第29話 挨拶


「光…樹? 」



私の体を支えている見覚えのあるその人物は、体のあちこちに包帯を巻いていた。


「俺もいるぜ。」



そう言いながら森から出てきたのは焔。


後ろには雪奈と……。


「…レミ? 」



そう言う私の視線の先には、レミの面影はあるけど仔犬ではなく、私よりも大きい犬のような獣がそこにいた。


銀色の毛はとても美しく、尾は2つに分かれている。


「そうよ。」


『ああ、結希はこの姿見るの初めてだったわね。これが私の本来の姿。(ワン。)』


「そう…なんだ…。」




とりあえず、今目の前にいるのはレミということだ。


詳しいことは後で聞こう。


それより今は。



「アルコイリーズ…か。お前達もどこまでも邪魔をしてくれる。」



焔の攻撃が直撃したはずの長髪の男の人がそう言う。


直前で避けたらしい。


男の人の声を聞いたとたん、光樹と焔が私の前に立つ。


「ヴァン…。」


「見ろよ光樹、封印がとけてるぜ。」


「ごめんなさい…私が…私のせいで封印がとけて……あっ! それからリク君が刺されて…雪奈! 」


「分かったからまず落ち着きなさい。それに、あなたも怪我をしているじゃない。」


「私は別に……。」



光樹達の反応からするに、やっぱりこの人達が封印されていたヴォルス一族なのだろう。


私はとんでもないことをしてしまったのだ。


「ええ、姫様の力によって封印をとくことができました。感謝しますよ。」



ズダダダ!



「黙れ。」



光樹はタツキさんに攻撃をした後、聞いたこともない低い声でそう言う。


顔も物凄く怖い。


タツキさんはその攻撃を、土の壁を作って防ぐ。


「別に真実を言ったまでですよ。」



土の壁が崩れるのと同時にそう言うタツキさん。


「ヴァン様、邪魔も入ったことですし、そろそろ行きましょう。」


「そうだな。」


「逃がすと思ってるのかよ! 」


そう言って焔は炎を纏った剣をかかげて2人に向かっていく。



ブアッ!



だけど、突然の突風により焔の体は森の木に叩きつけられる。


「ぐはっ…。」


『焔! (ワン! )』


「暑苦しいわね。そこで黙ってなさい。」



焔を吹き飛ばしたらしい鉄扇を持つ女の人はそう言う。


「…! 雪奈! 結希を守って! 」



何かに気づいた光樹はそう言うと、前に走っていく。



ガキィィン!



光樹の剣を、いつの間にか近づいていたヴァンという男の人が受け止めた。


「無駄だ。」



男の人はそう言うと、自分の剣で光樹を剣ごとはらう。


飛ばされた光樹は、地面に転がった。


「ぐ…雪奈! 」



ブアッ!



光樹が叫ぶのと同時に、男の人が剣を振り、黒い霧が私達に襲いかかる。


それを見て、雪奈はすぐに私の前に立ち、目の前に雪の壁を作った。


「くっ! 」



ピキッ。



だけど、作ったそばから壁にはひびが入る。



…ピシィィ!



そして次の瞬間、雪の壁は壊れてしまう。


「伏せて! 」



雪奈はそう言って、私に覆い被さる。


そしてそのまま、私達は黒い霧によって吹き飛ばされた。







「う……せ、雪奈! 」



黒い霧が止み、私が痛みを堪えて起きあがると隣に雪奈が倒れていた。


雪奈だけじゃない。


光樹も、焔も、レミも、あの王国軍とかいう人達も。


私以外みんな倒れていた。


「そんな…。」


「新しい姫よ。」



固まる私の前にヴァンという男の人が現れ、そう言って私の肩に手を置く。



ザワッ……。



その時、私の中で何かがざわつく。



何…この…この気持ち…は何……。



「また日を改めて迎えにくる。その時まで待っていろ。」



男の人は私の目を真っ直ぐ見てそう言う。


私も何故か、男の人から目を離せずにいた。




ザワ……。





何……この気持ち……。



─キモチ?


違う─。


私は…タダ……。



「コワシ…タイ……。」



私の言葉を聞いて、男の人が笑った瞬間。



ゴオォォォォ!



炎が男の人目掛けてやって来る。


しかし、男の人はそれも簡単にかわしてしまう。


『離れなさい!(グルゥゥゥー)』



炎を出したのはレミらしく、そう言って私の前に立つ。


「神獣か。」


「ヴァン様。」


「ああ。挨拶はすんだ。行こう。」



タツキさんに呼ばれ、男の人は行ってしまう。


「ま、まて…。」



そのままどこかへ去ろうとするタツキさん達に、痛みを堪えながら立ち上がった光樹がそう言う。


「その体じゃ無理ですよ。また会いましょう、光樹さん。」



タツキさんがそう言うと同時に、男の人達の足元に大きな魔方陣が浮かぶ。


「では。」





そうして、魔方陣と共にタツキさん達は消えた。



[つづく]

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