ゴモラ

11/7  ヴィエンチャン→バンビエン 


 起きて時計を見るとなぜか3時だ。えっ!3時! 外の通路から別の部屋の外国人たちの騒ぐ声がうるさく聞こえ、とてもにぎやかだ。酔った勢いで寝過ごしたのか? 「やっちゃたー!」と手をばたばたさせながら外を見ると真っ暗だ。ということは夜中の3時か? 安心するが、たくさん寝たような気がするので、なにかに騙されているような不自然な感じがしてしまう。バンビエンへの出発時間は10時、まだまだ時間はあるのでもうひと眠りする。


 途中、何度も目を覚まし、8時ぐらいに起きる。毎日の義務を半分終わらせ、荷物をまとめてGHのレセプションへ行く。日記が終わっていないので、テーブルのイスに腰掛けようとすると、昨日の日本人が座っている。うーん、ちょっと嫌だなと思いながら話し始める。けど、対面で話してみると良い人だ。


 彼は完全に人間不信らしい。どうやら、ベトナムの首都ハノイからヴィエンチャンへ移動の際にだまされたようだ。国境でバスを乗り換えるが、用意されているはずのバスがなく、別のバスに金を払ってきたらしい。自分もそれに近いことがあったので気持ちはわかる。とてもだるいことだ。あと、カンボジアでもだまされそうになったらしく、ベトナムビザを大使館で取るのではなく、外にいた警官にとってもらいそうになったとか。


 話を聞いていると、カンボジアの話はだまされそうになるよりも、本人が間違えただけみたいだ。そのたびに外国人に激怒しているらしい。人間不信だと思った根拠は、GHの従業員が一週間前と違う人物になり、売っている水も高くなっていて、そのことでレセプションの人間を「おかしい!」と責めていたからだ。警戒心を持つことはすばらしいことだろうが、ちょっと過剰ではないか? 「別にどうでもいいじゃないかそんなこと」と思ってしまう。


 眼光の鋭い中島似の日本人はヘリコプターのパイロットになりたいと言う。すごい、かっこいい! いままでにパイロットになりたい人は出会ったことはなかった。ぜひがんばってほしい。大麻をドラッグだと言いすてる彼は、オーストラリアでもほとんどやらなかったのだろう。真面目すぎるけど。すごい人だ。旅先で会う人々はなにかしら自分らしさを持っている。


 ちなみに旅で出会った中で、すごいと思える人はしょうさんだ。32歳にしては知識の量が半端じゃない。歴史のことやドラッグのこと、アジアのこと、女のこと、なんといっても熱く語ってきたカジノのこと。使う言葉も“アナーキー”とか、難しい言葉を多く知っている。背筋がピンとしていて、考え方が合理的、非常にシビアで冷たい。大声で笑うことはないクールな感じ、だけど、風俗が好きでカジノのみのギャンブルが好き。レストランの店員に対してのアグレッシブ(攻撃的)な態度は本当にかっこいい。それでいてタイ語、英語がしゃべれるのだ。


 迎えのタイ人が来たので、お別れして車に乗り込む。昨日ビールを飲んだメコン川沿いに着き、大きなバスに乗る。バンビエンに向けて出発だ。


 久しぶりに山の風景を見る。いつもは平原、民家、ジャングルと平面の風景ばかりだ。道はくねくねしている山道、山のつくりが日本と違って新鮮だけど、似ている部分があるのは同じ山だからだろう。


 3時間ほどでバンビエンに到着する。バスの中で知り合ったあかあしさんという名の日本人男性と、一緒に安いGHを探す。運よく三軒目で一泊2ドルの部屋を見つける。トイレ、シャワーが部屋についていて、しかもホットシャワーだ。ダブルのベッドで2ドル、もちろんここに決める。


 あかあしさんと別れ、一人で町を見学する。せまくて小さい町だ。近くには大陸の河に比べるとかわいらしい川が流れている。正面は大きな山が連なっていて壮観な景色だ。しかし、暑い! 


 チャリを借りて町をまわる。町を一周するとあかあしさんに出会う。おなかがへっていたので、一緒にメシを食べにいく。ヴィエンチャンで会ったことのある日本人二人が、レストランで食事をしているので相席させてもらう。けど、値段は高いし、二人はすぐにカヌーに乗りに出かけるらしいので、別の安い店で食事をする。


 あかあしさんはラオスには一週間の滞在らしい。見た目はひ弱そうな背の高いあんちゃんって感じだが、インドに三週間行っていたらしく、見かけよりもたくましい人だ。


 メシを食べ終わり、再び、あかあしさんと別れる。やることもないので、水着に着替えて川へ泳ぎに行く。小さなつり橋をむりやりチャリで渡る。川沿いにはバンガローが点々と並び、バーが10軒ほど営業しており、どの店からも音楽がながれている。ヘッドショップに流れていそうな音ばかりだ。


 川付近には大勢の欧米人が寝そべっている。うわさで聞いていたとおりの風景だ。適当な場所にチャリを停め、シュノケールを装着して準備万端だ。


 川に入ると、みためほどの冷たさはなく、日本の川に比べて暖かい気がする。一人で川上から流されて遊ぶが、一人だとさびしい。


 すぐに川を出てGHに戻ると陽気なラオス人の青年が話しかけてくる。チャンス! こいつは持っていそうだ! 適当に話していると思ったとおり、そっちの話をふってくる。大麻にきのこ、オピューム、それにシャブまであるらしい。チョコもあるようだが高いらしい。大麻が欲しかったのでどんな“もの”か見せてもらう。ナンバーツーという“もの”を見せてもらう。上質の大麻はナンバーワン、下はナンバースリーと、わかりやすいネーミングだ。ナンバーツーは匂いを消すためにハチミツに漬けているらしく、商売人らしいデモンストレーションで火をつけて、匂いを確かめさせられる。うーん、わからないが、まあ、悪くはないだろう。10グラムのパケを持っていたのでそれを3ドルで売ってもらう。


 ついに手に入れた!3ドルは安い! ちょうしにのって話しをしていると、きのこも持ってきてくれるらしく、30分後に戻ってくると言い残してその場を立ち去る。


 待っている間に一本巻いて、残りの大麻をチョップ(粉々にする)する。


 40分経過しても戻らないのでネットカフェへ行く。ペグちゃんにバンビエンの町についてばらすと険悪な雰囲気になる。ペグちゃんがいじける。めんどうくさいことだけど、メールの内容でいじけるペグちゃんがかわいい。冷たいメールを送信してしまい、これ以上続けてもさらに悪化させそうなので、ネットカフェを出る。久しぶりに付き合っている際のだるさを感じる、懐かしくて楽しい。


 GHに戻る途中、バイクで走る先ほどのラオス人と遭遇する。きのこがあると言ってくるが、目の焦点が定まっていない。話にならなさそうなので明日にしてもらい、部屋へもどる。けど、ネットカフェに忘れ物をしたので外に出ると、ラオス人が白人相手に“ねた”を売っている。商売熱心な青年だ。


 宿に戻りやることもないので一服入れる。気持ち良い! さほど悪くなく、ついつい吸いすぎてしまう。メモ帳を見ているとドアをノックする音がする。おそるおそるドアを開けるとさっきのラオス人が立っていて、「ナンバーワンを持ってきたから買わないか?」と訪問営業される。20グラムぐらいはありそうだ。さっきの外国人がキロ単位で買ったらしく、そこからぬいてきたらしい。10ドルのところを6ドルで売ってくれるらしく、良いラオス人なので勢いで買ってしまう。いやー、実に良い青年だ。


 ぶりっていたのではっきりと“ねた”は見ておらず、部屋であらためて見ると、すごい。ばかげた量だ!こんなに一人で吸えるわけないが、一人で吸っていいという贅沢、これで六ドルとは、おいしい値段だ。ぶりっているせいでこの大麻に名前をつけたくなる。地味だけど、どっしりしていて量がある。ゴモラに決定!

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