アンドロイド/サロゲートと仮想世界(その2)


もし、VR的な仮想世界では生きる喜びが長続きしない、と言うのであれば、人造サロゲート(ロボゲートもしくはサロボット?)の見た目や設定だって仮想世界の住人と同じように好きに変更できるのだから、「猫耳少女」でも「不死身の剣士」でも、好きな姿のサロゲートを操って、現実世界で適当に遊んでいればいいという考え方もできる。


その際、論理回路に移行した人間にとっては、もはや性別はオプション選択に過ぎない。


ロボティクスであれバイオメカニクスであれ、所詮は作り物のボディであることだし、その時々に好きな性別を選ぶことが、いや、そもそも『性別を決めない』という選択も一般化するかもしれない。


恐らくだが、肉体が性別を失えば、やがて心も性別を失っていくのではないかと考えられる。(誤解を招かないよう念のために書いておくが、これは現代社会のLGBT論議などとはまったく関係ない)


どのみち、サロゲート化社会では「子供を持つ」ということに対して、今とはまったく違うパラダイムが求められるだろう。

電子化した『死なない人々』が、自分たちの(オリジナル遺伝子に基づく)生物学的な意味での『子供を欲しがる』のかどうかは、その時の状況に居合わせてみないと分からない気がする。


いずれにしろ、どんなボディでも思いのままに選択できるという自由度に人々が順応していくことで、やがてサロゲートは、人間の姿をしている必然性すら失われるだろう。


イルカ型ボディになって海を泳ぐ。

けもの風ボディになって草原を駆け抜ける。

空を飛びたければドローンの知覚に乗り移ればいいだけだ。

(鳥は工学的に実現が難しい)

そして最終的には、生物の姿を模倣することすら無意味になっていくと思う。


それでも、サロゲートの活動する現実空間には、作り物ではないリアルと偶然性がある。そこで見る物、体験すること、あるいは失った物は、どれも誰かの作ったプログラムではなく本物の世界である。

ある日の朝焼けの美しさは、未来永劫、その一瞬にしか存在し得ない物だ。

また、ひとたび失われた物がリロードできることもない。


それにサロゲート自体の死は、単なる知覚端末の喪失コストに過ぎないから、どんな危険な冒険でも、アクション映画を見るのと同じように躊躇わずに飛び込めるだろう。


サロゲートがかなり高度な工業製品であるといっても、こういう世界はすでに大量生産・大量消費から転換した、オンデマンド工業社会になっていると思われるので、裕福な人々は、趣向を凝らした多彩なオリジナルサロゲートを作成して楽しむのではないだろうか?


結局、またしても与太話に始終してしまった気もしなくもないひていのれんぞくが、精神を電子化するところまではたどり着いたものの、サロゲートの作成・維持コストを負担できない人々や、それに意義を感じないという人々は、そのままVR世界のみで生きていくだろうと思う。



そしていつか、数百年後か数千年後にか、「寿命」という概念を失って久しい人々が、仮想世界も物理世界も考え得るすべての遊びやパターンを体験し尽くして、『不死の人生に飽きる』ような日が来るのかもしれない。


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< 論理回路上の精神が、なぜ、サロゲートが送り込んでくる情報を『リアルである』と判断できるのか・知覚できるのかは、認知科学上の別の問題を含んでいるので、とりあえずここではSF談義ということでスルーさせて頂きたい。>


< 『不死の人生に飽きる』ところまで到達した人類は、そこでさらに世界を拡張しようとするか、自己を拡張しようとするか、それともそのまま消失しようとするか、むしろ、その先が大変興味深い。>

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