人間ではなくマシンへ向けた広告活動


人間ではなく、マシンであるデジタルアシスタントへ向けた広告活動と言うのは、あなたが家に帰ると美少女タイプのアンドロイドメイドが小走りに駆け寄ってきて、握りしめたAR仮想チラシを振りかざし、「ご主人様、このパーツ欲しいですぅ!」と可愛く上目遣いに訴えてくる、とか、そういう話ではまったくない。


もっとドライな話である。



言うまでもないことだが、同じサイトを見ていても、同じ広告を見ているとは限らない。ショッピングサイトの「リコメンド」のように、多くのウェブ広告は、相手に合わせて表示する内容を変えている。


その時に、あなたにどんな広告を見せるべきか? の判断に使われているのは、あなた自身のネット上での行動履歴だ。ネット広告の会社は、異なるサイトを訪問したあなたの行動を横断的に追跡し、それらを繋げて一人の人物のプロファイルとして精度を上げていく。


その是非はここでは置いておくとして、あなたが旅行や海外事情に関係するサイトを沢山訪問していれば、ツアーやホテルの広告を優先的に表示するだろうし、それがハイテク、ファッション、食事、料理、自動車、なんでも、とにかく、あなたのネット上での行動履歴を分析して、提示する内容を変えていく。


これは現時点で普通に行われていることだが、さらに将来どうなっていくのかを考えてみたい。


まず今後はスマホなどを通じて、音声アシスタントに限らず、デジタルなエージェント/アシスタント経由で情報のプレ処理(下拵え)を行う人々が増えていくと思う。


そこでアシスタントには、あなたのために有用だと思われる情報を、事前に篩い分ける『フィルター』としての役目が重要になってくる。

あなたのリクエストに応じて、アシスタントがもっとも適切だと思われる情報を玉石混淆な情報の中から「選び取って提示」してくれるわけだ。


これによって、あなたが頭を悩ます割合は大幅に減るはずで、提示されたいくつかの候補の中から最適な物を、ほとんどの場合は最上位に提示された物をそのまま受け入れれば事は済んでしまう。

まあ、若干は大人の事情によってそのアシスタントをリリースしている側の企業がプッシュしたい情報を混ぜ込まれてくるだろうが、それは得られるメリットを比較して目をつむれる範囲だろう。


これは広告も同じだ。


いまのインターネットのマネタイズモデルから考えても、アシスタント(を提供しているプラットフォーム側)が広告を排除する、ということはあり得ない。


何かの(一見すると無料に思える)情報は、広告とセットで提示せざるを得ないが、あなたに見せる広告としてどれをピックアップするかは、広告配信会社の一存というわけにはいかず、アシスタントにも任されることになっていくだろう。



さて、そうなると広告を出す側にとっては、アシスタントに篩い分けられずに、あなたに届くことが、まずもって第一関門ということになる。当然ながら広告は、あなたの心に届く前に、まず物理的にあなたに届かなければいけないのである。


なにしろ、アシスタントが提示する情報はユーザー(あなた)が、優先的に受け入れてくれる可能性が高い。

消費者へのチャンネルとして考えると、かなりハイグレードな「狭き門」だ。


あなたに広告を見せたい企業側としては十分にチャレンジする価値があるわけで、しかも、アシスタント/エージェントが自然言語を完全に理解していない限り、そのチョイスは統計的な選択にならざるを得ない。


そこで必要となってくるのが『数値広告』なのではないかと考えている。


広告を出稿する側は、人間の購買意欲に訴える広告を制作すると同時に、デジタルアシスタントが判断しやすい一定のフォーマットで数値化した情報を提供し、それが、どのようなニーズのプロファイルを持つ人に向いた広告であるかを、あなたではなく、(マシンというかソフトウェアである)アシスタントに向けてアピールするわけである。


つまり数値広告は、人間ではなく、その手前で門番をしている「ソフトウェア自体に向けた広告」だ。M2M広告(Machine to Machine広告)と言ってもいいかもしれない。


もちろん、数値化できると言うことは比較も検証も容易だ。多くの人に届けたいがために、大風呂敷を広げたり、嘘をつく傾向の広告は、ヒット率の悪さからすぐにマークされ、その出稿者や配信者共々、悪いスコアを付けられてしまうだろう。


配信側は、より絞り込んだターゲットに情報をプッシュできるし、デジタルアシスタントは自分の責務を果たすことができ、ユーザー側は鬱陶しい広告に晒される機会が減る。つまり、「売り手良し・買い手良し・世間良し」で三方良しな「近江商人的広告配信システム」にできるわけだ。


この『スコア連動型広告配信プラットフォーム』を普及させることに成功したプラットフォーマーは、将来のネット広告において、そこそこ主導権を握れるのではないかと思うのだが、いかがだろうか?


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< ちなみに私は、金融でもマーケティングでもなんでも、人間の情動を中心に動いている物に対して、すぐに「○○工学」とか言い出す人たちが、とても苦手である。こういうのもすぐ誰かが「広告工学」とか言い出しそうである。>


< 私自身はスマホの音声アシスタント機能をまったく利用していないが、現時点で音声アシスタントの利用意欲がゼロである理由については、項を改めて書きたいと思う。>

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