第三章 十字軍からの刺客

① ひょうきん丸狂死郎

 瓦礫の山に腰を下ろし、ぼんやりと空を眺めていた。

 燈火も僕も、疲れきっていた。

 つい先ほどまで続いていた死闘を思えば無理もない。

 ――思い返せば、大変な出来事に巻きこまれたものだ。


 事の発端は、僕がある女の子を殺したことだった。

 殺傷症候群という謎の特異体質を持つ僕は、無意識の内に少女を殺してしまう。

 だがそれは只の少女でなく、吸血鬼の少女だった。


 本来、吸血鬼は殺しても死なない怪物だ。だが、僕に心臓を破壊されてしまった彼女は、肉体が死に、魂だけが生き残るという中途半端な存在になってしまった。

 にも拘わらず――少女は「殺してくれてありがとうございます」などと、僕にお礼を言うのだ。

 

 それからの展開を書くと長くなってしまうので省略するが――

 結局のところ、燈火は吸血鬼としての呪縛から解き放たれ、僕と魂を共有することにる。

 そして僕は自分の正体を探すべく、燈火は肉体を取り戻し「普通の女の子」として生きるべく、旅をすることを決めた。


 だが、すぐに動こうという気にはなれなった。

 僕は白炎との死闘で疲労が溜まっていたし、燈火も頭の中を整理したいようだった。

 そういう理由もあって、ぼんやりしていたからだろうか――


 初めて彼を見たとき、さほど不振に思わなかったのは。


「よう」


 特別に親しい友達へ呼びかけるような気軽さだった。

 声のした方にいたのは――奇妙な恰好をした男がいた。


 ひょっとこ面、黒いスーツ、オモチャのような鉄砲、そして足元はゲタ――まるで統一感のない着こなし。混沌としたファッションセンス。

 彼は、足音も気配も感じさせず。

 たった今、湧いて出たかのようにそこにいた。


 まるで意味が分からない、悪い冗談みたいな男だった。

 その様は「ひょうきん」を通り越して不気味でさえある。


 僕にそう思わせることこそが――彼の目的だったのかもしれない。

 白炎の死闘で疲労していたとはいえ、警戒を怠るべきではなかったのだ。


 燈火と出会った次点で、僕は非日常に足を踏み入れたのだ。

 そのことに、もっと早く気が付くべきだった。


 ひょっとこ仮面は、おもむろにオモチャの銃を掲げると、何の躊躇いもなく発砲した。


 銃声が三回と、地面に着弾する音が三回。


 この時点でようやく、僕は彼を敵だと認識する――


「な、何を――」


「まぁ見てなって。魔滅まめ鉄砲てっぽう種子島たねがしま】――こいつはただのオモチャじゃねぇ」


 弾の着弾した地点から、青白い光が天へ昇っていく。その光は、僕を取り囲むように三地点から広がった。

 閉じ込められる――

 本能的にそう察し、脱出を試みるがもう遅い。

 青白い光に触れると、激しい痛みと共に吹き飛ばされた。


 ――結界か。これでは手も足も出ない。


「面白いだろ? 武器でありながら拘束も同時に行えるという優れものだ」


 くっくっく……とひょっとこ仮面は笑う。


 やられた――完全に油断した。


 男の奇妙な姿に呆気取られ、警戒するのを怠った。


「思ってたより骨がねぇな。ちょっとばかり肩透かしだぜ。まぁ、仕事が捗る分には大歓迎だがな――さて」


 彼はオモチャの鉄砲をくるくると回し、僕を見る。


「言いたいことも、聞きたいことも沢山あるが――そいつはひとまず置いといて、名乗らせてもらうぜ。俺は、秘密結社 十字軍じゅうじぐん、遊撃部隊 三番隊隊長。名を、ひょうきん丸 狂死郎きょうしろうという」


 一度聞いたら二度と忘れない名前を告げた後、彼は続けた。


「今からお前を、


 

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