⑦ 生き続けることが呪縛なら

 燈火の話を聞き終えて、気分が沈むのを感じた。


 聞く限り、どこにも救いの無い話だ。

 可哀想な人生を歩んだ女の子が、ただただ殺されただけ。

 救いも教訓も――何もない。


「酷い話だ」と僕は呟いた。その酷い話を作り出すのに、僕自身が大きく加担しているのも事実だ。


 その事実と、どう向き合っていいか分からなかった。


「あなたは悪くないですよ。むしろ、私を救ってくれたんです。そんなに落ち込まないでください」


「そういうわけにはいかないよ。……確かに話を聞く限り、燈火はいい人生を送ったとは思えない。それでも、嫌な事ばかりじゃないはずだ。そう、生きてさえいれば、もっと楽しいことだってあったかもしれないのに――」


「本当にそうでしょうか」


「え?」


「吸血鬼が関わった物語は、大抵バッドエンドで終わるもの。ドラキュラだってそうだったんじゃないですか?」


 燈火は俯きながら、呟いた。


「それに、私にとって生き続けることは、死ぬよりも辛くて苦しいんです。吸血鬼の呪縛――それに囚われている限り、何かを楽しむ気持ちになんてなれません」


「……」


 それを言われてしまえば、僕は何も言えない。

 彼女の奥底に根を下ろした問題は、想像もできないほどに深刻だ。


 しかし――今や、彼女の助けになれるのは僕だけなのだ。


 魂だけの存在となり、僕に認識されることでしか存在できない彼女。


 孤独と絶望に支配されたまま、消失する運命を待つだけの彼女に、手を差し伸べられるのは僕しかいない。


 問題なのは――


「どうしたんですか?」


 小首を傾げて、僕の表情を読み取ろうとする燈火。

 僕が殺してしまった女の子。


「……」


 余計なお世話だと思われるだろうが――

 僕は彼女を救いたかった。

 

 彼女の抱える問題を解決できなくもいい。

 望まないなら、命を救えなくてもいい。


 殺しておいて、何を言っているんだと思われるかもしれない。

 だけど、このままで終わりだなんて、それではあまりにも酷すぎる。


 僕は彼女と出会った偶然を、救いのある物語にしたいと思った。

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