第1章 やっぱり犬は犬なのね〜

俺はリキに先導されて、歩き続けていた。

そういえば、リキは探しものをするために俺の居た世界に来ていたと言っていたが、見つかったのだろうか?もしかしたら、俺を助けたせいで、まだ本来の目的を果たせずにいるのではないか?もしそうだとするならば、申し訳ないけど、俺を殺したのはリキさんですからね。悪いのはお互い様ということですよ。

そんなことを考えながら、歩いていくと違和感に気づいた。

『俺ってトイレに行ってない。そもそもしたいという気にならない。一度死んだのが原因かな?』

リキは振り返りもせずにこう答えた。

『違う、私との共有がそうさせているのだ。つまり、ハルが生理現象を起こした場合は私がしたくなるということだよ。』

『そんなところも共有されているとはな。便利なのか恥ずかしいのかよくわからない?ようするに、リキが2人分トイレに行きたくなるということか。』

『そういうことだよ。私自身がマーキングするのが好きなだけではないということを理解してもらえれば幸いだ。』

そう言いながら、さりげなく木々にマーキングをしている姿からは説得力が欠けると思ってしまうのは俺だけだろうか?えっ!?ナゼそう思うのかって?理由は簡単だ。マーキングし終わった後のリキの顔は、常にドヤ顔にしか見えないのだからである。まぁ、本人にそれはどっちのなんて聞く気もしないし、何よりも野暮であると思うからだが、実際は自分の生理現象だど言われた時のリアクションに困る。 なのでこれ以上は、この話題に触れないでおこう。この件でただ一つだけ実感したのは、アイドルはトイレに行かない!というでっちあげ伝説をこの身で体現することになったことだった。

そんなたわいのない会話をした後、俺達は半日以上歩いていた。すると平原の途中に木造の家屋がポツポツと見えてきた。

『リキ、あの集落が言っていた町?』

リキは、あっさりと肯定した。

『そうだ、あの町が私の住んでいる町だよ。ちゃんと人が住んでいると先ほど伝えたはずだ。もう忘れたのか?』

さりげな〜く痛い視線を感じながら町に向かって歩き続けていると、遠くに影が見えた。

『リキ、あそこに何かいないか?』

問いかけてみたが、反応は帰って来なかった。不思議になってリキを見ていると尻尾がダランとなっているじゃないですか?あれ⁉︎何か機嫌損ねるようなことを俺は言ってしまったのだろうか?そのまま、黙ってリキの後をついて行くしかない俺としては、多少扱いに困っていた。そして、影との距離がつまり輪郭がハッキリとなってくる。

『犬がいるぞ!あれは町の入り口にいるってことは番犬なのか?でも番犬には見えないんだがどうなんだ?』

俺はリキに再び尋ねてみた。尋ねた理由はただ一つ、こっちを見ていた犬の尻尾にあった。つまり、尻尾がすんごい勢いで廻っている。普通の犬ならば、機嫌が良い時は横に振ったりしているはずだが、入り口にいる犬の尻尾はさながら、ヘリコプターの羽が旋回している時みたいな動きをしているのだ。

すると入り口にいた犬は急にこっちへ走り出した。まさか、リキと取っ組み合いを始めてしまうのではないかと思い、リキの方へ走りよったが、向かって来る犬の方が早く間に合わないと思った瞬間‼︎

『アニキ〜‼︎お帰りなさい!アニキがいない間寂しかったよ〜!』

そう言いながらリキに飛びついて行った。だがリキはさりげなく右に飛び退いた。そして何も無かったかのように町の入り口に歩き続けていたのである。

『ハル、町に着いたぞ。私の家はすぐそこにある。付いて来るがいい、こっちだ。』

俺に語りかけた後、リキは再び歩き出した。俺も黙って付いて行くしかない。多分、さっきのことは無かったことになっているのだろう。触れない方が良さそうな気がする。だって、尻尾下がったままだしね。

そんなことを考えている間に着いたようだ。リキは家の入り口に立った後、一回だけワン‼︎と吠えた。間も無くして玄関のドアが開いた。

『リキ、戻ったのね?おかえりなさい、疲れたでしょう。中に入りなさい。』

女性が出てきた。年は俺と同じくらいだろうか?綺麗というよりも可愛いって感じが強い。

『ユキ、今戻った。突然だが紹介しなければならないヤツがいるんだ。これから色々と面倒を見てやって欲しい。』

リキは視線を俺に移動させ、彼女に紹介を始めた。

『彼の名はハルだ。あっちの世界で世話になったのだが、手違いで私が殺してしまった。慌ててこちらの世界に連れて来て蘇生したのだが、蘇生に私の命を分け与えことで私と命を共にするものになってしまったのだ。そのままに捨て置くこともできなかった。だから色々と教えてやって欲しい。私は犬だから人の世話をすることや気配りが難しいしな、頼んだぞ。』

リキはそう言い放った後、家の中に入った。後に残された俺と彼女はしばらく何も言えなかった。

すると彼女は、少し硬い笑顔をしながら家の中に招き入れてくれた。

『どうぞ中へお入りください。色々と尋ねたいこともありますが、まずはゆっくりお休み頂いた後に致しましょう。』

そう優しく接してくれたことが、俺の中に響いたことは言うまでもない。俺は案内された部屋のベッドに横になった。すぐに睡魔が襲って来た。これからのことを考えなければならないとわかってはいたが、急激な変化に身体がついていっていないこともあり、何もせず眠ることとした。意識が落ちて行く中、遠くに聞こえたのは犬の遠吠えだったと思う。

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犬と俺が創る理想の魔法 犬好 狂 @naitosunafukin

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