第五章 終わりの始まり
① 一触即発
「あなた」
緊迫した燈火の声。
異変と危機を察した僕は、一瞬で微睡みを振り払い、飛び上がる。
――そこには。
「初めまして――になりますね」
ころころと、鈴を転がすような心地のいい声。
目の前に、藍色の少女が佇んでいた。
腰まで伸びた藍色の髪。豪奢な藍色のドレス。藍色のティアラ。
そして蒼玉を詰め込んだかのような、両目の瞳。
目が眩みそうなほどの藍色。
目が奪われるような藍色。
にこり、と。
少女は薄氷の笑みを張り付けて、うっとりと僕を見つめていた。
(……新手か? それにしては、なんというか――)
気品というか、風格というか。
一見して僕よりも一回り年下に見えるが、にも関わらず、彼女の雰囲気はあまりにも逸脱していた。
美しすぎる。
藍色の髪にしても、瞳にしても――
まるでこの世のものとは思えない、妖艶な輝きを放っている。
「私は
少女はドレスの裾を掴んで、厳かに頭を垂れる。その仕草は、流れるように美しい。
「十字軍の――総司令」
思わず、背筋がゾクリとした。
こんな少女が、総司令?
ということはつまり――十字軍のトップに相当する人物だ。
つまりはあの狂戦士、ひょうきん丸狂死郎すらも従えている、ということ。
「それにしても、実に見事な戦いでした。まさかあのひょうきん丸すら打ち倒してしまうとは」
ぱち、ぱち、ぱち――と。
渇いた拍手を送る少女。
「しかし私は、今日という日が訪れることを、生まれる前から知っていました。あなたが鬼の力を完全に掌握することも、ひょうきん丸の撃退に成功することも――ですから」
沙杯夜は「ぱちん」と、厳かに指を鳴らす。
すると瞬く間に、四人の人影が僕を取り囲んだ。
半裸の大男。
全身金色の女。
ぬらりとした長身の黒い紳士。
闇に包まれた黒装束。
傾奇者の老人。
(な――なんだ、この連中は?)
見た目の奇抜さもさることながら――ビリビリと。
肌が震えるほどに伝わってくる、殺意、戦意、覇気、気迫。
全員が全員、只者ではないことを物語る、圧倒的な迫力。
「何を驚いているのです? まさかひょうきん丸を倒した程度で、十字軍を攻略した気になっているのではありませんよね?」
沙杯夜は、にこりと薄氷の笑みを浮かべてみせた。
「十字軍の遊撃隊長は五番隊まであり、そして遊撃部隊を統括する「総隊長」が存在します。……この意味がお分かりですか?」
僕の周囲を取り巻く人影は、沙杯夜を抜いて五人。
ひょうきん丸を合わせれば――ちょうど、六人。
「……なるほどな」
十字軍、遊撃部隊の全隊長に加えて――総隊長。
どうやら僕は、化物に囲まれているらしかった。
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