犬と俺が創る理想の魔法
犬好 狂
序章 犬との出会い
今日もいつもと同じ日常を過ごすはずだった。
大学に行き、講義を受け、ゼミに顔を出して、サークルで皆と談笑する。そして、帰宅する予定だった。なのに何故こうなった!?
わからない、わからない、わかるわけがない‼︎気付いたら知らない景色が目の前にあった。
『考えろ‼︎思考を停止してしまえば発狂するに違いない。こうなったのには必ず理由があるはずだ!確か俺は昼休みに飯を食いに行くため、大学の外に出たはずだ。』
確かな記憶が残っているところから、俺は状況を整理し始めた。
大学の外に出た後、俺はラーメンを喰ったはずだった。その後は、大学に戻るため来た道を戻っていたはず。その後は路端にいた犬を見つけて、ポケットに入っていたパンを食べさせようとした。それからは…?
どうだった…………………⁉︎
そうだ!思い出した。パンを食べさせた時に、犬が間違えて俺の手まで嚙ったのだ。その時に慌てて手を離そうとしたら、首筋を噛まれて意識を失ってしまった。
その後は、犬の鳴き声が聞こえて、声のする方に意識を集中したら、今此処にいたのだ。
状況は整理できたが、理由はわからないままだ、何も変わらない。ただ発狂しなくてすんだだけだ。
仕方ないので周りを見回して見ると、1匹の犬が横になりながらこちらを見ていた。
『犬がいる…、しかも見たことないか?』
見覚えある犬が黙ってこちらを見つめていた。何もしなければ状況は変わりそうにない。仕方ないので近寄ってみると、犬はのっそりと顔を上げた。
『人間よ、何も言わないのか?』
いきなり犬が話し掛けてきた。
『犬が喋るのか⁉︎』
思わず後ろに後ずさりながら、俺は返答してしまった。
『私が喋るのは不思議なのか⁉︎』
『犬は普通喋るものじゃない!』
俺はつい大声でツッコミを入れずにはいられなかった。
『あまり大声を出すな人間。私の耳が壊れるではないか。全くこれだから人間は困る。犬が話すのは常識だぞ。』
イヤイヤイヤ、常識だったら困る。犬が話すのが常識なんて聞いたことがない。
『人間よ、思っていることが全て口に出ているぞ。つまりお前の世界では犬が話さないのが普通だということなのだな?しかし、ここでは、動物は皆意識を持っているし、話すことができる。話すことができないのは家畜のみだ。』
俺が衝撃を受けたことは言うまでもない。動物が皆意識を持っており、話すことができるというのだ。今まで得てきた知識がひっくり返されてしまった。家畜のみ話すことができないようだが、んっ?今の話からすると、まさか家畜というのは、意識の無い豚や牛等を指しているのでは?
共喰いはシュールな光景しか浮かばんぞ。聞いて見なければならないな。
『今の家畜というのは、つまり話ができない豚や牛等を指しているということで良いのかな?』
犬は迷うことなく答えた。
『その通りだが、何か問題があるのか?』
予想通りの答えが帰ってきた。恐る恐る俺は続けて聞いてみた。
『家畜の豚肉や牛肉を話しができる豚や牛が喰うのか?』
『普通に喰っているぞ。何も問題あるまい。』
犬は不思議な顔をして答えている。
俺は我慢出来なくなってしまい大声でツッコミを入れてしまった。
『共喰いやないか!恐ろしすぎるわ‼︎』
俺は下手な関西弁を使ってしまうほど、動揺を隠せずにいた。
犬はあまり気にする素振りすら見せずに違うことを呟いた。
『人間よ?そんなことよりも今のお前が置かれている状況の方を聞かないのか?そちらの方が先に聞かれると思っていたのだがな?』
確かに驚くことやツッコミを入れることが多すぎて、聞かなければならないことを忘れてしまっていた。
『犬、教えてくれ。此処は何処で俺はどうなってしまっている。確かお前に噛まれたはずだが、それから記憶がはっきりしない。』
面倒くさいような目をしながら、犬はこう答えた。
『人間、お前は俺に噛まれてショック死してしまったのだ。お前が食い物をくれた時にちょいと加減を間違えて噛んでしまい、咄嗟に手を引くことでできた隙が私の野性に火をつけてしまったのだよ。だからついパクっと首筋をシャブってしまった。まぁ、許せ⁉︎悪気はないからな。』
『ついパクっとじゃないわ〜‼︎ガブリだよ!その後はどうせ骨まで咀嚼したんだろうが!』
『意識はなかったはず?何故わかったのだ?』
『わからないはずないだろ?それはお前が犬だからだ〜!』
『思ったより骨はスカスカで、肉は脂が少々キツく不味いと思って吐き出したがな。』
こ、この犬〜〜⁉︎俺を咀嚼しただけでは飽き足らず、不味いから吐き出しただと!許さん‼︎犬鍋にしてやろうか⁉︎
そんなことを考えていた俺に犬は欠伸をした後、こう言い放った。
『人間よ、俺に対して敵意を持っても無駄なことだ。今のお前の命は俺が担っている。その気になれば、触れずにお前の命を絶つことも容易いことなのだよ。』
『どういうことだ?』
『つまり、今のお前は半分死んでいるのだ。私がお前に命を分け与えた。どういう意味か、わからないはずはあるまい?』
『もしかして、お前の命を俺が共有しているということか?』
『そういうことだ。私が死ねばお前は死ぬ。又私がお前に分け与えた命を回収してもお前は死ぬ。だが、お前が先に死んでも私は死なないのだ。』
なるほど、つまり俺の生殺与奪はこの犬が持っているということで間違いない。だが何故俺を助けたのかは不明だ。聞いてみるしかないな。
『俺の命については分かった。もう一つ教えて欲しい。何故助けた?』
犬は右足で右耳を掻きながらこう答えた。
『言ったであろう?間違えたと。私自身食い物をくれたことには感謝しているのだ。探しものをしていて腹が減っていた時に、お前は分け与えてくれた。ただ勢い余ってお前を殺してしまったことには、いささか寝覚めが悪いと思ったのだよ。だから、助けたのだ。』
整理するとこういうことかな?探しものをしていて腹が減っていた。そこにエサを与えに来た俺がいた。腹が減って、勢い余って手に噛り付いた。そこで慌てた俺に勢いで首に噛み付いた。それで俺はショックで死んだが、犬にとって本意で殺したのではなかったことから命を分け与えて助けたというところかな?つまり、俺の死に損だ。
まぁ、なってしまったことは仕方ない。今俺は生きているし、あまり問題はないだろう。一応犬も反省しているみたいだしな。
『教えてくれてありがとう、犬。』
『もっと騒ぐかと思ったが、意外にも肝が据わっているようで少し気が楽になったぞ。』
『なってしまったことを悔やんでも仕方ないしな。それよりも此処は何処なのか教えてくれるか?』
そうすると犬は静かに立ち上がり空を見上げながら言った。
『この世界は、お前のいた世界ではない。魂と意思が集まり創造された世界なのだ。この世界の名はクリエイションワールド。あらゆる意思が魔法や奇跡となり形を成す世界。そして、お前がこれから生きて行く世界だ。』
クリエイションワールド、名前の通り意思が創造した世界か…
面白い、探究心が湧いてきた。もはや前の世界に戻ることができないのは明白。この話の流れからすると、俺の体はもう無いということだろう。この世界で生きていかなければならないのであれば、楽しまなければ損というものだ。
『犬、名前は?』
『そうだったな、まだ名乗っていなかった。改めて名乗ろう。私は秋田犬の力丸だ。リキと呼ぶが良い。』
『俺は皇ハレルヤ、20歳だ。ハルって呼んでくれ。』
こうして、俺とリキの世界が始まった。
『リキ、これからどうすれば良い?』
『まずは、私が住んでいる街へ行くとしよう。』
犬が住んでいる街となると家はやっぱり犬小屋なのか?と俺が考えていると、
『安心するが良い。私が住んでいるのは普通の家だよ。人間が暮らす街だ。犬小屋に泊まれとは言わないさ。』
と笑いながら答えてくれた。俺はその言葉を聞いて安心し、街へ先導するリキの後をついて行った。
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