⑥ 死にようがないから

「お前が吸血鬼だってことは分かった。それに、僕が殺したってことも」


「納得していただきましたか」


 穏やかな笑みと共に、燈火が呟く。

 それを認めるということは、僕が人殺しであると認めることだが――いや、人ではなくて吸血鬼か。


 いずれにせよ――僕が命を奪ったことに変わりはない。


 殺した張本人ぼくがこんなことを考えるのもおかしな話だが――償いをする必要があるのではないか。そう思った。


「いいんですよ、償いなんて。別に生きたかったわけではありませんし。むしろ、さっきも言った通り――私は、感謝しているくらいなんですよ」


「……なぁ燈火。どうしてお前は、そんなに死にたがるんだ?」


 吸血鬼の末裔。殺しても死なない生命力。

 せっかくそんな力を持って生まれたのに、どうして自ら台無しにしようと思うのか。僕にはその理由が全く理解できなかった。


「知ってますか? 


「九割?」


 となると、吸血鬼はほぼその理由で死んでいるということになる。

 外的な要因で死ぬことはまずない彼らが、死ぬ理由――


「心臓病、とか?」


 先ほど燈火が言ったように、吸血鬼の体を司る器官である。その部位が正常に働かないため死んでしまう――という推測は、そこそこ的を得ている気がした。


 しかし、燈火は短く首を振るばかり。


「吸血鬼は病気になんてかかりません。生命力が強すぎますからね。肉体は衰えず、強靭な抗体を持っていますから、どんなウイルスも受け付けません」


「それじゃ――死にようがないじゃないか」


「そう。


 燈火は、なんでもないことのように言う。


「じ――自殺?」


「そう、自殺です。とはいえ、一人で決行するのは至難の業です。なんせ心臓を破壊したあとに首を刎ねる――ですからね。不死身の吸血鬼といえど一人でそこまでのは無理があります。


「ちょ――ちょっと待ってくれ」


「まずは銀の十字架を心臓に打ち込みます。これは最近、専用のパイルバンカーが開発されたのですごく簡単にできるようになりました。後は簡易ギロチンテーブルを設置して、準備を整えたらボタンを押せば自動で」


「やめろ。やめてくれ。そんな話は聞きたくない」


 朧げながら――嫌な推測が、僕の脳裏を過る。

 そして嫌な推測ほどよく当たる。


「これまでに、祖父母と母の自殺を手伝いました。あと残っているのは父ですが、もう疲れちゃいました」


 燈火は、穏やかな微笑みを僕に向けた。


「家族同士で殺し合わなくちゃいけない、こんな世界が大嫌い。吸血鬼として生まれたことも、私自身の存在も、何もかもが嫌。いずれ自分も、殺してもらうためだけに家族を作るんだって考えると、吐き気がする。だから――あなたに殺してもらえて、本当によかった」


 あなたは私を、吸血鬼の呪縛から解放してくれたんです。


 だから――殺してくれて、本当にありがとうございます。


 なんでもないことのように、燈火はそう言った。

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