第1章ー9 桃瀬、ピンチ
「やだ、まだついてくる!」
一定の間隔を保ったまま、外来種精霊が桃瀬の後をついてくる。あれが何なのかは知らないが、捕まったらただでは済まないのは直感でわかる。そして、コロポックル達は無事なのだろうか?慌てて藪をかき分けて、コロポックルの集落に声をかけた。
「皆、無事?! 大変よ、外来種が現れたわ!」
携帯を抱えたアドイが表で待機していたらしく、真っ先に返事をしてきた。
「あ、桃瀬さん! さっき、榊さんに連絡したら、すぐに来るそうです! 僕達は集落に結界があるから大丈夫です。それよりも桃瀬さんが危ないです! 早く集落内へ入ってください!」
後ろを振り返るとあの外来種がじわじわと迫ってくる。
集落内へ入ろうとしたが、集落には建物が密集している。体の大きい桃瀬が入ったら、住宅はつぶれ、他のコロポックルが結界内から押し出されて危険に晒してしまうだろう。
このままではまずい、桃瀬はエアガンを構え、外来種精霊に向かって発射した。
『パン!』
無防備だった外来種精霊は被弾し、その瞬間に網のような結界が張られて動かなくなった。とはいえ、柏木の説明からして、これは一時しのぎにしかならない。実際、三十秒くらいで結界が解けてしまった。連射しながら桃瀬は葛藤した。このまま、ここから逃げ出すべきなのか。いや、結界があるとはいえ、コロポックル達も見捨てては行けない。
「BB弾を撃ち続けて、動きを封じ続けて榊主任たちが来るのを待つしかない……。弾が尽きる前に来ればいいのだけど」
携行したBB弾の充填用ローダーには五十発くらい入っているはずだから、単純計算して三十分弱。車なら何か無い限り、すぐに着くはずだ。
「主任、早く来てください……!」
「飛ばすぞ、柏木っ!」
「はいっ!」
アクセルをふかしてスピード違反ギリギリまで飛ばしていく。しかし、すぐに渋滞により減速せざるを得なくなった。
「って、まさかの渋滞かよ! 事故か?!」
柏木が悔しげにハンドルを叩く。
「そうかもしれないな、先頭にパトカーが何台も止まっている。」
「何かありましたか? 俺たち、こういう者で急いでます」
ようやく、渋滞の先頭に来た。様子からして、事故処理ではなく検問のようだ。柏木が窓を開けて身分証を提示しながら、警官とやり取りをする。
「ああ、環境省の方でしたか。実は、不法滞在で取り調べをしていた外国人が署から逃亡したので、検問しているのです」
「外国人?」
榊が聞き返すと警察官は答えた。
「ええ、イギリス人の男なのですがね。普通は
「イギリス人……、精神異常……、緑地の
榊が何か思い当たったかのように呟く。柏木は急かすようにアイドリングしながら警官に尋ねた。
「すみません。こちらも人に危害を加える恐れがある外来種精霊の駆除に緊急で向かっているのです。もう車を発車していいですか」
「ああ、そうでしたか。失礼しました。お気をつけて」
「あと、それからですね、お巡りさん」
榊は警官との別れ間際に告げた。
「多分ですが、その外国人は外来種精霊と関連がありそうです、そいつも三室緑地近辺にいるかもしれません」
「ちくしょう、時間をロスしてしまった。柏木、桃瀬君に渡した弾はどれくらいだ?」
「確か、五十発はあったと思います」
「一発あたり三十秒と単純計算して、三十分弱か。今の検問でかなりかかったから間に合うか」
「ところで、主任。イギリス人がどうとか言ってませんでしたか?」
「ああ、そいつが今回の外来種精霊を持ち込んだのではないかと思っている。推測だが、取りつかれていたのだろう。で、一旦何らかの理由ではぐれたが、主であるそいつが警察から逃亡して精霊に近づいているのではないか? 主の存在が近くなって実体化が進んだのだろう」
「そうなんですか?」
「ああ、アドイの話と今の警官の話を総合すると、外来種精霊の正体は“白い手を持つ者”だ」
「“白い手を持つ者”? 何ですか? それ?」
「イングランドのサマセットに伝わる悪い精霊だ。白樺のそばに現れ、狙われた者は運命を吸われる。頭を触られると精神に異常をきたし、胸を触られると死んでしまう」
柏木はそれを聞いて、ようやく事態の深刻さを理解したようだ。
「ガチでヤバいじゃないですか!」
「ああ、一刻も早く始末しないとならない」
「ちくしょう! 桃瀬ちゃんの胸を触るのは俺だぁ!」
榊の声がツートーン下がって、柏木に尋ねた。
「……柏木、後でドロップキックと“破邪”、好きな方を選べ」
「……すみません、言い過ぎました。ドロップキックで勘弁してください」
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