⑮ 愉悦と狂乱を望む者
「……クソが!」
強引に僕を引きはがしたひょうきん丸は躊躇なく魔滅炎撃を発砲、吹き飛びつつも距離を取る。
「たった一回、まぐれで攻撃を当てた程度で強がってんじゃねぇぞ! 上から目線の物言い、気に食わねぇ! 戯言すら吐けねぇほどズタズタのボロボロにブチ殺してやる!」
ひょうきん丸は更に魔滅炎撃を発砲、その勢いで壁に吹き飛びつつ跳躍、そして三度、魔滅炎撃のトリガーを引いた!
「
宣言通り、ゼロ距離の殴り合いを仕掛けてくる。
打撃、聖銃、魔滅炎撃――反動の全てを攻撃に上乗せする捨身の攻撃。
しかし――その攻撃も、僕は全て凌ぐ。捌く。避ける。
十秒間の内、数百にも及ぶ拳と銃撃のやり取りが行われるが――ひょうきん丸の攻撃は一度だって受けてやらない。
「馬鹿な! どうして一発たりとも当たらねぇ! 同じ鬼の力が憑いていて、俺の方が強い武器、戦法を持っているのに――確率的に在り得ねぇだろこんなこと! 普通に考えりゃ俺の圧勝だろうがよ!」
「在り得ないなんてことは在り得ない――じゃなかったか?」
頭に血が昇っていて気が付かないようだが――僕とひょうきん丸の力は、決して互角じゃない。
ひょうきん丸が鬼の力に振り回されているのに対して、僕には阿倍野 晴禍が憑いている。
暴れ狂う力を制御する手綱がある。故に鬼の力を、百パーセント以上に発揮できる。
そして僕には吸血鬼の力が備わっている。
不死と再生の特性が憑いている。
つまり、スタミナ切れという概念がない。
いくらひょうきん丸が強かろうと、いずれは必ず疲弊する。
疲弊するということは集中力が低下し、パフォーマンスの質が落ちる。
早い話が、弱くなる。
戦いが長引けば長引くほど――力の差が開く。
ひょうきん丸は既に勝機を逃している。
鬼の力に魔滅乱撃【神世七代】――
奥の手を解放しきった以上、ここから先はジリ貧だ。
ひょうきん丸もそれは理解しているはず。
「ハァーッ! ハァーッ! クソ、本物の化物だなテメェは!」
いくら鬼とはいえ、一撃一撃に殺意を込めた攻撃を繰り出し、疲労が溜まったのだろう。ひょうきん丸は、魔滅炎撃すら使わずに、バックステップで僕と距離を取った。
――弾切れか。
瞬時に、僕はそう察する。
「奥の手も、必殺技も僕には通用しない……なのにまだ戦うのか?」
「うるせぇ!! 殺す気もねぇ奴は黙ってやがれ! やっと面白くなってきやがったところなんだ、邪魔すんじゃねぇ! ッかかかかか、殺しても死なねぇどころか、本気で殺そうとしても殺せねぇとは……! こんな気持ちは生まれて初めてだ、地上最強! 俺は嬉しいんだよ、自分の力を存分に発揮できるこの環境が!」
そう言いつつ、ひょうきん丸は二丁拳銃のリロードを終えた。
「スタミナ切れという概念がない? そりゃ好都合、だったら俺が死ぬまで付き合ってくれや! かかかかかかか、俺を追いつめた気でいるんだろうが、そりゃ間違いだ――お前はどうにかして俺を殺さない方法を模索しているようだが、そんな道なんぞありゃしねぇ!」
そう。
このまま戦闘を続ければ、無難に僕は勝てるはずだ。
しかし問題は――どうやってひょうきん丸を救い上げるか。
晴禍は確か、既にフラグは立っているみたいなこと言っていた気がするが――
「悪ぃが俺は死ぬまで戦い続けるぜ! それが十字軍の第三遊撃隊、隊長らしい生き方って奴だろうが!」
激しく肩で息をしながらも、両腕を交差させ僕と対峙する。
その目は激しく血走っていて――正気を失っていることは明らかだった。
――やはり、戦うしかないのか。
それ以外に道はないというのか。
躊躇する僕などおかまいなしに、魔滅炎撃が火を噴く。ひょうきん丸の肉体が加速し、正拳突きの構えで跳躍する。
僕はその攻撃の軌跡をなんとか見切り、ひょうきん丸の首を掴んだ。
「ぐっ……! くそッ……!」
悶え、苦しんで逃れようとするが、僕はそれを認めない。
正気を取り戻すことが難しいなら――意識を失わせればいい。
死なない程度に、逃がさない程度に――ひょうきん丸の首を掴み続ける。
しかし、彼だって無抵抗のままではない。
魔滅炎撃、魔滅鉄砲、打撃攻撃、あらゆる手段で抵抗してくる。
両手を塞がれている以上、僕も完全に避けきるわけにはいかない。爆炎に晒され、聖銃を撃ち込まれ、激しい殴打を叩き込まれる。
我慢比べ。
どちらが先に根を上げるか――根性勝負。
「クソが……本当にやる気のねぇ奴だ! 離しやがれ! 俺様の……愉しみを! 邪魔するな!」
慟哭と共に暴れ狂うひょうきん丸だが、既に半分白目を晒している。
思ったよりも消耗するのが早い。
流石の彼も、この戦いで相当消耗していたようだ。
あともう一息。
それでひとまず、ひょうきん丸を止めることができる――!
あとの話は、何とでもすればいい!
そう考えた矢先――
僕の視界に、青白い光が迸った。
「――
次の瞬間、怒号と雷が僕の腕を打ち抜いた。
「――狂死郎様を傷つけるのは、誰であろうと許さない」
颯爽とメイド服を翻した少女は、決意に満ちた瞳で宣言した。
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