第28話 恐怖
「お待たせしました、ヴァン様。」
タツキさんは、煙の向こうに立つ数人の人影に向かってそう言う。
…なぜだろう、何だかとても嫌な感じがする。
そんなことを思いながら、近くに宝玉が落ちているのに気がついた私は、急いで宝玉を首につける。
「久しぶりだな、タツキ。」
「はい。」
徐々に煙が晴れ、その向こうにいた人達が現れる。
「っあぁー、やっと外に出られたぜ。」
1人は、赤い髪に白のメッシュが入った男の人。
「本当、退屈でしたわ。」
1人は、ウェーブがかかった茶髪の女の人。
「でもでも、また楽しいことするんでしょ? 」
「…私も楽しいこと、する。」
そしてもう2人は、黒髪を1つのお団子でまとめている少女と2つのお団子でまとめている少女。
この2人は双子らしく、顔が似ている。
「タツキ、あの者は何だ。」
私に気づいた赤黒い長髪を前髪だけあげている男がそう言うと、タツキさんと他の4人も一斉に私を見る。
そんな6人と目があった私にわきあがってくるのは、得体の知れない恐怖。
「ああ、あれは新しい姫です。」
タツキさんの言葉を聞いて、他の5人は私に興味を示す。
パシュッ。
その様子を見て、私は服を戦闘服に変える。
「ほう。」
そう呟いて近づいてくる男を見て、思わず私は後退する。
「こ、こないで! 」
怖い。
どうすればいいのか分からない。
逃げればいいのだろうけど、この人達から逃げられる感じが全くしない。
それに、私の考えが間違っていなければこの人達は─。
「ぎゃぁぁぁ! 」
するとその時、私の考えを遮るかのように、1体のヴォルスが吹き飛ばされてきた。
「おやおや。あなた達ですか。」
タツキさんは森の奥から現れた、ヴォルスを吹き飛ばした人物にそう言う。
「カイ、マナ。」
「「はい。」」
現れたのは3人。
その内2人が1人の命令でタツキさん達へと向かっていく。
「君が姫川結希か? 」
「あっ、はい! 」
状況が分からず固まっていた私に話しかけてきたのは、2人に命令をしていた男の人。
「そうか。ここは俺達がなんとかする。君は早く逃げろ。」
そう話す男の人は、光樹達と少し違うデザインの軍服を着ているから、敵ではないと思うけど……。
「あの、あなたは…。」
「王国軍。」
私の疑問に答えるように、目の前にいる男の人の声ではない声でそんな言葉が聞こえたかと思うと突然、影がさす。
ズシャァァ!
「ぐはっ! 」
すると次の瞬間、私と話していた男の人は長髪の男の人によって、左方向に投げ飛ばされた。
「適合者でもなんでもないあなた達が敵うとでも思っているんですか。王国軍大佐のバーンさん。」
タツキさんが、長髪の男の人の後ろでそう言う。
タツキさんの方にはさっきの2人が倒れていた。
「だ、だまれ……。」
さっきまで私の前にいた王国軍だという男の人は、痛みを堪えて起き上がろうとしながらそう言う。
そして今、私の前にいるのは。
「何をしている。」
王国軍の男の人を投げ飛ばした、長髪の男の人。
「こ、こないで! 」
私は武器を持ちながらそう叫ぶ。
この武器は、旭が私の為に作ってくれたものだ。
薙刀と鎌の中間のような形をしており、普段はストラップくらい小さいため腰からぶら下げている。
戦闘の時はリングと武器を繋いでいるピンが外れると大きくなる、つまり引っ張ればいいと言われた。
…訓練でしか使ったことないけど……。
やるしかない。
そう思いながら、私は震える手で武器を握りしめる。
「やめておけ、お前では俺に敵わない。」
長髪の男の人がそう言うのと同時に、私は後ろにさがろうとするが、男の人が1歩踏み出して私の武器を掴む方が早かった。
男の人に捕まれた私の武器はびくともしない。
武器から手を離して逃げなければいけないのに、恐怖で体が動かない。
…どうしよう。
そう思いながら、血溜まりの中に倒れているリク君を見る。
……どうしよう。
次に、倒れている王国軍の人達も目に入った。
どうしよう!
最後に目に入ったのは、目の前に立つ長髪の男の人。
「…行くぞ。」
そう言って、男が私の武器を手前に引っ張った瞬間。
ボオォォォ!
大きな炎が地面を伝って森の方から私と男の人の方へとやって来た。
私は炎が当たる直前で体を後ろに引っ張られる。
「遅くなってごめんね。」
私の体を引っ張った、その人は─。
「光…樹? 」
【つづく】
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