空腹とぶりの戦い、アンコールワット

12/8   inシェムリアップ 


 「明日は五時に出発するからチャリを用意しておいて」と“タイゾウ”に伝えておいたが、起きたら七時だ。身支度をして外に出ると、宿のママがチャリを用意している。さすがだ。


 出発前から我慢できず一服入れる。天気が良くて気持ちがいい。地図を見ながらパチカを鳴らし、のんびりと自転車をこぐ。アンコール遺跡まで道は一本、路面は良くないがまわりは緑が多い。


 20分ぐらい走ると入り口に着く。20ドルと高い入場料を払い、さらに進む。10分ぐらいすると森がひらけ、遠く右斜めにアンコールワットが見える。なんて大きさだ! けど、思ったほどではない。どう見てまわるか計画を立てていたので、アンコールワットは後回しにしてさらに進む。


 道はバスやバイタクが通り、いろいろな乗り物が行き来している。門を抜けてアンコールトムへ向かう。門を抜けてからも距離がある。「広大な遺跡だな~」そう思っていると、前方に大きな遺跡が見える。バイヨンだ。


 チャリをとめて内部を見る。規模が大きくて立派だけど、人が多すぎる。遺跡を見つつ、人を観察してしまう。日本人が大勢いて、あらためて、日本人はお金を持っているのだと思う。韓国人も多い。


 バイヨンで少し休憩してから近くの遺跡からまわる。遺跡の奥に入るとひとけが少なく、ぶりってもばれなさそうなので大木に隠れて一服する。気持ちいい! 警察が多く巡回しているらしいので周囲をうかがいながら吸う。遺跡での一服はたまらない充実感と感動があるからやめられない。その勢いで持ってきたミニジャンベを叩く。


 持ってきたウォークマンを聞き、森の中の遺跡の門に座りながらジャンベをたたいている姿は変態だろう。観光客が来たのでたたくのをやめて移動すると、カンボジア人の小さな子供が親指を立てている。ませた子供だけど、ノリがよい。再びチャリに戻り、アンコールトムを出て“外周”と呼ばれる道を進む。


 どの遺跡を歩いていても必ず人が寄ってくる。子供から大人まで、さまざまな物を色々なやり方で売ってくる。日本円の硬貨を両替してくれと言ってくる人もいる。みんな必死だ。ぶりのせいか、疲れと空腹がやってきて、足取りが重くなる。すでに昼間だ。


 “プリア・カン”を見てチャリに戻る途中、子供の兄弟に写真をとってと言われ、撮ってあげる。すると1ドル請求される。純粋な子供がかわいらしさを売りにしてくるとは、したたかさには驚くが、それ以上にそこまでしなきゃいけない環境にやるせなさを感じる。はっきりいって悲しい。写真の子供の笑顔は純粋に見えるので複雑な気持ちになる。


 さらに先に進むが空腹がそろそろ限界だ。ドラゴンボールの“ゴクウ”が空腹で、力が出ずにやられていたのを何度も思い出す。どの遺跡がどれかわからなくなる。

ちょっとした遺跡があり、お店がある。元気なカンボジア人女性が何人もいて、ラーメンの値段を聞くと1500リエルだ。よし! インスタントラーメンは格別の味がする。


 食べていると何度も話しかけられる。女性方に笑われ、なんか楽しいが疲れる。言葉がわからないと2倍の労力が必要だ。それにしても、人々は明るくて陽気だ。決まり文句は「オニイサン!」


 せっかくチャリをとめたので遺跡を見に行く。でかい! 小さいと思いきや大きくて広い。石に座りCDを聞いてぼーっとしていると、急にカメラの充電器が必要だと気づく。どうせ日本に帰ってからも使うのだから、いずれ必要になる。だったらはやいほうが良い。バッテリーがきれてしまい、写真が撮れなくなったので必要性を感じる。チャリに戻り、お店の女性達に手をふって先を行く。


 この辺は有名な遺跡から離れているだけあって人が少ない。ほとんど人とすれ違わないので楽で良い。さらに走り“タ・プーロム”に着く。この遺跡も小さいかと思いきや大きい。写真ではガジュマルが遺跡を覆っているので、木は一本だけかと思ったら、何本もある。写真を取れないのが非常に残念だ。スコータイ、アユタヤーに比べるとアンコールは一つ一つの遺跡の規模が大きい。アンコールワットとアンコールトムだけかと思いきや一つ一つの遺跡が立派だ。


 “タ・プローム”をあとにし、いよいよアンコールワットへむかう。人気のない道で一服入れる。ポリスが多いので警戒しながら吸い、まだ残っているジョイントの先端をねじると、「べりっ」、紙が破れて大麻がもれだす。まずい。なんとかふさごうとすると、逆効果、修復不可能。ジョイントを捨てて出発する。ちょっともったいないな。


 アンコールトムを抜けて、アンコールワットへ。さっきのぶりが効き、空腹と疲れが再びピークになる。チャリを止めてアンコールワット内部へはいる。近くで見ると本当に巨大だ。外堀の水の中をのぞきながら歩いていると、スネークヘッドがゆったりと泳いでいる。


 足取りは重く、力が出ない。せっかくアンコールワットにいるのにあまり感動しない。午前中にたくさんの遺跡を見て、すでに飽き始めている。なにより腹が減った。

休んでは動き、休んでは動きとのろのろまわる。今は遺跡の広さが逆につらい。適当にみて帰ることにする。屋台で焼きとうもろこしを食べ、腹を満たして帰る。


 宿に戻り、休憩してから昨日のカメラ屋へ充電器を買いに行く。常連っぽくなり、程度のよいものを40ドルで買う。これでカメラに困ることはない。ただ、使えればの話だが。


 シェイクが飲みたくなりシェイク屋を探すが見つからず、かわりにマンゴーを衝動買いする。部屋に戻り一服入れて、マンゴーを切る。硬い。うまく切れないが何とか切る。青いマンゴーですっぱくて甘くない。まだまだ熟していない。けど、腹が減っているので食べきる。


 カメラの充電器を試すと使うことができる。これで問題なし。ごろごろしてからメシを食べ、ネットカフェに行く。


 シャワーを浴び、タケオ“GH”に遊びに行く気力もなく、明日のバスのチケットをとって寝る。


 広大なアンコール遺跡群をあまくみていた。空腹はやっぱりつらい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る