ハロンベイと高本さんとペグちゃん

12/23  inハノイ 


 ツアーの出発が早朝なのではやく起きる。最近早起きする日が多い。身支度をすませ、レセプションに行くが誰もいない。出発時間までまだまだあるので外へメシを食べに行く。


 正方形の、米を固めたものを揚げた食べ物を、おばちゃんが路上で売っている。値段を聞くと手で“1”と“5”をあらわす。1500ドンだと思い、食べることにする。イスに座って食べていると、小さな女の子がやってくる。小さなサンタの人形を、大事そうに抱えながら食べている姿は微笑ましい。


 食べ終わり、5000ドン札で払うとおつりが戻ってこない。あれ? 聞いてみると一枚5000ドンらしい。高い! 勘違いしていた。納得いかないのでしつこく値切ると、1000ドン返してくれるが、それ以上は返してくれない。それでもしつこく値切るとおばちゃんはかんかんに怒りだす。あそこまで怒るとこちらが悪いように思ってしまうから不思議だ。あきらめてホテルに戻る。なんかすっきりしない。


 ホテルに戻るとスタッフが出勤している。話をしていると今日の宿代を払ってくれと言われ、昨日言われた値段の通り3ドル払おうとすると、8ドルと言われる。はあー! どうやら一泊6ドルで、付加税が2ドルらしい。昨日は3ドルと言われていたのでびっくりする。ふざけるな! ツアー代もぼったくろうとするし、それに宿代まで。チェックアウトすることにして、急いで荷物をまとめる。朝から不愉快な出来事が多い。


 レセプションに戻り6ドル支払おうと書面をじっくり読むと、税は10パーセントで2ドルもぼったくりだと気がつく。0.6ドルに下げてもらい支払う。ツアーの時間まで5分もないので、従業員に、バスに待っていてもらうようにたのみ、急いで次の宿をさがしに行く。朝からせわしない。


 3ドルでドミに泊まれる宿を見つけ、荷物とパスポートを預けて急いで戻る。ツアーバスはまだ到着していないらしく、イスに座って従業員と話す。また泊まるようにすすめてくるから図太いものだ。ここまでくるとツアーも心配になってくる。


 おくれて迎えの車は到着する。ハイエースのような車に乗り込む。とっくに定員オーバー気味で、とてもせまい。16ドルはらってこの車か、ツアーに対する不信感が高まる。


 車はそのままハロンベイに向かい、途中のレストランで休憩する。麺を食べて再び車に乗り込む。


 乗客は韓国人だらけで、「人気があるのかな?」と思っていると、隣に座っている男の人は日本人だと知る。高本さん、30代のめがねをかけたサラリーマンだ。二泊四日の予定でベトナムに来たらしい。てっきり旅はあまりしない人かと思いきや、いたるところへ行っている。サラリーマンなので連休をうまく使って海外旅行をしているようだ。


 予定を聞くと来週はヨーロッパの島、その次の週は上海と予定がびっしり。過去の話を聞いていてもそんな感じで旅行しているらしく、感心してしまう。うまくやっているみたいだ。みょうに気があい、話し続ける。


 バスは港に到着する。中華風のレストランに入り、丸いテーブルを乗客が囲む。大皿に盛られた料理を各自でとる。ランチはまるで期待していなかった。白米と魚、フライドポテト、スープ、野菜炒め、春巻き、シーフードマリネ、そしてデザートのオレンジ。豪華な料理だ。周りの韓国人は遠慮してあまり手をつけないが、かまわず食いまくる。たらふく食う。うますぎる! この昼飯だけで、ツアー代の16ドルが安く感じてしまう。“げんきん”なものだ。


 昼飯を食べ終え、船着き場に移動する。すぐに船に乗ると思いきや、一時間待たされる。けど、高本さんと話し続け、あっという間に時間は過ぎる。だが、ツアーの不安は一層高まる。


 予想以上に大きい船が到着し、乗り込むと船内はとても綺麗だ。ツアーメンバーで貸切なので待遇は良い。海水はあまり澄んでいないが緑がかっていて神秘的だ。雲ひとつない青空で日射しがとても暖かい。船の甲板にでて高本さんと話しながら景色を見る。遠くに岩の島が見え、気持ちは高まる。


 島に上陸する。岩の大きさに圧倒される。中国の奥地のような雰囲気で、期待以上の景色だ。ガイドについていき洞窟に入る。なかは大きな空洞で鍾乳洞だ。ところどころライトアップされていて、鍾乳石は様々な色に輝いている。この景色を見れただけでも16ドルのツアーは安く感じてしまう。「ぶりっていたらそうとうとばされるだろうな」と考えてしまう。非常に残念だ。高本さんと話しながらまわる。話してばかりだ。


 洞窟を出て再び船に乗り込む。島のあちらこちらに、ペンギンの形をしたゴミ箱が置かれている。なんでペンギンなんだ?


 船は島と島の間をクルージングする。ガイドブックや絵葉書でみるのと、生で体験するのはずいぶんと違うものだ。壮大な景色ばかりのハロンベイを完全になめていた。


 湖のように穏やかな海には海上集落があり、人が住んでいる。どうやって暮らしているのか不思議になってしまう。どこでも住んでしまうベトナム人にはおどろいてしまう。


 小舟に乗りかえてあたりをクルージングする。島には小さな洞窟があり、小舟のまま中に入る。目の前にはラグーン、切り立った島の内部は丸いラグーン、なんて神秘的なところだろう。島が太陽をさえぎり、暗くて静かだ。“火の鳥”(手塚治虫のまんが)を思い起こさせるようながけだ。上から海を見下ろしたらながめはよいだろう。


 船に戻り、乗り換える際、小舟にあるでっぱりにうまい具合にくつ紐がひっかかり、派手にこける。あぶない! 海に落ちずにすんだものの、左足を負傷する。本気で危なかった。心臓がどきどきしてパニックになる。落ちなくて良かった。


 海上集落の家をのぞくとテレビがついている。どうやって電気を通しているのか不思議だ。時刻はすでに3時を過ぎ、ツアーは終了に向かい、船は岸に戻る。船の中でも、景色を見るというよりは、高本さんとしゃべってばかりだ。


 岸に到着し、行きよりもゆったりした車に乗り込みハノイへ向かう。帰りの車でも高本さんと仕事の話やプロ野球の話で盛り上がる。他の乗客は黙っているがまったく気にならない。高本さんとは話があう。


 途中の休憩場でジャックフルーツ味のココナッツキャンディーを衝動買いする。ドリアンの臭みが口に広がるがいける味だ。


 高本さんはほぼすべての“地球の歩き方”を持っているらしく、本当に旅行が好きなんだなと感心する。大学時代に日本のすべての都道府県をまわったらしく、驚いてしまう。自分の大学時代は? 大阪に3日間滞在しただけだ。


 興味深い話をたくさん聞き、イラン、トルコへ行くことに決める。人から色々な話を聞くと、行きたいところが増えてしまう。経験豊富な高本さんはすごいな!


 あっという間に車はハノイへ到着する。高本さんと食事をする約束をしたので、高本さんが泊まっているホテルで一緒に降りることにする。どこのホテルに泊まっているのかと思いきや、あれ? 同じホテルだ。偶然にも今朝移ったばかりのホテル、これなら楽だ。一度部屋に戻りたかったので、後で会う約束をする。


 身支度してネットカフェにペグメールを見にいく。昨日のメールの返信が気になっていた。みてみると、そうとうネガティブなメールの内容だ。悩み、疲れているみたいだ。そっけなさと、冷めたさを感じる文章で、これ以上ついていけないし、我慢できないといった感じだ。


 大きなショックをうける。自分の今後を知ってもらいたいだけなのに、なんで? 考える時間がほしいって、何を考える時間? まさかこんなことになるとは。自分の気持ちと思ったことをメールで返信する。高本さんとの待ち合わせ時間をとっくに過ぎていたが、パソコンから離れられない。高本さんが迎えに来たのでもう少し待ってもらい、あとでじっくり返信することにする。


 さて、気分を切りかえてハノイの珍名物、犬料理を食べに行く。タクシーをつかまえ、犬料理屋へ向かう。自分の予想では屋台みたいなさびれた店、坂本さんの予想では高級レストランだ。


 薄暗い大きな小屋みたいな店だ。ほとんど外にいる状態で、床に新聞紙をひき、地べたに座って食べるらしい。あたりはなぜか小便臭く、二人の想像以上の店だ。さすが犬料理屋だ。何を注文していいのかわからないのに、店員はまったく英語がしゃべれない。なんとかジェスチャーで注文するといろいろ出てくる。


 フリスビーサイズの“サラダせんべい”のような食べ物、塩辛と醤油を混ぜたような生臭いタレ、すっぱいタレ、そのへんで摘んできたような香草、どうやって食べるんだ? 犬の肉が次々と運ばれてくる。腸詰にチャーシューみたいな肉、うん○に似た炒めた肉、見た目はどれもまずそうだ。米と一緒に食べたいが、ないらしいのでビールを頼む。おそるおそる食べてみると、「うまい!」これはいける! 豚足に似た味の肉、焼肉屋でありそうな味付けの肉、どれもおいしい。ただ、風が吹きこむ店内は寒く、料理が冷たいのが難点だ。


 すっかり料理に慣れ二人でおいしくいただく。塩辛味のタレは発酵しているのか、泡立っている。しらたき見たいな麺を頼むと、たけのこが入ったスープが出てくる。ダシがきいていて、薄い中華味だ。暖かくておいしい。肉を食べきる前に食べたかった。


 思ったより腹いっぱいになり、閉店時間になる。来たときと同じタクシーに乗りホテルへ戻る。もし、再び食べる機会があったらもっとじっくりとたんのうしたい。


 ホテルに戻り、ペグメールが気になっていたので、坂本さんと別れてネットカフェに行く。メールを見ると、返事がない! どきっとする。前の彼女と付き合っていた時に感じた不安がよぎる。これは完全に冷めはじめている。あのメールの何が悪かったのだろう? メールを送るがやはり返事がない。これはまずい、自分の責任だ。再び自分の気持ちを正直にメールで送り、ペグちゃんのメールをきながに待つことにする。


 どういう結果になるかわからないが、最悪の結果も受け入れなきゃ。ただ、あのメールだけで別れるのは納得いかないし、認めない。いやだ! 前の彼女と別れた時と似た状況で、また同じことをしている。しかし、自分はまげられない。たまったみんなからのメールを返信して部屋に戻る。


 うーん、ペグちゃんのことが気になって、ほかのことに手がつかない。なんとか日記を書き終え、寝ることにする。


 なんか、旅の楽しさやそのぶん失う物とか、いろいろと考えさせられる一日だ。これでペグちゃんともし終わってもプラスに考えなきゃ。旅の重荷はなくなるかもしれないけど、こんなことで二人の関係が終わるのは悲しすぎる。ペグちゃんこそ自分にあう人だと思っていたので悲しいな。あとは忘れて待つだけだけど、どうしても考えてしまう。


 別のことに熱中して忘れるのって難しいな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る