第3章〜解放〜第30話任命
ーヴォルス一族が復活を遂げていた頃。ー
「おじさん、肉まん1つ。」
そう店の主人に話しかけるのは、茶髪のくせ毛を一つに束ねた、スタイルのいい女。
「あいよ。姉ちゃん美人だから1つおまけしとくよ。」
「あら、ありがとう。」
そう言って女は微笑むと、歩きながら肉まんを頬張る。
ブクッ。
「ヒヒッ、そろそろかな。」
沢山の研究道具に囲まれ、不気味な笑い方をする男。
一応研究者らしく、白衣を着ている。
「この僕が、姫を復活させてみようじゃないか! 」
ポンッ。
「わーすごい! 」
「もう一回やって! 」
パチパチパチ…。
手品をやって、注目を浴びている黒髪短髪の男。
「ありがとうございます。では、次はこの鳩を消してごらんにいれましょう。」
微笑みながらそう言って、男は次の手品を披露するのだった。
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あれから一ヶ月がたった。
この一ヶ月、色んなことがあった。
そして、傷も癒えてきた今日、私達はヴォルス一族という悪い人達が復活してしまった為に、正式に女王直属部隊となることになり、任命式をすることになった。
「ーあなた達を女王直属部隊、アルコイリーズとして正式に任命します。」
「はい。」
私達はレイ様とレオ様の前に並んで、話を聞いていた。
私は一応、隊のリーダーなので、レイ様の言葉に代表として答える。
「世界を、ヴォルスから守ってください。」
「…かしこまりました。」
そんな感じで、任命式は終わった。
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「あーあ、退屈だったぜー。ずっと話聞いてるだけだしよー。」
廊下を歩いている途中、のびをしながらそう言うのは焔。
「そうだよねー。服もなんだかきついしさー。」
そう同意するのは星太。
今日は任命式だからと、雪奈や光樹にさんざん言われ、みんなスーツを着て城にきた。
全員いないと失礼だからと旭までひっぱってきた。
「だから言っただろう。1人くらいいなくても大丈夫だって。」
「それはダメ。」
さっそくネクタイを緩めながら話す旭に、モカがそう言う。
「とりあえず終わったし、後は帰…。」
私がそう言いかけると。
「なぁ、いいのか? 正式任命なんかしてよ。」
「さぁな。女王様の考えたことだ。俺たちが口出し出来ることじゃない。」
「でも、あいつらのせいでヴォルス一族が復活したって話じゃねぇか。」
「ああ、しかも目の前で逃げられたって話だぜ。」
そんな、庭で話す王国軍の隊士達の会話が聞こえてくる。
私は思わず立ち止まり、そちらを見て目が合ってしまう。
「あっ…。」
「おい。」
「ああ。」
あちらはすごい顔でわたしを睨んできた。
先に進んでいるみんなを早く追いかけないと、と思っているのにそこから動くことができない。
「…そうだね、早く帰ろう。」
その時、私の後ろからきた光樹がそう言って私の手をひいた。
「う、うん。」
私はその手についていくことしかできなかった。
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『俺も、姉ちゃんみたいに強くなる。』
出発の朝、そう言ったのはすっかり元気になったリク君。
てっきりもう駄目だと思っていたのだけど、雪奈いわく、死んでいなければ大抵は治療できるらしい。
『だから大きくなったら、俺もアルコイリーズに入れてくれよな! 』
『ははは…。』
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リク君が元気になったのはよかった。
でも、リク君の言葉に、私は心から笑うことが出来なかった。
だって…。
『あいつらのせいでヴォルス一族が復活したって話じゃねぇか。」
ーそれは事実だから。
正確に言うと、私が復活させたようなものだ。
リク君はずっと寝ていたから、村からヴォルスを追い払ってくれた英雄として私達を見ていた。
「みんなは気にするなって言ったけど…。」
そう言って、私は下に池がある丘に寝転がる。
「食べるかい? 」
その時、そんな声と共に肉まんが私の前に差し出される。
「え…? 」
「いや、いつも1つ多くもらうんだ。だから遠慮はいらない。ほら。」
そう言って私の隣に座ったのは、茶髪でくせ毛のスタイルがいい女の人。
「えーっと…何で私に? 」
私が体を起こしてそう言うと。
「あんた、なんか元気なさそうだったからさ。」
女の人はそう言って、早く受け取れと言わんばかりに肉まんを再度差し出す。
「はぁ…。」
訳が分からないまま、私は肉まんを受け取る。
「おいしい物を食べて、話をすれば少しは元気になるよ。私でよければ聞くよ? 」
「…ていうか、あなた誰ですか。」
「んっ? ああ私? 私はカルラ。あんたは? 」
肉まんを食べ終わった女の人はそう名乗る。
「…結希です。」
「へぇー結希ちゃんか。で、結希ちゃんは何でこんなところで寝っ転がってたの? 」
「…仕事で、取り返しのつかないミスをしたんです。」
「なるほど。それで黄昏てた、と。でもさ、ミスなんて誰でも起こすものだし、そんなに気にすることないって。」
カルラさんは私の背中を軽く叩きながらそう言う。
「でも…。」
私のミスは…私のしたことは本当にとんでもないことだ。
「それに、どのくらいのミスか分からないけど、いつまでもくよくよしてたってはじまらないよ! 次同じミスをしないよう、頑張るしかないじゃん。」
「それは…。」
「今やることを頑張らないと。やることない? 」
やること…。
今、私がやるべきこと…。
『この国を、ヴォルスから守ってください。』
私の頭に、レイ様の言葉がよぎる。
「…あります。」
「なら頑張らないと。んっ? 」
カルラさんがそう言った直後、カルラさんのシープが鳴る。
「…どうやら私も仕事みたい。またね。」
メールを確認すると、カルラさんはそう言って行ってしまった。
「…今やるべきこと、か。」
そう言って、私は冷たくなった肉まんを食べた。
…確かに、ヴォルス一族を復活させてしまったのは私だし、私にはそれを倒す義務があるのかもしれない。
でも私にはそんな強いちからなんて…。
ていうか、元の世界にいつになったら帰れるんだろう…。
[つづく]
希望の虹 藻 @hah
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