② 僕について

 殺傷症候群、という症状を知ることになったのは、僕が高校三年生の時――ちょうど、受験で忙しい時期のことだった。

 

 僕はある日突然、なんの前触れもなく、クラスメイトに襲い掛かり、その場にいた全員に大怪我を負わせた


「らしい」という曖昧な言い方をするのは、拘留所で目を覚ました僕が、警察から聞いた話だからだ。


 その後、僕は国立病院で検査を受けることになった。二重人格や心神喪失状態で犯行に及んだ恐れがあるのでは、と検察から指摘されたからだ。


 結果、そこで僕は殺傷症候群、という病気を知ることになる。


 正確にいうなら「症候群」は病気とはまた違う。原因不明の症状だという意味だ。

 要するに、「よく分からないがお前は異常だ」と宣言されたのだ。


 それから僕は高校を退学した。罪に問われることはなかった。原因不明の心神喪失状態であったという一点において、無罪放免となったのだ。


 ……これは後で知ったことだが、僕の両親が裏で大量の金をばら撒いていたらしい。


 両親は、僕に何も言わなかった。

 そもそも、小学生以来顔を見たこともない。幼い僕に別居を強いて以来、口座にお金だけを振り込み続けている。

 どんな顔かも忘れてしまったし、どんな仕事をしているかも知らない。


 あれから二年経った。

 僕は極力外に出ず、家の中で暮らすことを心掛けた。

 

 外に出るのが怖かった。また人を傷つけてしまうのではないかと。今度は大怪我では済まされないかもしれないと。


 お金は相変わらず、毎月一定の額が口座に振り込まれる。

 一人暮らしにの身には不相応なほどの大金が。

 だから、働く必要もない。

 社会との関わりを最低限に抑えられることだけは、僥倖だった。

 だが――そんな日々も、いつまで続くか分からない。


 恐ろしかった。先の見えない恐怖が。他人を平気で傷つけようとする謎の症状が。

 そんな恐怖に耐えながら、あとどれだけ生きればいいのだろう。

 ――考えただけでもぞっとする。


 僕は一体、何者なんだろう?

 それが分からないから、恐ろしかった。

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