GUIにおけるアフォーダンス 〜 フラットデザインの功罪


製品をデザインする上でアフォーダンスをどう成立させるかにおいて、三次元の物体は、把手とかボタンとかダイヤルとか、対象としている人が見慣れているであろう要素を、立体物としてストレートに造形できるので問題は少ない。


これが、平面上の『濃淡と色差だけ』ですべてを知覚させなければならないGUIの場合は少々やっかいだ。

操作の対象となるオブジェクト、つまり、ボタンやスライダーやダイヤルは、すべて、擬似的に表現せざるを得ない。


だから、見ただけで「これは動かせるものだ」と分かって貰えるデザインにしなければならない...本来なら。


含みのある言い方をしたのは、必ずしもそうはなっていないという現状があるからだが、これも、デザインに失敗してそうなっている(そういうものも山ほど有るが)とは限らず、意図的にそういう『わかりにくい』デザインを採用しているケースも多い。


代表的な物が、大ブームになっていた『フラットデザイン』だ。


平たく言えば、現実の物体を絵画的に再現しようとするのはやめ、疑似的な立体感を表現する陰影もつけないことで、見た目をすっきりさせる。

Windowsで言えば、Windows Vistaや7までと、8以降の画面の違いを考えて頂けるとわかりやすい。


以前は、なんとかボタンの凸凹などの立体感を感じさせようと、陰影の付け方や、リアルな描写に腐心していたのに、iOSのフラットデザイン化に影響を受けてなのか、様々なデバイスやWeb画面に至るまで、UIのデザインが一気にフラット化に走った。


ただ、フラットデザインの難しいところは、その『操作すべき対象の存在感』が希薄だと言うことだ。


では、なぜ、あえてそんなデザインを採用し、しかもそれがブームになったのか? 


フラットデザインの分かりにくさや使いにくさを批判することは簡単だが、なぜ、それが流行っていたのかは検討する必要があると思う。



正直、どちらがビジュアル的に『カッコイイ』と思うかと聞かれると、個人的にはフラットデザインの方である。昔ながらの、現実世界のオブジェクトを忠実にイラスト化して画面に再現したようなインターフェースはダサいと感じる。(個人の感想です)


では、昔は画面のグラフィックデザインにおける自由度の高さをわざわざ無駄にしてまで、現実世界の物体を模倣しなければいけない理由はなんだったか?というと、それは「知覚のアフォーダンス」を成立させるためだった。


しかし、分かりやすさの基準は、ユーザーの常識や、学習や、経験によって容易に変化する。


平たく言えば、多くの簡単なモノの扱いは一回か二回、自分で動かせば覚えられるものだ。

これは、ドアノブやダイヤルつまみのような物理的なモノでも、画面上の仮想的なモノでも、存在さえしっかり知覚できれば変わらない。

利用者が学習を重ね、「たぶん、これがスイッチだろう」と想像できれば、クリアできる問題だと言える。


だとすれば、カッコ悪く、無駄に表示面積を消費する上に、利用者が概念を習熟した後では特に操作性に優れているとも言えない「リアル機器模倣インターフェース」に大きなメリットは無い。


結論を言ってしまえば、コンシューマー製品のUIには、理屈の上での使いやすさや論理的一貫性などよりも、そして往々にして「分かりやすさ」よりさえも、『カッコよさの方が大切』だ。(個人の感想です)


多くのエンジニアが忘れがちなことだが、工業製品は(ハードウェアであれソフトウエアであれ)、お金を出して利用者に購入して貰うことが最終目的である。


言い方を変えれば、『組織の収入を生み出す』ために世に放たれているのだから、売り上げに貢献しないロジックに忠実であるよりも、売り上げをアップさせる魅力的な見た目に誂える方が、(職業倫理的に好ましいかどうかは別として)企業活動として正しいということだろう。


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< さすがに最近では、単なる見出しとリンクを判別しがたいほどの行き過ぎたフラットデザインは下火になっており、ボタンやアイコンにもグラデーションや微かな陰影などで立体感を持たせる方向に揺り戻してきたと思う。>


< スマホのUXで一般化している『ジェスチャー操作』に関しては、視覚上のアフォーダンスとは別の大きな問題を感じるので、いずれ書いてみたい。>


< ちなみに、実のところ私はフラットデザインが好きだというわけでない。>

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