中間管理録カミサマ

あかさや

第1話

 わたしは神、転生の管理をしている。

 神といっても、たいした地位ではない。色々と使いを抱えているのは確かだが、上の立場にいる神は多い。人間の世界でいうならば、中間管理職というやつだろうか。


 神々の世界であっても、上と下に挟まれる立場は世知辛い。

 自分より上の立場の神は前時代的で狭量だし、下の若い神はなんだか理解を超えている。

 最近の若い神は……などと言いたくはないが、世代が違えば考えに隔たりが生まれるのは仕方ない。

 自分が若いときも上からこのように思われていたのだろうか?

 よくわからないが――きっとそうなのだろう。いまの若い神たちが自分と同じ立場になったときに、こんな思いをして悩まないでいいようになればいいと思う。


 どういうわけかここ最近、転生する人間が増えてきた。少し前までは閑職と言われていたはずなのにこれはどういうことだ?

 少し前まで、転生するにはかなりの徳を積まなければでくいなかった。

 だからこそこの部署で働く私はずっと残業もなく適当に楽をできていたのだが――


 なのに、ここ最近になって異様に転生する人間が増えたせいで残業続きだ。定時で帰れた覚えがない。

 なにがどうなっているのか、と上司に問い質してみると――


「最近、方針が変わったんだよ。混乱してる下界をなんとかするため――とか最高神は言っていたな。別の世界に行きたいって人間が多くなったんだって。その要望を聞いてみるとかいってたよ。ま、とにかくちゃちゃっとやってよ。簡単でしょ」


 その言葉を聞いて、私は上司をぶん殴ってやろうかと思った。

 なにがちゃっちゃとやってだ。

 こっちの仕事をろくにやらないくせに。

 転生の管理だって楽な仕事ではない。というか、楽な仕事などない。

 しかし、私は小心なので上司をぶん殴るどころか文句も言えなかった。同期で叛逆して地獄に突き落とされた神を知っていたからだ。この歳になってクビはごめんである。


 ともかく、転生の管理は死んだ人間を右から左へ流すだけではない。

 いくら方針が変わったといっても、変な人間を転生させれば私の責任問題になる。神というのは成果を出しても褒めないくせに、成果を出さないと突き上げてくるような輩ばかりだ。私は出世争いには興味もないし、しばらく前まで閑古鳥が鳴いていた部署にいるわけだから、とっくに出世コースから外れているわけだが――それでも、出世のために他神の揚げ足取りばかりする神は多い。

 杜撰な管理をしてその手の神から突かれて、減給やら降格などごめんである。せっかく、いい感じになってきた女神がいるのだ。減給や降格になったら、彼女にいいものを買ってあげられなくなってしまう。


 私は目の前に大量に積まれた転生者のリストに目を通す。

 出身・日本 性別・男性 年齢32歳 死亡時の職業・無職 死亡原因・トラックに轢かれて轢死。


 まただ。

 どうしてこの日本とかいう人間の国はやたらと無職がトラックに轢かれて死んでいるのか? なにか間違っていないだろうか?


 さらにわけがわからないのは、現世ではろくでもないだった奴が、異世界に行くとやたらと大活躍するのである。どうして、生きていたときのろくでもない奴が、転生したらいきなり大活躍するのか? これも間違っている、ような気がする。確かに、上司から「そのまま転生させても意味ないから、なんか特殊能力とかつけてあげてね」と言われて、その通りにやったのは事実だ。

 だが、多少特殊な力を手に入れたからといって、根本的に変わるわけではない。人間が変わらない生き物であることは充分に理解しているつもりである。


 しかし、この日本からの転生者は他では考えられないほど成果を出しているのも事実であった。

 こちらはたいしたことはやっていないのに、成果を出すせいで、仕事が増えてしまって非常に困っている。もっと、無駄死にしない程度で適当にやってくれればいいのに。転生した人間が成果を出しても、こちらは閑職で出世は望めないのだ。それなら楽をしたほうがいいに決まってる。


 この人間も特殊な力を与えて適当な異世界に転生させれば、成果を出してしまうのだろうか? トラックに轢かれて死んだ無職の当たり具合は馬鹿みたいな打率である。私が把握しているだけでも七割は越えているはずだ。

 はっきりといって、これ以上仕事を増やされるのは迷惑である。問題は起こしてほしくないが、成果を出してほしくもない。

 だが、上はトラックに轢かれた無職の当たり具合を知っているから、無視するわけにもいかない。そんなことをすれば、せっかく当たり障りもなくやってきたのが無駄になってしまう。


 私は近くにあった特殊能力事典を取り出した。

 成果を出しそうになく、それでいて無駄死にはしなさそうな能力を探す。

 亀に返信できる能力というのが目に入った。

 これなら成果も出さなそうだし、無駄死にもしなさそうである。

 これにしよう。

 私はその人間の転生を承認する。


 願わくば、彼が成果を出さずにかといって無駄死にをしないことを祈りながら。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

中間管理録カミサマ あかさや @aksyaksy8870

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ