アクセスポイントにされるサイボーグ


以前のコラムで、サイボーグパーツ(士郎正宗氏的に言うと義体)がサブスクリプション(月々定額)モデルで提供されるようになり、その料金を支払いたくない人は、広告付きのパーツを使って『歩く広告塔』にさせられるかもしれない、と言う与太話を書いた。


その配信されてくる広告が、例えばボディの近くにホログラムで浮かび上がるとかであれば、鬱陶しいとは言え、大きな害は無いかもしれない。

また、皮膚が『電子ペーパー』になっていて、入れ墨的に表示されるというのでも、周りの人がみんなそんな状態であれば、恥ずかしくも感じなくなるだろう。


(現在でも特殊な染料を使った消去可能な広告入れ墨は実在するそうだし、そもそも手足がサイボーグパーツであれば、入れ墨程度は書き換え可能なペインティングと変わらないファッションになる)


勝手にアダルト広告を表示されたらたまった物では無いが、現実的には、そのあたりは人権に関わってくるので制限されるだろうと考えられる。


難しいのは、無料会員に課せられる義務が、見えない物に及んでいるケースだ。


例えば、身につけているサイボーグパーツが、ワイヤレスネットワークの『アクセスポイント』や『中継ステーション』として機能させられているとしたらどうだろう?


それでも、自分の活動に悪影響が無ければ、特に不快とは思わない人が増えていくだろうと思うし、位置情報でプライバシー云々というのは、ネットに繋がったパーツを装着している時点で、心配しても意味が無い。


そこで、例えばリアルタイムで近隣にいるサイボーグパーツ同士がアドホックなメッシュネットワークを作成して、互いに広告コンテンツを配信しあったり、分散エッジコンピューティング的な協調動作を行って、クラウド側との通信に使う帯域を節約したり、あるいはデータセンターのCPU負荷を部分的に肩代わりしたりするわけだ。


ひょっとしたら、広告配信の代わりに、内蔵CPUでブロックチェーン(仮想コイン)のマイニングをさせられる、というオプションもあるかもしれない。


ただ、そうした場合は、ボディパーツも他のIoT機器と同じように、大きなセキュリティリスクに晒される、と言うことには留意しなければならないだろう。

広告配信ネットワークでも、機能制御のためのM2Mネットワークでも、常時オンラインになっているという意味では同じだが、アクセスポイントやゲートウェイの様に外部からの攻撃を受けやすい機能を持っていると、その潜在リスクも跳ね上がる。


これが乗っ取られた際には、名実ともに『BOT』になってしまうわけだ。


攻撃者のBOTネットワークの一員となったボディパーツは、知らぬ間に次の攻撃の踏み台されてしまったり、近隣のサイボーグ広告へスパムを垂れ流してしまったりするかもしれない。

しかも、人口密度の高い場所に集まるほど、その影響は拡大していく。


究極的には、サイボーグパーツそのもののコントロールを乗っ取られる危険性さえある。


そして、ある日こんなことが起きるかもしれない。



突然、あなたの足は、あなたの意思に反してどこかへ向かって歩き出す。

気がつくと、同じように強制的に歩かされている人々が周囲に大勢いるようだ。

それらの人々は、みな同じ場所に向かっているらしい。

やがて、見えない力で街中の広場に集められた人々は、軍隊のようにきれいに整列したと思うと...


突如パーツ内から流れ出すマイケル・ジャクソンの名曲「スリラー」にあわせて、見事にシンクロした動きで踊り出してしまうのである。


こういう『サイボーグ・フラッシュモブ』のクラッキングを手軽に行える攻撃コードが、いたずら好きなスクリプトキディの間で広まってしまったりすると、ものすごく嫌だ。


しかも、その様子は間違いなくYouTubeにアップされるだろう。


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< もちろん、有料のプレミアム会員になれば、そういうリスクとは無縁になるはずで、YouTubeにアップされた人々は全員、無料会員であることが露呈してしまうわけである。>


< 本人の意思をねじ伏せて踊らせるサイボーグ・フラッシュモブの様子は、古いコメディホラー映画「ビートルジュース」のワンシーン、バナナボートを彷彿とさせるかもしれない。>


< 遠い未来ではあると思うが、もし実際にこういう事件が起きたとしたら、それは「いたずら」で済むはずは無く、間違いなく「大規模テロ事件」として扱われるはずだ。スリラーを踊らせる代わりに、周囲の人々へクンフーによる無差別攻撃を行わせることも可能なのだから。>

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