AIと3Dプリンターはイノベーションを支えるか?
以前のコラムで、AIの進化と3Dプリンターなどのオンデマンド製造技術の発展によって、『大量生産時代の終焉と共に、消費者という存在の必要性が薄れていく(かもしれない)』ということを書いたが、今回は、オンデマンド生産技術の良い面を考えてみたい。
まず考え得るのは、現在の少数の大企業による寡占化を打ち砕く力になるかもしれないということだ。
大量生産による「規模の経済」が、ビジネスにおいて競争力を支える最大のファクターではなくなるとするならば(だからこそ『消費者不要の時代が来るかもしれない』という話でもあるわけだが)、現在のように、大規模な資金調達力を持つ『大企業のみが次の一手に投資できる』という状況が、少しは緩和されるかもしれない。
現実問題として、科学技術の発達と共にその複雑性は加速度的に増大しつつあり、もはや、あるハイテク製品のゼロから完成までを、一人の人間が一貫して手がけるという状況は(構造の簡単なものならともかく)滅多に無い。
高度な知識やスキルを持つ(人件費の高い)、多彩な分野にわたる専門家を集めたゴージャスなチームと、高額な投資を必要とする研究開発環境が必要だし、もちろん製品の複雑性が増すほどに、テストやバグの検証にも膨大な時間と費用が積み上がっていく...。
新しいハイテク製品を開発するための投資額が天井知らずになっていく大きな理由がこれだ。
さておき、過去を振り返ってみても、セピア色のイメージに縁取られた19世紀末のトーマス・エジソンやグラハム・ベルなどの活躍以降、20世紀のイノベーションは急速に、「街の発明家」ではなく、大企業や組織の「研究室」から生まれるようになっている。
これは当然といえば、当然だ。
つまり前述のように、20世紀初頭を境に各種の理論とテクノロジーが急速に発展して複雑化し、その原理の理解も、機械としての実装も、全てを一人で賄えるものではなくなっていった...ということである。
のどかな時代のSF小説のように、天才科学者が一人で色々なジャンルのものを発明していく、という状況はすでに難しくなってきている。
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さて、お分かりの通り、誰にでも利用できる3DプリンターとオープンソースなAIは、そこに
例えば全く新しいソフトウェアコードやコンテンツを生み出せるAIが、どこかの企業に独占利用されるのではなく、オープンソースなツールとして世に広まったり、製品設計を支援してくれるCADと3Dプリンターが、低コストなシステムとして普及したりすれば、ジャンルによってはミニマルな企業や個人ベースでさえ、一世を風靡するチャンスが生まれるかもしれない。
AIは、上述のゴージャスな開発チームやテスト環境などの、かなりの部分を置き換えることができる(かもしれない)し、物理的な製品の試作などは、3Dプリンターが大きな力になるだろう。
現在でも、例えば「クラウドファンディング」を通じて、新たな製品のビジネス化を図る小さなプロジェクトは無数に生まれている。
その時、人々に投資(や、商品が生まれる前の早期購入予約)を促す重要な要素は、すでにその製品が存在するかと思えるほど精密に描かれたCADベースのデモCG映像や、3Dプリントで成型されたプロトタイプによるプレゼンテーションなどだ。
こうした高機能なツール類を、ほんの数人の起業家グループで利用し、高品質な設計デザインからプレゼンテーションの作成までを一気にこなせる時代になっている。
(逆にこれがうまく普及できなかったら、もう歴史を繰り返すこともなく、今後のハイテク製品は、むしろ『大企業の資本から_のみ_生み出される』という状態に突入するだろう。)
もちろん限度はある。
というか、むしろ限られたジャンルのみに限定される話ではある。
何をどうやっても、石油プラントや製鉄所のように天然資源や原料となる素材を生み出したりダイレクトに扱う工業分野は、3Dプリンター的なもので対応することが不可能だ。
こうした分野は、いつまでたっても規模がものを言うので、別の対応方法が必要だろうし、逆に言うと、地下だろうが宇宙だろうが、天然資源を抑えている勢力が世界経済を支配し続ける可能性は高い。
まあ、全てを一挙に解決するのは無謀なので、その辺りは脇に置いておこう。
ベンチャー企業は、「規模の経済」の影響力が弱くなりそうな分野に_だけ_注力すればよいのである。
それに、「ブロックチェーン技術」のように、アイデア勝負の新機軸がまだまだ生み出されていく可能性はある。
人類の作り出すシステムに盤石だの完全だのはあり得ないので、どこかに必ず、『新しい人々のためのチャンス』は存在しているはずだ。
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< エジソンやベルの評価は様々だが、二人とも驚くほど多彩な分野で発明や思索を行っていたことは疑う余地がない。
それに対して、20世紀に発達した情報科学、特にENIACなど初期のコンピューターの製作も、インターネットの起源であるARPANETも、どちらも国家機関によるプロジェクトがベースであることを忘れてはいけないと思う。>
< ひょっとすると「家庭用3Dプリンター」の普及を夢見る人々もいるかもしれないが、多くの人にとって重要なのは『手間・コスト・美観』のバランスであって、『自分でモノを作り出すこと』には特に意義を感じないだろう。
食品用3Dプリントも同じで、一般家庭まで普及させるためには、食材に関わる社会全体のシステムをガラリと変える必要があると思える。>
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