


「鈴には聞いてないよ」


 えー! っと不満そうな声を上げる鈴。


「あ、そろそろ赤になる早く渡ろうっと、みんなー、はやくー!」


 走ってわたり切った鈴がこちらを向いていってくる。横断歩道の歩道車用の信号機が点滅しはじめ早く渡ろうとしたとき、信号を無視した一台の黒塗り車が猛スピードで交差点に侵入してきた。


「やばっ!」


 いち早く気づいた玄が隣にいた碧と稔の手を掴む。そのまま交差点の外まで走り出す。突然掴まれた二人は驚いたが引っ張られるように走る。車は碧の背中をなぞるように走り去っていった。


「……ふぅ、あぶなかったぁ」


 信号を渡り切り追突してきた車がそのまま走り去っていくところを見て呟く。


 鈴に言われ早く渡ろうとしていたタイミングだったためなんとかぶつからず事故にならなかった。


 不幸中の幸いだな。それにしても……


 玄は先程の車を見て少し引っかかったことがあった。それについて考えようとしたが鈴の声が聞こえた。


「だ、だいじょーぶ!?」


 鈴がこちらを向いて心配をする。交差点を渡り切って鈴のもとへ向かう。


「俺は大丈夫」

「私も何とか、危機一髪だったね」


 玄と稔は大丈夫だったが碧は静かだ。


「碧、大丈夫? ケガしてないか?」

「……えぇ、だいじょうぶよ」


 大丈夫と言っていたが少しおびえた表情をしていた。移動しようと手を放そうとするが碧は一向に放そうとはしなかった。


 怖かったんだろうな。気づくのが少し遅かったら轢かれてたからな。


 そう考え手を繋いだまま歩く。


「そう言えば、二人ともいつからの知り合いなんだ?」


 少し変な空気だったので話を変える。


「鈴とは幼馴染なのよ、マンションの隣の部屋に鈴の家族が住んでいるのよ」

「そうなの、稔が小さい頃は鈴のうしろをついてきて可愛かったのに……」

「む、むかしのことでしょ」

「いまじゃ、怖い映画を見たって言って泊まりに来てとっても可愛い!」

「……なんでいうのよ、うぅ、はずかしい」


 二人の会話を聞いていて本当に仲がいいんだな。


「鈴は稔の事が好きなんだな」


 満面の笑みを浮かべて言う。


「うん!」


 他にも二人の過去を聞いていると住んでいるマンションへとたどり着いた。


「それじゃあ、私たちはここで。また明日」

「ばいばーい!」


 二人仲良くマンションの玄関を入っていく。


「碧、大丈夫?」


 あの交通事故未遂に遭ってから口数が少なった気がする。


「…大丈夫よ。スーパーはどの辺かしら?」

「すぐそこのスーパーだけどいい?」

「えぇ」


 怯えている風だったがスーパーに入ると元気になった。


「スーパーって色々なものが置いてあるのね」


 物珍しそうにスーパーの中を眺める。


「……これはなにかしら?」


 何のことだろうと視線の先を追ってみるとスーパーの籠が置いてあった。


 もしかして……


「碧はスーパー来たことないのか?」

「…えぇ、実は初めてで一度来てみたかったのよ」


 スーパーに一度も来たことがない碧っていわゆる箱入り娘なのか?


「それで何を買うのかしら?」

「今日は昼食と夕食の食材を買いに」

「それじゃあ、これなんておいしそうじゃない?」

「高いからやめておこう」

「そうかしら」


 二人の買い物が終わる。


「あ、昼食、家で食べていく? 料理に自信はないけど」

「行くわ、玄の手料理食べたい」


 レジ袋を両手に抱えて二人で家まで行く。



 家にたどり着くと玄関前で結衣がうずくまっていた。


「どうしたんだ?」

「あ、くろ兄ー! まってたよ…… あれ? そちらの方は?」

「友達の桜木碧で、こっちが妹の結衣」

「よろしくね」

「よろしくおねがします」


 二人の紹介も終わったところで結衣に質問をする。


「で、どうしたんだ?」

「家の鍵を忘れて…… あははは」


 くぅーっとお腹が鳴る音がした。


「お腹すいたー」


 恥ずかしがる様子もなく主張してきた。


「食材を買ってきたからちょっと待ってくれ」

「はーい」


 鍵を開け家の中へ入る。

「ただいまー」

「ただいまー」

「おじゃまします」


 リビングに移動し玄は料理をするべくキッチンに立つ。結衣は荷物を置きに二階へ、碧はどうしていいのか分からずリビングでそわそわしていた。女の子を家へ誘うと言う経験を今までなかったためどうしていいのかわからない。しかし、そんなときに頼りになるのが我が妹だ。荷物を置きリビングへ戻ってきた。


「碧さん! くろ兄が料理を作っている間、遊びませんか?」

「えぇ、いいけど……」

「それじゃあ、これし知ってます? これ、いま流行りのアプリなんですけど」

「あ、知っているわ」

「本当! 一緒にやりませんか? 私、強いんですよ」

「そうなの? 実際にやったことはなくて……」

「ならやりましょう! 私が色々教えますから」

「なら、お願いするわ」

「はい!」


 碧と結衣がリビングで盛り上がっている。それをBGMに今日買ってきた食材で料理を作る。


 スマホを操作しレシピを検索する。簡単な親子丼でいいかな。これなら何回か作ったことあるし。


 冷蔵庫にしまった食材を取り出す。まず初めに、ご飯を炊こう。お米と水を入れスイッチを押す。次に食材を切っていく。鶏肉は二センチ角に玉ねぎは薄切り、みつばは2センチの長さに切る。

 難しいことではないので特に問題なく切り終わる。鍋に出しを入れ煮立たせる。それに鶏肉と玉ねぎを投入。3分間、中火で煮て溶き卵を回し入れる。そして、炊きあがったご飯を入れたお椀にかけ、最後にみつばをトッピング。親子丼の完成!


 テーブルへ持っていく。


「お待たせ、出来たぞ」


 持ってきて親子丼を見て二人は感想を述べる。


「おー! 美味しそう!」

「そうね、美味しそうだわ」


 見た目はクリアだな。


「早く食べよ! お腹すいたー」

「あー、分かった、わかった。ちょっと待ってくれ」


 玄の分もテーブルへと運び皆が席に座る。玄が手を合わせる。


「いただきます」


 それに続いて碧と結衣も言う。


「いただきます」

「いただきまーす」


 二人がどんなリアクションをするのか見ていると。


「んー、おいしい」

「えぇ、とても美味しいわ」


 よかった。二人の口に合ったみたいで。


「ごちそうさま」

「ごちそうさまでした」


「お粗末様でした」


 親子丼を食べ終わり玄はお椀を片付ける。


「私も手伝うわ」

「いや、大丈夫だよ」

「でも……」

「じゃあ、俺の邪魔をしないように結衣の相手をしてくれないか?」

「え、えぇ、わかったわ」


 結衣がぷくーっと頬を膨らませている。

「本人の前で言う事じゃないと思うよ。くろ兄ー、それじゃあ、いつも邪魔しているみたいじゃん」

「実際そうだろ。この前だって俺が課題をやっているときに結衣がふざけたせいでジュースこぼれてやり直しになったし」

「それは……たまたま……」

「それに、その前にもゲームやっているときにパソコンのコンセント抜いたし。まだまだ、あるぞ。それで、何かある?」

「おっしゃる通りで…… ごめんなさい」


 そんな二人の会話を聞いて碧が思わず笑う。

「ふふっ、仲がいいのね」

「碧さんには兄弟はいないのですか?」

「いるにはいるのだけども、あったことがないわ」

「一度もですか?」

「えぇ、だから羨ましいわ」

「それなら、碧さんも私と姉妹になる方法をお教えしましょう」


 結衣のその顔は何かくだらないことを考えている顔だ。


「な、なにかしら?」

「簡単です。くろ兄と結婚すれば私が義妹として付いてきます」

「はぁ、何を言ってるんだ」


 結衣の発言に呆れる。

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