流れる大河:ビッグデータの解析とビジネストレンド


昔は、物販などにおける職人技というか、長い経験に裏打ちされた勘やノウハウが、販売数の増減に大きな影響を与えていた。


簡単に言うと、晴れた日と雨の日で、弁当の仕入れ数をどの程度変更するか?といった話だったりするが、これは当然、弁当を仕入れて売る側だけで無く、弁当を作る側や、さらには降り出した雨に公園でのんびり昼食を取ることを諦めた人々が大挙して押し寄せてくることを踏まえて、社員食堂側がA定食をいくつ用意しておくか?という問題へと広がっていく。


昔はこういった判断も個人の能力に委ねられていたわけで、優秀なマネージャーという存在もわかりやすかった。


「勘所の良い商人」と言われる人たちも、これにあたるだろう。


だが、現代の世界は日を追うごとに複雑化している。

もはや、一人の人間の経験や勘で、世の中の動きを見極めることは難しい。


もちろん、これまで通りに考えて良い物、例えば雨の日の売店での弁当の売れ具合、などは今後も一人の人間の判断で賄えるだろうが、ビジネスが大規模化していくと、そんな悠長なことは言っていられなくなる。


弁当200個の仕入れであれば、見通しが違っていても頭をポリポリ掻くだけでなんとかなるかもしれない。損失を挽回するのも難しくは無いだろう。

だが、これが弁当20,000個になると、誰か一人の勘に判断を預けるわけにはいかなくなる。単に責任問題云々という話では無く、ちゃんとリスクを計算できなければ、大規模なビジネスを継続的に運営していくことは不可能だからだ。


どんなビジネス判断にも失敗の可能性はつきまとうが、失敗した時のリスクと、リカバリーできる可能性をそれなりに検討した上で取り組めるかどうかの違いは大きい。


それには根拠となる数字が必要だ。


それに加えて、複雑化している世界では「一つの出来事に一つの結果」というシンプルな因果関係で理解を済ませられる事象は加速度的に減少しているし、それらの相関や因果関係は、直接、人間の目に見える物ではなくなっている。


そこで、僅かな気温の差や、その日の朝のニュースの幸福度/不幸度などで変化する売れ筋商品など、人間の五感や経験では直接結びつけて捉えることが難しい、見えない関係性をデータマイニングの力で見つけ出して、次のアクションに活用していくのだ。


ビッグデータの(特にリアルタイムな)解析は、とうとうと流れる大河の水の動きを測るような物だと言える。


一見すると、いつでも一定量の水が下流に向かって流れているだけに見えるが、上流で雨が降れば一気に水かさも増すし、日照りが続けば水量が減ることを予測できる。また、流れの緩やかなところや早いところもあれば、渦を巻いているところ、場合によっては僅かな距離とは言え逆流しているところさえもある。


そして、流れに『変化がある場所やタイミング』には、必ずその『原因』が存在する。(例えば水面下に大岩があったり、水底が深くえぐれているなど)


それを見つけ出すことが、つまり、ビジネスチャンスを見つけ出すことだ。


現代社会で、特に大量生産品の製造販売における利益の創出は、もう、重箱の隅をつつくというレベルを超えて、売れる商品の変化などをリアルタイムにビジネス行為に反映させていかないと、収益率を高めていくことが難しい状況に陥りつつある。


社会システムの効率化についても同様で、交通やエネルギーなど、多種多様な分野と言うか、むしろ、すべての分野でビッグデータ解析が必要とされていく。

今後は企業活動も公共活動も、少なくとも「地道な部分」はすべて数字をベースにリアルタイムに動くようになっていくだろう。


では、数学以外で世の中を動かすことは難しい時代になってきているのかと言うとそんなことはなく、相変わらず人間社会は『言葉が生み出すムード』で大きく動いているのが面白い。


もっとも、その『ムードを生み出す言葉』自体までが、数字による分析に基づいて、計画的に提示されているのかどうかは知らないが...


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< いま起きている事象のリアルタイム解析は、投入できるリソース(計算力など)の制限に従って精度が変わる。上述の「川の流れを測る」という比喩で言えば、流れを測る棒を何本、川に差し込めるか?という感じだろうか。>


< 朝のニュースの傾向がハッピーだと、その日に売れる物が、明るい傾向(ファッションや小物など、幸福感を感じさせる物)になりがちで、ニュースの内容が犯罪や災害などで暗いと、防災用品が売れたり、外食せずに家にまっすぐ帰るのでお惣菜の売り上げが増える、といった説もある。残念ながら信憑性は知らないが、ありそうな話だとは思う。>

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