④ 真相――深層
吸血鬼。
殺されてもなお生き続ける、驚異の生命力を持つ怪物。不死と再生を司る、運命に呪われた哀しい種族。
僕は、その血を接種した。
一度目は、燈火の父――
高坂 白炎との死闘を生き延びるために。
二度目は、アイアンメイデン――
第三遊撃隊 副隊長の狂気を退けるために。
戦いとは何の縁もない僕が、絶望的な死線をくぐり抜けられたのは――吸血鬼の力があったからだ。燈火の協力がなければ、僕はとっくの昔に死んでいただろう。
少なくとも、僕はそう思っていた。
しかし――
「何の代償も払わずに力を得るなんて都合のいい話、この世にあるわけねぇだろうが。確かに、この世界で在り得ないなんてことは在り得ねぇ。だが世の中ってのは変に律儀で、バランスという奴に敏感だ。代償は、必ず支払うように出来ている。お前が何かを得る度に、世界はお前から何かを奪う。そういう風に出来ている。例えば――」
ひょうきん丸は、開いた両手を「すっ」と掲げた。
「時間、能力、運命、人間関係、可能性、善性、悪性、協調性、感性、――そして、人間性」
十本目の指を折り曲げると同時に、ひょうきん丸の声が愉悦に染まった。
「力の代償としては、命の代償としては、安いモンだと思うがね――人間性。解るか? お前は力の代償に人間性を失っちまったんだよ。吸血鬼の血に染まり、自らも吸血鬼の因果を負ってしまった――その証拠が、この研究レポートってわけだ」
吸血鬼の因果――運命に呪われた、哀しい血統。
それが、僕の根源に組み込まれているというのか。
鎖の一本に――組み込まれ。
僕を、人ならざるものに変質させた――のか。
「吸血鬼の血を飲む。一体どういう経緯でそんな羽目になったのか、俺には知る由もねぇが――事情がどうあれ、それは良くなかった。お前は禁忌を犯したんだ。生物として、最も踏み込むべきでない領域に、常識の通用しない領域に――踏み込んだ。その果てに、不死と再生の呪いに憑かれた。挙句の果てに、世界のルールから踏み外し――深淵に見染められた」
ひょうきん丸は「さて」と呟いて、肩を竦めた。
「少し話が脱線したな。そろそろ、お前の正体について語ろうか。殺傷症候群、その物語に――」
次のページを捲れよ、とひょうきん丸は促した。
そして――ふと、今日の日付を尋ねるような気軽さで、僕に問うた。
「ちょいと唐突な質問になるが――お前さん、「鬼」という存在を信じるかい?」
ひょうきん丸は「くくっ」と頬を釣り上げた後。
胡散臭い、神妙な声色でレポートを読みあげた。
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