③ 再会――再開

 目を覚ます。

 体の節々が痛かった。

 頭にもやがかかっているようですっきりしない。気分も悪い。

 まぁ、それもそうだろう。

 


 体を起こし、カーテンを開く。

 窓の外には、どんよりした厚い雲が広がっていた。

 小雨の降る音が微かに聞こえてくる。パジャマだけでは肌寒さを感じる朝だった。

 ――今日はずっと雨だろう。直感的にそう思った。


「おはようございます。やっと起きたんですね」


 そんな聞き慣れない声を、僕は幻聴だと思った。


 なぜなら、この家には僕以外に誰も住んでいないのだ。


「無視しないでくださいよ、ねぇ」


 しかし――幻聴にしては、あまりにもリアルすぎる。

 まるで誰かの息遣いが、僕の背後から伝わってくるかのような――


「現実ですよ、何もかも。目を逸らしたって無駄なことです」


 耳元で、誰かの声が囁いた。

 

 声自体は少女のものだが――その落ち着きようには、妙齢の女性を思わせる妖艶さがある。


 僕は、意を決して訊ねた。

 

「お前は――なんだ?」


 少女はフフッと小さく笑う。


?」


 少女は僕の肩をポン、と叩いた。

 そして、音もなく僕の目の前に移動する。


 綺麗な女の子だった。長いまつ毛に、透き通るような黒い髪。白くて柔らかそうな肌。お淑やかで凛、とした雰囲気を持つ、白いセーラー服姿の少女。


 そのシルエットは――


「夢じゃない。


 少女は、穏やかな微笑みを浮かべている。それが不気味だった。

 もし彼女の言うことが本当だったとして――? さっきからずっと楽しそうにニコニコと――


「ああ、勘違いしないでくださいね。別に呪い殺しに来たのではありません。むしろその逆です。私はお礼をいいに来たんです」


「お礼――だと?」


「ええ」


 少女はゆっくりと頭を提げて、三つ指をついた。


「私を殺してくれて、本当にありがとうございます」


 顔を上げた少女の表情には、まだ穏やかな笑みが張り付いている。


「…………」


僕は、言葉を失っていた。


殺した相手にお礼をいうなんて、馬鹿げている、と。


真っ白になった頭の中で、それだけを考えていた。

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