僕の嘘と君の嘘

がとーしょこら

僕の嘘と君の嘘

 高校生の僕にとって新学年というのは出会いと同時に別れも意味する。

 新しいクラスでそれぞれが不安や期待の表情を浮かべる中、ひときわ暗い顔をしているのが僕。何故なら現在絶賛失恋中だからだ。

 クラスが変わる直前、一年間密かに想い続けていた相手に見事振られ、折角の春休みを不貞寝して無駄に過ごしてしまったことも手伝っている。日常に希望を見出せない僕は完全に腐りかけていた。


 ただそんな僕にも出会いはあるようで、部活勧誘の時期のこと。

 男しかいない我が部は悲願の女子マネージャーを獲得をしたいという提案から、僕らは各自積極的に声をかけるが中々捕まらない。

 昼休みだって練習が入る程に忙しい運動部。余程興味がなければ寄り付くはずもない。

 そんななか立ち止まった新入生の君。必死で説得を試みる僕。

 よく笑う君は意外にも二つ返事で入部届けにサインをする。

 その日一日、僕は部内の英雄になった。


 いつにも増して気合の入った練習メニュー。女の子に見られてるというだけで、こうも活気づくものなのか。(いつもはもっと軽く済ませているくせに)

 舞い上がる周囲を他所に君を見る。

 活動自体にあまり興味なさそうだった君はよくあくびをしていたが、僕の視線に気付くといつも慌てて顔を伏せた。

 君のマネージャーとしての働きはいまいちだった。でも、持ち前の明るさでいつも場を盛り上げてくれた。可愛い妹でもできたかのように接する周囲に、君も徐々に打ち解けていった。可愛い妹、僕もそう思っていた。


「会ったときから一目惚れでした、良かったら付き合ってくれませんか?」


 少しずつ生活に馴染んできていた君のその言葉が僕を困らせた。

 嬉しさもあったが、玉砕した意中の相手を吹っ切っていたわけではなかった。

不貞寝して腐ってばかりの僕。対照的に更に綺麗なっていくその子。

過去に立ち止まっている僕。意に介せず未来に向かっているその子。

 一人だけおいてかれているような感覚がして少し悔しかった。

「気持ちは嬉しいけれど、友達ってことでいいんじゃないかな」

 僕はそんな月並みな言葉で君から逃げた。とても新しい恋を始める気にはならない。


 君はそれでもまったく諦めることはなかった

 いつだったか、女の子にお弁当作ってもらっていた友人を羨ましがる僕に

「私、料理得意なので今度作ってきていいですか?」

「え・・・本当に?でも悪いんじゃない?」

「いえ、いつも作ってますからもう一個ついでに詰めるくらい簡単ですよ!」

 そう提案された僕には断る理由がない。後日何かお返ししよう。女の子の手料理は男の夢。その日が楽しみで仕方なかった。


 そして今日、君がお弁当を作ってきてくれる日だ。昼食を共にしようとこっそり校舎裏で待ち合わせる僕ら。弁当包みを差し出す君。

「僕のせいで早く起きたりして大変だったんじゃない?」

「しょっちゅう作ってるから平気っていったじゃないですか、それよりお口に合うかどうか・・・」

 少し眠そうな君に申し訳なさを感じつつ、蓋をあける。見るからに美味しそうなお弁当。 期待に胸が膨らむ。

「いただきまーす!」

 どれも一口食べるだけで、その完成度に驚いた。

「本当に上手にできてるね、どれも美味しいよ。お世辞じゃなく君はいいお嫁さんになるよ」

 最初は僕の反応を嬉しそうに眺めていた君。

 でも、あまりにも喜ぶ僕の顔を見ている君の表情が曇るのを僕は見逃さなかった

「どうかした?」

「あの・・・その・・・」

「そういえば、食欲ないのか?君はあんまり箸すすんでないけど」

「うん・・・ごめんな・・・さい」

「へ?」

「早起きして一生懸命作ろうとしたけど失敗しちゃって、ほとんどお母さんにやってもらったの。本当は全然料理やったことなくて」

「そうだったんだ、気にしなくていいのに!僕の方こそ無理させたみたいでごめんな」

「嘘ついててごめんなさい・・・」

 僕はそれ以上言うべき言葉が思いつかなかった。黙々と食べ進めていく内に、隠すかのように下に置かれたおかずがでてくる。

 歪な形で必要以上に焼き目がしっかりついた卵焼き。

「あっ・・・」

 慌てる君と同時に口に運ぶ僕。

「うん、これが一番おいしいよ!」

 その言葉に目を輝かせて笑う君。出会った時もこんな顔して笑ってたっけ。

 君は気が抜けたのか寝不足か、くしゃっとした顔で大あくびをする。

いつもとは意味の違うあくび。それで僕は恋に落ちてしまった。

「もしよかったら僕と・・・」

 初めて実った恋はほろ苦い味がした。


 放課後、いつものように練習を終え帰り支度をする僕。でも今日からは普段とは違う。

 一足先に校門前で待っている君がいる。

 僕は着替えを済ませようやく未来に向かって歩きだした。

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