AI、CG、3Dプリントによる『大量生産と消費者の時代』の終焉
3Dプリントと呼ばれる積層型造形加工技術の進歩が著しい。
昔から有るNC加工と何が違うかというと、『削る』のではなく『積み上げる』ことによって複雑な三次元造形を作り出していけるので自由度が高い。
切削型の加工の場合は、最終結果よりも大きなインゴット(固まりの素材)が必要だが、プリントであれば原料も無駄にならないし、そこそこ複雑な形状も一気に作り上げることができたりする。
そこで、今後ますます3Dプリント技術は進化していくだろうと思うのだが、これは、多くのモノが『作成データ』さえあれば、必要なときに一個ずつオンデマンドで作れるようになる、ということでもある。
また、製品が『モノ』ではなく『デジタルコンテンツ』であれば、CGなどをベースとした自動生成技術が大きな割合を占めていくようになるだろう。
これは映像だけの話では無く、音声/音響でもテキストでも変わらない。
AIが発達すれば、映像でも音楽でも文章でも、ニーズに応じたコンテンツをオンデマンドで生成できるようになっていく可能性は高い。
そうして、一点モノの工業製品の品質と製造コストが、大量生産と大差なくなって来た時に何が起きるかと言うと、大量失業と世界恐慌である。
ちょっと突飛な話に過ぎただろうか?
なぜそういう結論になるのかと言うと、大量生産を支えるために不可欠だった『消費者』と言う存在が不要になるからだ。
従来型の社会システムでは、高度な工業製品を生み出すためには、大規模な製造体制を維持する事が必要だった。これは、製造工程だけで無く、資源採掘から製品開発や次世代への研究まで、一貫して変わらない。
それが、AI技術などの発達によって、大量生産品と大差ない機能と品質のものをワンオフで製造できるようになり、また設計や研究開発の大部分をAIでカバーできるようになると、これまでは必須だった下支え、つまり、工業化社会の基盤そのものが不要になる。
だから、経済成長も必要ない。
天然資源の採掘は大規模にやらなければ採算分岐点が上がりすぎるので、地球上でオンデマンド化することは無いだろうが、それでも、残り少ない天然資源を大切にするためには、掘ったモノに関しては少数の富裕層だけで独占していた方が良いだろう。
同じく規模の経済がものを言う社会インフラの整備は、富裕層が自分にとっての必要を満たす範囲を重点的に行うことになる。
これまでのような国土全体の整備では無く、富裕層が集まって暮らす『鎖国的』な閉鎖エリアを対象として資金と技術が投入され、他のエリアは税金のみの維持で賄える最低限のインフラを、更新もせず、だましだまし使っていくことになるかもしれない。
そうなると、十分なAI化・自動化が進んだ世界では、作ったモノをさばくための『市場』も必要なくなる。市場が必要ないということは、大量の消費者が必要ないと言うことだ。そして、労働力も消費者も必要ないと言うことは、沢山の人口そのものが必要ないと言うことだ。
(富裕層にとっては)むしろ、人口は多すぎない方がいいという結論になる。
これは(私個人としては)非常に近視眼的なものの見方だと思うが、時の権力者や政治家、大資本家たちが、常に目前の利益に囚われた意思決定をしてきたことは歴史が証明している。
言うなれば、それは人間という種が平均的に持つ精神の限界なのだろう。
つまり、ディストピアは独裁政治の暴走とか権力欲とか政治的な衝突や戦争から生まれるのでは無く、とても単純に、工業化社会のルールを変える『オンデマンド製造技術』と、『資本の格差』と、それに富裕層の『独占欲』から生まれるという、SF的仮説である。
ものを作る過程が変わる、それもパラダイムシフトと言っていいくらい劇的に変わる場合、必然的に社会基盤も変わってきた。
そう考えると、むしろ現在の『大量生産・大量消費と飽食の社会』こそ、ここ百数十年だけの一時的なブームで終わるのかもしれない。
今の社会は、鉱物資源と石油のもたらしたゴールドラッシュなのだろう。
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< もちろん、『大規模市場が不要になる』というのは『SF的』な発想であって、完全なオンデマンド工業社会の実現に際して越えなければいけない技術的ハードルは、かなり高い。
(仮に起きるとしても)、そうそうすぐに訪れる世界では無いだろう。
また、そこで実際に『消費者不要の世界』を成立させうるかどうかは、自分で言っておきながらなんだが、非常に微妙だと思う。>
< それとは別の視点で、オンデマンド工業社会へのスムーズな移行に失敗したときは、『庶民にとっての世界恐慌』ではなく、富裕層の蓄積した資本も含めて、世界経済全体が機能喪失する可能性もある。これについては、いずれ項を改めて考えてみたい。>
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