第26話 焦り


「そうだ、お前達はおとなしくここにいろ。」



結希の所へ行こうとする僕をとめる雪奈の言葉に同意するようなことを言いながら現れたのは。


「バーンさん!? 」



王国軍大佐のバーンさんだった。


後ろには、部下らしき人物が2人ほどいる。


「バーン大佐よ、光樹。」


「あっ、失礼しましたバーン大佐。」



幼い頃からの顔見知りであり、学校の先生でもあるバーンさんをついいつものように呼んでしまい、雪奈に小声で注意され僕は言い直す。


「ここにいろってどういうことですか。」


「お前達の任務は俺達が引き継ぐことになった。お前達はここで待機していろ。」


「…嫌です。」


「光樹! 」



僕が拒否すると、雪奈が強めに名前を呼ぶ。



でもここで待機なんてしていたら結希が…。



「あなた達、自分の立場分かってるの? 」



僕達の会話を聞いて、バーンさんと一緒にいる女がそう言う。


「任務も遂行できてない、村人もろくに守れてない、挙げ句のはてには結界とやらを破られて敵に人質をとられる。本当、何しにきたのよ。」



女の言葉を聞き、隣にいる雪奈がこぶしを握りしめる。


というか、みんな全体的に殺気立っている。


「つーかお前ら、臨時部隊のくせにいつまで軍人面してんだよ。」



すると今度は、バーンさんと一緒にいる男がそう言う。


「してないわよそんなの! だいたいあんた達が頼りないから私達が呼ばれるんでしょ! 」


「雪奈。」



雪奈の気持ちも分からなくはない。


だけど、僕達が軍人ではなく臨時部隊なのは事実だ。


だから、軍人であるこの人の言い分も間違ってはいない。


「ったく、やっかい事ばかり増やしやがって。」



雪奈の言葉なんて聞いていなかったかのように、男はそう言う。


「だからあんな女、放っておけばよかったんだ。」


「何だと? 」



男の聞き捨てならない言葉に僕はそう返す。


あんな女、が誰のことをさしているか分かったからだ。


「だってまずあの戦場にいたって時点でどう考えても怪しいだろ。そして今回の事。これはどう考えてもあちらさんの─。」


「黙れ。」




僕はそう言いながら男の言葉を遮り、剣を首にあてる。


「光樹、落ちつ─。」


「それ以上続けてみろ、その口、二度と開かないようにしてやる。」


「…っ。」


「なっ! おやめなさい! 」



それにより、場は一気に緊張状態になった。


「お前達、いい加減にしろ。」



その緊張状態を解くように、バーンさんがそう言う。


「俺達はここに喧嘩をしにきたわけじゃない。分かるな。」


「…はい。」



バーンさんの言葉を聞いて、僕はしぶしぶ剣をおろす。


「マナ、カイ、お前達もだ。」


マナ・カイ)「「はい…。」」


「光樹、お前の気持ちは分かった。だが俺達も任務だ。変更は出来ない。」


「でも─。」


「お前はまず、先に手当てを受けろ。それから先は俺達の援護をしようが、ここを守ろうが、好きにして構わない。」



僕の言葉を遮って、バーンさんはそう言う。


「ま、その頃には俺達の任務は終わってると思うけどな。」


「カイ、余計な事を言うな。行くぞ。」



そう言って歩き出したバーンさんに、カイという男とマナという女も遅れてついていった。



その3人を、僕はただ見送ることしか出来なかった。




【つづく】

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