知識に対する探究心


以前、電車の中で面白い会話を小耳に挟んだ。


サラリーマンとおぼしき一団だが、少しマスコミ業界っぽい雰囲気も漂わせている。その中のどうやら先輩格らしい人が、若手らしき人に向かって『どうやって情報を仕入れているのか?』と聞いていた。


若手さん曰く...


「ネットですね。とにかくネットの情報をどんどん読み込んでいきます」 という、予想通りの返事。


それに対して先輩は、「一つのテーマに絞ってさあ、関係する本を読み込んだりとかしないの?」 と聞いてきた。


若手さん、「本はぜんぜん読まないですねー!」 と、これまたあっけらっかんと予想通りの返事。


すると先輩さん、言いたかったことをサラっとそこに被せた。


「今の人ってさ、学習に対する意欲ってか『闘志』がないよね。それに『投資』、インベストもしないよね」 と。


なるほど、うまいこと言う...。


若手さんも返事のしようがなくてさぞ困っただろうと同情したが、先輩さんのダジャレというかツッコミもなるほどという感じで、少々面白いやりとりだった。



この先輩氏が若手の将来に憂いを抱いていたのか、それともウマいこと言いたかっただけなのかはさておき、若い人ほど『本を読まない』のは事実に思える [要出典]。


誤解の無いように言い添えるならば、『字を読まない』のでは無く、コミュニケーションやエンターテイメントでは_無い_文章や書籍、特に『論説を読まない』と表現してもいい。


多彩な掲示板やSNS、それにこのサイトのように、ネットでの情報は文章で表現することが標準であり、ネットでのアクティビティの高い人ほど膨大な量のテキストを日々処理している。

むしろ、単純な『文字の処理量』で言えば、普通に本を読んでいる人よりも多かったりするかもしれない。


ただ、それが、より有意義な『情報』をインプットしていることになるのかと言うと、正直に言って疑問であり、私も件の先輩氏に一票を入れたくなる気持ちがある。

個人でも組織でも、『専門性に対する長期的投資』の難しい時代であることは、割り引いて考えなければいけないとは思うが...まあ、『闘志』というのは少々大げさとしても、『探究心』の希薄な人が多い、とは言える気がする。


情報量はビットだけで計れない。(もちろん、ここで言うビットはシャノンの言う情報量の1ビットではなく、単純なデータ量のことだ)

密度が高く信憑性の高い書籍情報の200,000文字と、散漫で真偽の怪しい掲示板やブログ情報の200,000文字では、実際に得られる情報の品質が違う。(個人の感想です)


ある分野に対して何年、何十年も関わったり研究を積み重ねてきた人物の論評と、掲示板に書き込まれた表層的なコメントを同列に扱うことには違和感を持って当然だろうと思う。


と、ここまで書いて自分を振り返ってみると、ここ数年で急速に読書量が減ってきていることに愕然とした。


偉そうなことを言っている割に、自分自身も書籍からのインプットはダダ減り傾向で、その『読書が減った時間』が、ほぼ『ネットへのアクセス』に充てられていることは明白だ。言い訳できない。


無論、ネットの無かった時代よりも今の方が、ニッチな分野に関しても圧倒的に得られる情報量は多いし、全体の状況として今の方が悪いなどという風には決して思わない。


だからこれは、ネット批判でもメディア批判でも無く、とても単純に、今後の社会で、『学習と情報収集のスキーム』をどうつちかうか、についての話だ。

また、情報に対する審美眼というと大袈裟だが、『ふるい分け能力』を養うにはどうすべきか? という観点も求められる。


上述の例で言えば、書籍情報の200,000文字よりも、ブログをサーフィンした200,000文字の方が、遙かに多くの情報を集められるはずだが、獲得した情報の量と思考の高度化が『必ずしも比例しない』という点には留意する必要があるだろう。


平たく言えば、単に総量としてのインプットが多いこと、それも次々と流し込んでいくことが、すなわち思考を深めることになるとは限らない、と思えるのだ。


『飲み込んだ物には消化する時間が必要』だというのは、ちょっと悪いメタファーかもしれないが。


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< クロード・シャノンは『情報理論』の始祖であり、ぶっちゃけて言えば現代の情報化社会というか、情報を扱う考え方と技術は、原則として彼の理論の上に構築されていると言っても、あながち間違いでは無いと思う。>


< 言うまでも無く、自らにインプットする情報の篩い分け能力がマイナスに作用している状態が、『フィルターバブル』だ。>

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