AIが人間の仕事を奪うかという議論(その1)


AIがらみでよく登場する言葉である、『シンギュラリティ(特異点)』というのは、一般的にAIが人間の知能を越える賢さを持つ時点、と解釈されている。


この賢さというのは、単なる計算力(それはもう、とっくの昔に人間を越えている)ではなく、情報を読み取る力や、一見、無関係な情報を繋げていく能力、洞察力など、総合的に人間と同じように世の中を知覚し、人間以上のパフォーマンスを発揮できる、と言っていいだろう。


平たく言えば、『人と同じように世界を知覚できるようになること』そして、『情報処理に関することは何をやらせても人間以上』になることだと解釈してもいい。


< たまに、このシンギュラリティをSFチックに『AIが自意識や感情を持つ時点』と解釈する向きもあるが、『自我とは何か?』『感情の正体は何か?』というのは、また別の議論になるのでここでは置いておきたい。>


ともかく、このシンギュラリティが来る・来ないという議論とともに、必ずと言っていいほどセットになっているテーマは、AIの台頭で『人間の仕事がなくなるのか?』という話だ。


大多数の人にとっては、ほとんどの生産的活動がAIに取って代わられても仕方が無いと思うし、その中で『人間らしさ』を求める人も、それを生成できる人も、ごく少数だろう。


個人的な結論から言うと、ほとんどの人間の仕事は、いつかはなくなる訳で、それが『いつ頃までに・どのような変化を伴って』という話でしかない、と考えている。


その理由は、以下のように要約することができる。


・資本主義社会における経済活動において最も重要なのは『コスト対効果』である

・AIの作業効率と品質が人間並以上になれば、課題はコストのみである

・従って『AIよりも人間の方が費用が安い』作業に関しては人間の仕事が残る

・資本主義社会の冷徹な原則として、高単価で低リスクな仕事は食物連鎖の上位に位置する


(個人の感想です)


さて...『AIよりも人間の方が単価が安い』から、人間が使われている仕事が、『人間らしい仕事』や『人間にしかできない仕事』だと言っていいのかどうかは、個人的には甚だ疑問だ。

いや、理屈としては間違っちゃいないのかもしれないけど。


これに関して何が起きるかは、すでに製造業各社の工場自動化の流れの中で実証されている。


工場などでの生産行為を自動化したとき、人員の配置換えに応じて必ず言われることが「機械の得意なことは機械に任せて、人間は人間にしかできないこと・人間の方が得意なことをやればいい」という主張だ。


単純に考えても、社員の数を減らさずにロボットやAIを導入(つまり設備投資)して、自動化『も』進めているというのならば、かなりのコスト増しであることは確実だ。

それに耐えきれるだけの成長規模と競争優位性を持っている会社以外には不可能だろう。


そして、工員だった方々の配置転換が行われるわけであるが、その行った先は、元いた場所よりも人間らしくハッピーな職場なのだろうか? 

創作や芸術的な素養が求められる職場なのだろうか?

余暇が増えて収入が増加したのだろうか?


少なくとも、『AIに仕事が奪われる事は無い』と言うのならば、子会社に移籍とか、レイオフとか、非正規化なんてことはないですよね?...と言うのは嫌みだな。答えは分かっている。


皮肉や冗談はともかく、単純作業が機械化されてきたのと同じように、複雑で高度な理解や判断が必要とされる作業も、徐々に機械化されていく。


それは必然であり、そこには、不思議なことなど一つも含まれていない。


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< まれに、『産業ロボット』に仕事を奪われることを、『AI』に仕事を奪われることにカウントしないというか、それはそれ(工業的作業)で、こっちはこっち(知能労働)の、別の話だと言いたがる人に出会うことがあるが、AIなくして産業ロボットの高度化は成り立たないので、詭弁だと思う。>


< 大変不思議なことだが、人間の仕事がAIに奪われるという事象が『起きるはずが無い』、いや、むしろ『起きると認めてはならない』という信念を持っている人がまれに存在しているようだ。>


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