第6話

「あ、ちょ……」


 小さい体では抵抗することもできず男子禁制の場所へと立ち入る。


 男子が見てはいけない光景―着替え途中の下着姿の女の子が目の前に広がる。とっさに顔を下げ目をそらす。


 なんだか、甘い香りがするな。


 出ようとしたが碧に連れられて中に入っていく。出ようにも周りを見る事が出来ないので自力で脱出は不可能であった。そのまま奥に行ったところで止まり着替え始めた。


「玄? 着替えないの?」


 これまでの碧の言動からしてもしかして俺が女子だと勘違いをしているのではないか。


「碧……」

「なに? どうしたの?」


 碧をちょんちょんと触り顔を近づけさせ周りに聞かれないように碧の耳元にささやく。


「碧…勘違いしてるかもしれないから言うけど俺男なんだ」


 碧は一瞬何を言われたのか分からな様子だったが色々考え

「体を見られるのが恥ずかしいからってそんなばれる嘘を言っても意味ないわよ?」

「う、うそじゃないって」

「だって、こんなにも可愛いのよ?」

「……それは知らないけど、本当に男だって」


 二人で言い合っていると他の人たちも何を話しているのか気になり始めた。碧をまたいで玄の反対側で着替えていた青葉さんが話しかけてきた。


「どうしたの?」

「玄が体を見られるのが恥ずかしいからって男性だって言い張るのよ?」


 青葉さんが話しかけてきたことによりクラス全体へと話が広がっていく。


「そんなもの触ればいっぱつで分かるよ!」


 更衣室の中を元気いっぱいな声が響き渡る。


「玄ちゃんのお肌すべすべ……ぐへへへ……」

 小柄な女性が後ろから抱き着いてきた。着替え途中なのか肌の感触が直に伝わってくる。胸が大きいのかむにゅーっと張り付くような感触がある。だが、それを感じている暇もなくなる。


「ふぇあ! ……あ、っん! あははは」


 玄は結衣に触られた時と同じようにどこかくすぐったい感覚が全身を走る。どうやらこの体になってからというものくすぐりに対する耐性がなくなってしまったようだ。


「ほら、やめなさい!」

 誰かが止めるような言葉を言うが止まらず触り続ける。


「……ぐへへへ……え?」

 抱き着いてきた女の子の声が止まった。


「へぁ……はぁ、はぁ……」


 急に来たくすぐり地獄が止み玄が息を整えていると、なわなわと震えだして言う。


「おっぱいがない! ほ、本当におとこのこだ!」


「ほ、本当なの玄?」

 碧が驚いた表情をしながらも肩を捕まれた。


「……ふぇあ?」


 まだ、息が整いきっていない状態で質問されたため気が抜けたような声が出た。碧は自分で確認しないと気が済まないのか玄の体を触りはじめた。


「ふぁ……あぁ! ん、あっん」


 やっと終わったと思ったくすぐりがまたしても始まった。


「み、みどり……は、激し……すぎ…はぁ、はぁ、ちょっと……」


 更衣室の中に可愛らしい声が響く。数十秒くすぐり続けた後、確認し終えたのか手を離した。玄はぐったりと床に崩れ落ちた。


「男の子だわ……」


 玄が男だと言う事がやっと女子生徒たちに理解してもらえた。だが、本人はくすぐりで疲れ果てていてそれどころではなかった。


「…はぁ、はぁ……理解してもらえたなら男子更衣室に戻るね」

「だ、だめよ! 何されるか分かったものじゃないわ! 男なんてみんな獣なのよ!」

「……そんな男にいま下着姿みせてるんだけど」

「玄になら見られても問題ないわ。だから、こっちで着替えましょ?」

「だけど……あ、碧が良くても他の人たちがダメだろ?」

「そう? 玄の話を聞いてたわよね? 玄が男子更衣室に行ってほしい?」


 碧は周りを見渡し誰も言ってこないことを確認してもう一度玄に言う。


「ね? ここで着替えましょ?」

「だ、だけど……」


 玄が渋っていると抱き着いて触ってきた女の子が言う。


「玄ちゃんは男子更衣室いったらやられるよ? やられたいの?」

「やられたくないが……」

「なら、行く必要ないじゃん! ほら、こっちで着替えよ?」


 他の人たちも玄を引き留めようと必死に言う。

 玄はクラスの同調圧力に負けここで着替えることにした。


「ふふふ、可愛いわ」

「そんなに見ないでほしいんだが」


 クラスの皆に見られながらも着替えていく。これなら男子更衣室いっても変わらない気がしてきた。


「やっと、着替え終わった。 ……はぁ」


 着替えるだけなのに精神的にとても疲れた。皆が着替え終わったころに女子更衣室のドアが開いた。


『ガチャ』


「遅いわよ、早く移動しなさい」


 はーい、と言って皆移動し始める。


「玄一緒に行きましょ?」

「だけど、男子生徒は多目的室に行かなくちゃ」


 碧は少し考え近くの教師に話しかける。何か話し合った後戻ってきた。


「玄の事を話しを通しておいたわ。一緒に行きましょ?」

「あ、あぁ」


 碧と一緒に体育館まで移動する。体重計と身長計の前に二列に並ぶ。教師の話を聞き流し身体測定が始まった。


 終わった人たちが友達どうしで話し合っているのが聞こえる。


「朝食抜いてきたのに体重2キロも太ったぁ」

「私なんて身長1センチも伸びてないんだけど」


 玄と碧も図り終わる。

 身長は150センチとゲームで決めた通りの身長だった。碧は165センチと思っていたより高身長で驚いた。

「玄ったら小さくて可愛いわ」


 周りにいる人たちも同感だと言わんばかりに首を縦に振る。


「ぐへへへ…じゅるり……もう一度撫でていい?」


 更衣室でおっぱいを揉んできた女の子が手をわきわきとしながら詰め寄ってきた。正面から始めてみたが玄より少し大きいくらいの身長、茶髪でショートの活発な少女であった。


「やめなさい!」


 眼鏡をかけ黒髪に三つ編みロングのいかにもクラス委員長みたいな人ががその女の子を後ろからちょっぷする。


「もう、なにするのさ」

「あなたが変なことをするからでしょ、ごめんなさいね。ほら、謝りなさい」

「うぅ、ごめんなさい」


 まぁ、この子のおかげで男だと言う事を信じてもらえたし……


「大丈夫だよ、怒ってないから」

「ほんと! ありがとー、大好き!」


 そう言って抱き着いてきた。男だと分かったのに抱き着いてくるのに躊躇は無いのか疑問に思ったが本人に聞くこともできなかったのでそのままにしておく。抱き着かれるのはとても恥ずかしかったが振りほどくにも変なところを触ってしまいそうだったので何もできずにいた。


「あ、ちゃんと自己紹介してなかったわね。私は佐々木ささき稔みのり、抱き着いているのが鈴木すずき鈴りん。よろしくね」

「よろしくー、玄ちゃん! 碧ちゃん!」


 鈴は抱き着いた状態で元気よく挨拶をする。


「そろそろ、終わるみたいだから着替えて教室に戻りましょ」


 皆その言葉を聞いて戻ることにした。



 教室にたどり着いた玄と稔はとてもぐったりしていた。


「…ふぁ……」

「……………」


 女子更衣室で私服に着替えるとき、碧と鈴に体中を撫でまわされたため疲れたのだ。稔はそんな二人の暴走を止めるべく奮闘したためである。そんな二人と対照的なこちらの二人は自分の欲求を満たせたのか満足げに話し合っていた。


「……玄のお肌すべすべで気持ちいわね」

「うん! 玄ちゃん。赤ちゃんみたい」

「撫でてる時の声が可愛らしくて……」

「ねー、ついついやりすぎちゃう」


 二人の会話にクラスの皆が注目している。とくに男子生徒が一文字でも流さぬように必死に耳を傾けている。


『ガラ』

 教室のドアが開き日向先生が入ってきた。


「お疲れ様でした。それでは、えーっとね。あ、クラスの係と委員を決めていきたいと思います。こちらがクラスの係です。二人一組です。やりたい係の場所で手を上げてください」


 クラスは二人一組という言葉に緊張が走る。玄や碧と一緒の係になりたいと思う男子達が周りを見渡して偵察している。そんな事とは知らずに玄は、放課後のこらない一番楽そうなのがいいな。何があるんだろうか。と考えていた。


「……美化委員とか楽そうかな?」


 玄のその言葉を男子達は待っていた。


 そして、順番に係を言っていき美化委員の番が来た。

「じゃあ、次は美化委員をしたい人は手を上げてください」


 その言葉にクラスの男子生徒の大半が手を上げた。誰が玄と一緒に美化委員をやるのか。それが掛っている為誰も譲らない。このままでは進まないのでじゃんけんをさせておき後で決めることにした。


「次は図書委員です。したい人は手を上げてください」

 男子達がじゃんけんをしている間に


「やっぱり図書委員にしよ、碧、一緒にやらない?」

「ええ、やりましょ」


 玄と碧は決めていた。


 美化委員のじゃんけんで勝った男子生徒が戻ってきた。これで玄と一年間は一緒の委員会だと思いながら戻ってきた。


「な、なんで……」


 黒板に書かれている文字を見て崩れ落ちた。そんなこんなで係も決まり今日の学校は終わりになった。


「明日から授業が始まります。教科書等忘れないようにしましょう」


 きりーつ、れー、ありがとうございました。


「帰りましょう?」

「いいよ、あ、ごめん、スーパーに寄らないといけないんだ」

「なら、一緒に行きましょ? 私も行ってみたかったのよね」

「そうなのか、なら丁度よかった」


 鈴と稔が玄と碧が帰ることに気付いた。

「あ、二人とも帰るの? それともどこか行くの?」


「玄の家の近くのスーパーに行くのよ」

「家ってどのへんなの近いなら一緒に帰りたい!」


 碧は正確な位置は知らないがある程度の方向は知っているため鈴にここらへんだと言う。


「あ、同じ方向だ! 一緒に帰ろ!」

「えぇ、一緒に帰りましょ」

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