本棚と背表紙と、見えていることによる『気づき』
作業用の資料のように『能動的に向き合う情報』では無く、特に目的も無く置かれていた情報がふと『気づき』をもたらしてくれるケースは多い。
その場合、目に入ってくる情報は、簡潔で、バラエティ豊かで、十分な数を一覧できることが大切だ。
つまり、日常生活でもっともそれを提供してくれるのは書架である。
絞り込んで言うならば、本棚に『ぎっしりと並んでいる背表紙』だ。
非常に『
一般論として、一覧できる状態の書籍が、どのくらい手元にあるのが適切なのかは考え方によるだろう。
公立図書館のように膨大にあっても、知的な『コンバージェンス』を引き起こすほどの密度にできるかというと、逆に難しい。理論整然とした分類に沿った配列が、逆に、一度に見えている物の範囲〜バラエティを狭めてしまうからだ。
例えばの話であるが、恐らく公共図書館の「旅行記・風土記」ゾーンの「欧州」の棚のところに、純粋な小説である「ユリシーズ」は置かれていない。
しかし、この小説がダブリンでの一日を舞台にしていることを知っている人にとっては、これが「欧州>ブリテン諸島>アイルランド」という棚で、旅行ガイド本の「ダブリン・シティガイド」と並んでいたりすれば、クスリと笑って、何かのインスピレーションを得るかもしれない。
逆にユリシーズという本の存在をまったく知らずに、ただ今度の休暇にアイルランドに行ってみようと考えていた人が、シティガイドの隣に置いてあったユリシーズを「これは何かな?」と、ふと手に取ってみることで、新しい世界が開けるかもしれない。
同じ本が「歴史」という棚で、「二十世紀初頭」のゾーンに置かれていたり、「ガリア戦記」や「オデュッセイア」と並んでいたりしたら、とんと手を叩いて、先ほどとはまた別の感慨を呼び起こすことだろう。(ユリシーズの構成はオデュッセイアを元にしている)
ちなみに上述の例はイージーな連想ゲームのようなものなので、ネットショッピングにおける「リコメンドの提示」と同じように感じるとは思うが、実際には、知的コンバージェンスの本質は「リコメンド」とまったく異なる。
ともあれ、本来の分類であれば『並んでいるはずがない』もの同士が、一時的に交差していることで生み出されるインスピレーションは膨大なのだが、公共図書館では、十分な数の素材がある代わりに、万人が利用できるフレームに収められている状態を受け入れるしかない。
これが個人の書架であれば、上述のような配列も所有者の好みで思いのままだ。もちろん、並べること自体は恣意的だが、しばらく経って、それも数日とか数週間とかの単位で時間が経過した後に、思わぬ効果を発揮したりするだろう。
個人の本棚は素材となる本の量は圧倒的に少ない代わりに、フリーダムな配列で、劇薬のようなインスピレーションをもたらすことも可能になるかもしれない。
だから、読書家の人々が本棚にずらりと背表紙を並べているのは、(私のような)知的な見栄張りでも、所有欲の表れでも、単なるコレクションの誇示でも無い。
それは、入手した本を最大限に『活用』するために必要なことだからだ。
そもそも、本を借りるのでは無く、購入して『手元に永続的に置く』理由は、読みながら本に「書き込みをしたいから」という人も多いと思う。
これは、読書と同時に頭を動かすことを重視しているわけだが、それと同じ理由で、読み終わった本を段ボール箱に入れて、物置やトランクルームに積み上げていたのでは所有している意味が半減である。
もしあなたが、それなりの数の蔵書を持っているとしたら、時々、気紛れに本棚の中身を並べ替えてみるのも良いと思う。
ただし、この時に『本を手に取って眺める』ということも重要なプロセスなので、この作業は誰かに依頼せずに、自分でやるべきだ。
その際、未読書籍の多さに心を痛めるのも修行のうちだと考えよう。(個人の事情です)
もちろん、ランダムな並べ替えに意味があるか? あるいは、気軽にやってられるか? は蔵書の量にも左右されるだろう。
蔵書が非常に多い方は、逆にそんなことをやったら、後で目的の本を探しにくくなってしまうかもしれない。
そういう場合は、書斎の一部かデスクの脇に小さな本棚を別に置いて、適当な本を分類に関係なく並べる『ピックアップコーナー』を作ってみるのがおすすめだ。
これはごく少数の本、例えば10冊や20冊でも構わない。
ただし、ここに「好きな本」を集めては駄目だ。そんなことをしたら、うっとり眺めているだけで大したインスピレーションも得られずに終わってしまうし、一度並べるとシャッフルしたくなくなる。
だから、本棚をざっと見渡して、目に付いた本を考えずに集める、という方がいい。
そして、このコーナーに並べる本は、週替わりとかで、能動的にどんどん入れ変えていくのだ。
内容は、時々パラパラとめくってみるぐらいでも十分だし、まったく開かなくても構わない。これは「読書」では無く、脳のストレッチ体操なのだから。
いや、読まないことの言い訳ではなくて、本当に、本当。
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< 工学系の本の脇に動物学や生命科学の本があるくらいはいいのだが、自然科学の本と小説などの創作を一緒に並べたり、紀行文と情報科学の本が交互に置かれていたりすると、どうにも落ち着かないという人が大多数かもしれない。
しかし、それでも、たまには気儘なインスピレーションに委ねて、思いつくままに本の並びを入れ替えてみるのはいかがだろうか?>
< 一冊単位でごちゃ混ぜにするのが受け入れられないというのなら、棚の一段ごとに分野を変えたり、あるいは分類自体は崩さずに、同じ分野の中で配列を並べ替えたりといった遊びをしてみるのも良いかもしれない。>
< 物理的な書棚の問題、etc.で並べ替えに気が進まない場合は、仮想的な代替手段をとるのでもいいと思う。それについては、また項を改めて検討したい。>
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