第27話 目覚め
ピチョン…。
暗闇の中、水が落ちる音がする。
「─なさい。」
誰かの声も聞こえる。
ピチョン…。
「ごめんなさい。」
聞こえてくるその声は、なぜか私に謝っている。
「本当にごめんなさい。」
…ピチョンッ!
そして、一方的に謝ったまま、その声は最後の水が落ちる音と共に聞こえなくなった。
「んん…。」
目を覚ました私の前に、誰かが背を向けて立っているのが見える。
ザシュッ。
次の瞬間、その人物は何物かに斬られて地面に倒れた。
その光景を見て、ぼんやりとしていた頭が一気に冴えた私は起き上がり、斬られた人物を見る。
「おや、起きたんですか。」
「リク君! 」
地面に倒れていたのは、リク君だった。
「リク君! リク君! 」
私が必死にリク君の胸の傷口を押さえて名前を叫ぶけれど、流れる血がとまる様子もなければ、呼び掛けに答える様子もない。
「姫様、始めましょう。」
私にそう話しかけてきたのは、あのタツキという男の人。
リク君を斬ったのは、この人だ。
「そ、それ…。」
しかも、手に持っているナイフは。
「ああこれですか。この子が持っていたのを拝借しただけです。」
そう、それはリク君のお兄さんのナイフ。
リク君が大切に、肌身離さず持っていたものだった。
「それはさておき、早く立ってください。」
タツキさんはそう言ってナイフを捨て、私の腕を掴み立たせる。
「えっ。」
そしてそのまま私の腕を引っ張り、近くにある石碑の方へと近づいていく。
「は、離して! 」
私はそう言って必死に抵抗するが、効果はない。
「やはりあなたでなければあれは反応しないんですよ。」
私の言葉を聞いているのかいないのか、タツキさんはそんな事を言う。
「あれ…? 」
私が疑問を口にすると同時に、タツキさんは歩みを止める。
「難しいことではありません。むしろ簡単なことです。ここに手を置いてもらうだけですよ。」
そう言うタツキさんの前にある石碑には、私の首にあったはずの金色の宝玉がはめられていた。
私はそれを見て急いで自分の首もとを確認するが、やはりそこにあるはずの宝玉がない。
「さあ、早く。」
驚いている私の腕をタツキさんはそう言って引っ張り、無理矢理手を宝玉に近づける。
「い、嫌! 」
私はそう言って、必死に抵抗する。
なんだか、このまま言いなりになってはいけない気がした。
何より、この人は危険だ。
「離して! 」
だけど、そんな抵抗も虚しく。
パアァァァ…。
私の手は宝玉についてしまった。
力を込めている訳でもないのに、宝玉は輝く。
「な、何これ…。」
私が呆気にとられているうちに、石板にはひびが入っていき、光がはしる。
そして、次の瞬間。
ドォン!
「わっ! 」
突然大きな音を立てて石碑が壊れたかと思うと、私は爆風のような風に吹き飛ばされた。
「…くっ……。」
痛みを堪えて体を起こした私が見たのは、煙の向こうに立つ数人の人影。
「お待たせいたしました。」
タツキさんは人影の方におじきをしながらそう言う。
「ヴァン様。」
【つづく】
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