『アンチグラビティーズ』

糸井透子

第1話 世界を変えたい僕ら


「ささちゃん そんなところにいたら危ないよ」


「 どうしてここにいるの?」

「ささちゃんの音楽、聞いてたの」「ここにいる気がした」


微笑む女の子に泣いている女の子。夜景はきれいで遠く遠くまで光のうずだ。

ぴょんっと女の子がささちゃんにくっついた。「ごめんね」ささちゃんだけに聞こえるよう声でつぶやく。「ごめんねささちゃん。見つけるの遅くなっちゃった」

泣いてるささちゃん。「あやまらないで。君が悪いわけじゃないし」ぐしぐしのお顔でささちゃんは言う。「僕が悪いんだ。こんなところで泣いたりさ。ごめんなさい」ささちゃんは涙をぽろぽろにこぼす。女の子は首をすこし振って笑う。

「大丈夫。ささちゃんは悪くないよ」「本当に駄目で お馬鹿さんなのは 私なんだから」

女の子たちはほっぺたをくっつけて泣いている。ここは重力のない世界。涙は宙に浮いて泡を描く。ささちゃんと女の子は はなまでズビズビだ。涙も鼻水も 思いも止まらない。


「ねえ ささちゃん」「ぎゅってしていい?」

返事はない。ささちゃんは目を閉じたまま ふるえそうな体で涙を堪えている。

「ごめんね」

女の子がふわり、と抱きしめた。


「ささちゃんの作った音楽、すごくいいの。とってもやさしくて」

ささちゃんの体がふるえてしまう。「それでね、何度も聞いてたらいろんな音が聞こえるようになった」



「ささちゃんの声も ちゃんと聞こえるようになったよ」





ささちゃんは声をあげて泣いてしまう。それでいい。ささちゃんの涙は善いことを頑張ってきた証。傷だらけの壊れそうな体で 誰にも負けずに 頑張ってきたのだ。泣いたっていい。泣いてもいいんだよ。


「 あ、ありがとう」「こちらこそありがとう」

「ささちゃん、大好きだよ」「僕は」「うん」「僕はね」「うん」「……。」「えへへ、言いたいこと言えないささちゃんも可愛いよ!」

長いささちゃんの髪を撫でる。オレンジ髪の女の子はもう泣き止んで笑顔だ。


「んぎゅー!」「はわ…ち、力、つ、つよい」「うん!強いよ!」「私は誰にも負けないんだ!」

「ラブラブ!ささちゃん!」「ほえ…」


「それで、どうしようか!」

オレンジの女の子は頭をふんふん♪とささちゃんにぐりぐりする。

「私たちはアンチ・グラビティー。みんなを楽しい気分に、浮き浮きとした気分にさせる」

「ふたり一緒で『アンチグラビティーズ』!そう決めたよね!」


「はい…」

「もうやめよう!!!!!!!!!!!」



夜景に向かってオレンジの女の子は叫ぶ。

「本当は あなたたちが馬鹿なんだ!!!!」

「本当に 本当に大切なことに気付かない。大勢で自分が正しい気になっちゃって、考えることもしない。そして人を傷つける」

「私は あなたたちを軽蔑します!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


「もう利用しないでくださーーーい!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


声が裏返りながら深夜の街に響く。聞こえているのか家の電気がいくつかつき始めた。ささちゃんはびっくりし過ぎて涙も止まってしまう。


「お、泣き止んだね。ささちゃん」「可愛い笑顔が見たいなあ」「うりうり〜」

「…ねえ、僕も 叫んでいいかな?」「もちろん!善いとも!!」




女の子たちは叫ぶ。きっと朝になるまで叫び続ける。町中の電気がギラギラ一面に満たされて うーん のり弁の海苔みたいだった!

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『アンチグラビティーズ』 糸井透子 @erkry

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