第2話
「だから! この作品の一番の見所はヒロインだけじゃなくてサブ的キャラもめちゃくちゃカワイイってとこなんだよ! なんでそれが分からないんだ!」
「カワイイかなんて聞いてないでしょ! 私が言ってるのは、ほとんど絡みがないのに何でこの子は主人公に惚れるのかって言ってんのよ!」
俺――宮藤修也(くどうしゅうや)は一人の女子生徒と激しい言い争いをしていた。
七月八日。
水曜日。
天気は晴れ。
時刻は十六時十五分。
場所は神奈川県立寿皇高等学校の文芸部の部室
この春からこの寿皇高等学校に通っている俺は文芸部に入部した。理由は簡単。文芸の一つである『ラノベ小説』を世に広めるためだ。
ラノベ小説。正式名称ライトノベル小説。登場人物であるキャラクターを重視した小説であり、異世界ファンタジーやラブコメ、現代ドラマなどジャンルは様々。一般文芸に比べてセリフが多く、挿絵を組み込むなど読者がストレスフリーで読みやすい小説だ。可愛らしい魅力ある女の子も登場し、メインヒロインだけでなくサブ的キャラの女の子でさえ主人公よりも人気になる作品も存在する。また、近年では異世界転生ものが流行っており、様々な転生物語が世に出ているのだ。
今ではアニメ化や大々的なイベントまで開催される小説もあり、ニュースで取り上げられるほどラノベ小説の人気は高くなっている。俺もそのラノベに魅了された内の一人だ。
しかし、人気と言ってもまだまだ一部の人間にだ。その証拠に、俺の教室にいるクラスメイトの半数以上は、アニメを知っていても原作であるラノベ小説を読んでいない。
これはいかん。あってはならない事態だ。ラノベ小説はもっと多くの人に読まれるべき小説であると常々思っている。だが、現状は今挙げたように自分の周りですら認知度は低い。
ここは俺が普及活動をする時ではないか? ラノベ愛なら誰にも負けない。この愛を、そしてラノベの魅力を伝えればきっと虜になるに違いない。そして、本が好きな人間が集まる文芸部でならそれも果たせる。目標への一歩としては相応しい場所だろう。そう思った俺は文芸部へと入部を決めたのだ。
しかし……。
「なんなのよ彼女。数ページ前まで主人公の事、とんでもなく敵対視してたじゃない。それが何でパンツ見られて意識するようになるのよ」
「愛が誕生するのに理屈も方程式も存在するか。相手を意識し始めた時、そこから恋愛は生まれるんだ」
「パンツ見られてから始まる恋愛模様なんて見たことも聞いたこともないわ!」
「バカ野郎! ないからこそ劇的なんだろうが! 二人のこれからの恋模様、気になるだろうが!」
「気になるかぁぁぁぁ!」
女子生徒の叫びが部室に響き渡った。
現実とはなんと厳しい事か。日本中に広めるという目標を掲げたが、そううまく運ばない。一歩目から大きな壁が立ち塞がるとは思いもしなかった。
「相変わらず激しい言い争いだな」
「よく飽きないよね~」
部室の中央、テーブルの席に着いて俺達の戦いを呆れ混じりに見ていた二人が溜め息を付く。
一人は唯一、二年生の部長、早乙女凛子。フワッ、とした黒の長髪に、少し長めの睫毛、目元には泣き黒子がある。豊かな胸の持ち主で、整った顔つきをしている。
「部長、このラノベは面白かったですよね?」
「まあそうだな。ラノベではお決まりの展開で、私は普通に読めた」
「でしょ? このフロストって女の子も超絶カワイイですよね?」
「……いや、超絶とまではいかない」
「なん、だと……?」
バカな。これだけの魅力あるキャラは久し振りに見たというのに。
「柏崎、お前はどうだった⁉」
もう一人の部員、柏崎可奈子にも聞いてみた。
俺と同じ一年生で、ショートヘアーで少し茶色がかった小柄な女の子。常に笑顔が絶えない明るい奴で、口から見える八重歯といつも首から掛けている白い笛が特徴的だ。
「う~ん、私も面白いとは思ったよ」
「だろ? パンツ見えた所とかドキドキしたよな?」
「それはないよ、シュウちゃん」
「何⁉」
「私も女の子だよ? 同性のパンツ見たってドキドキしないし、男の子にパンツ見られたら怒るよ」
「なぜだぁぁぁ!」
部員の誰一人理解してくれない状況に、今度は俺が絶叫し床に崩れ落ちた。
何で誰も分かってくれないんだよぉぉぉ! カワイイ女の子のあられもない姿を見たらその子が気になるだろ普通!
「ほらみなさい。やっぱこの女の子おかしいわよ」
俺の頭上から貶してくるのは先程まで言い争いをしていた女子生徒、二階堂絵理奈だ。
ポニーテールの黒髪に、百六十台の身長。スラッ、としたスタイルに二重瞼、白い肌に小さめの鼻と口。優しそうな顔つきだが、性格は最悪だ。
「恋愛模様もそうだけど、この主人公もなんなのよ。なんで最初からこんな強いの?」
「当たり前だ。このラノベの主人公は最初から最強なんだ。始まりからすでに敵なし」
「そこもおかしいでしょうが。なんで最初から最強なのよ」
「今、ラノベ界ではチートが主流なんだよ。戦いながら汗と血を流して少しずつ成長していく展開ではなく、手のひら返すように敵をあっさり倒す物語が好まれるんだ。知らんのか? 研究が足りねぇな」
「そんな物語のどこがおもしろいのよ。最初から強いんじゃ勝って当然じゃない。勝敗が分かりきってる戦いなんか退屈でしょうよ。それに、研究なんかするか。ラノベの研究するぐらいならトリックの一つ二つを考えた方がよっぽどためになるわ」
「ラノベをなめるなよ。普通に考えればお前の言う通りだが、その固定されている発想を逆転させ、尚且つおもしろい物語へと紡いでいるんだ。ただ強いだけでなく、そこから垣間見える主人公の苦悩、友情、愛情……」
「何が友情、愛情よ。どうせ女の子が目当て――」
「そしてパンツ、おっぱいというスパイスを加え、ハーレムという極上の一品を作り上げる。それがラノベの真骨頂じゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
「やっぱりそれ目当てじゃないのよこのドすけべ野郎がっ!」
再び二階堂との激しい言い争いが勃発する。
とまあ、今俺がいる文芸部はこんな感じだ。俺、二階堂、早乙女部長、柏崎。この四人が部員であり、そしてこの二階堂との戦いも部活動の最中なのだ。
その部活動がどんなのかと言うと……。
「宮藤君。君が今回オススメしてきたラノベは、内容はたしかに面白い。しかし、登場人物の女の子が少しエロ過ぎると私は感じたぞ」
「ぐっふぅあ!」
「私も同感です。正直要らないであろう所までエロが入ってましたよね」
「ぶはぁ!」
「はい! あと、胸が大きすぎると思います! 学生の身でこんな胸のある子はいないと思います!」
「ぐあぁぁぁ!」
連続のボディブローの後、柏崎の右ストレートの一言で俺はダウンした。
今俺達が行っているのは読書感想発表会。部員がオススメする小説を提示し、それをみんなで読み合って感想を言うというものだ。全員で意見を交わす事で、自分にはない思考を聞ける。小説をより深く、もしくは新たな発見など、個人が刺激になるという理由から始めたものだった。
そして、今回その発表対象になっていたのは俺がオススメしたラノベ小説『最強騎士ですが、胸の大きい子はもっと最強です』。内容は、各地のエリートが集まり騎士を養成する学園アバランティアで、そこに入学した主人公が幼馴染みのヒロインと再開し、共に勉学や訓練をして過ごす学園バトルラブコメ。甲冑に身を包んで闘うシーンや、胸の大きい魅力ある多くの女の子達との絡みが楽しい物語だ。
しかし、結果は不評。
「俺の……俺のイチオシのラノベが……」
涙が止まらない。傍らにある最強騎士にそっと手を添える。みんなからダメ出しされ、どこか寂しそうだ。
「いや、宮藤君。泣くほど落ち込まなくても……舞台は興味深かったからな?」
「そうだよシュウちゃん。甲冑を身に付けて闘う所は、あ、熱かったよ?」
「部長……柏崎……」
少なからずも、ラノベの良さを口にした二人に嬉しさの目を向ける。
「そう? 私は全然面白くなかったわ。戦闘シーンはほんの少し剣が交えたぐらいだし、キャラクター達も胸以外個性がなかったと思うけど?」
「ド畜生ぉぉぉぉ!」
こいつひでーよ、マジで。追い撃ちかけて来やがった。安心しろ、最強騎士。俺だけはお前の味方だからな。
抱き抱えた後、強騎士をそっ、とテーブルに置く。それから、二階堂に聞いてみた。
「なあ、二階堂。お前は何でそんなにラノベが嫌なんだ? 何が気に食わない?」
「決まってるわ。つまらないからよ」
「つまらなくねぇよ! 面白いじゃんか!」
「どこがよ。出版されてる小説のほとんどが似たり寄ったりの物じゃない。斬新さがないわ」
ふん、と腕を組んで蔑みの目を向けてくる二階堂。
既にお分かりだろうが、二階堂はラノベ小説が嫌いなのだ。これまでこの読書感想会で何度かラノベを薦めて来たが、一度として面白いと言ったことがない。
「たしかに似たような作品が多いことは認める。だがな、多いということはそれだけ読者が求めているものだということだ。ただ似ているだけじゃここまで人気にならんだろ」
「だからつまらないのよ。私からしたらどれも大差ないのよ」
「お前のミステリーよりかは全然面白いだろ」
「はあ? 何言ってんの? ラノベなんかミステリーの足元にも及ばないわ」
「んだとてめぇ! ラノベの方が劣るとはどういう意味だ!」
「そのままの意味よ。いい? ミステリーというのはね、ラノベみたいに登場人物達の絡みを楽しむだけじゃないのよ。被害者が一人また一人と増えていき、その度に生き残った人達の心情が描かれているの。そして、読み進めるうちに登場人物と同調し、まるで自分もそこにいるような錯覚を起こす。ミステリーの世界に入り込めるのよ」
また始まったよ。二階堂のミステリー講義が。
俺がラノベを好きなように、二階堂はミステリーが好きなのだ。特に、館や孤島など隔離された場所で殺人があるクローズドサークルミステリーが好物。話し出したら止まらなくなることもしばしばあり、。今はそれに近い状況だ。
「でもそれだけじゃない。事件はなぜ起きたのか、それを犯したのは誰なのか、トリックはどういうものなのか。それらが徐々に明らかになっていく展開も楽しめる」
二階堂は熱く語り続けるが、俺はミステリーには興味がない。話には共感できる部分がなく、案の定すぐに眠気が襲い掛かり、夢の世界が俺を誘い始めた。
ああ~、瞼重て~。夢の世界のエルフが俺を呼んでる~。どうせ見るなら、可愛いエルフと戯れる夢がいいな。あ、バトル系でもいいや。能力は炎……いや、雷属性がいいな。
「そして最後に待っているのは驚愕の真実。予想を上回るトリックと犯人。それを完璧に、見事に見抜いた探偵はカッコイイ――って話聞きなさいよ!」
「聞いてたよ。そりゃあもう、ばっちり」
「じゃあ、私何て言ってた?」
「エルフの世界を救ってください」
「何の話⁉ 私がいつエルフなんて言葉使った!」
ギャーギャーうるせぇな。少しトーンを落とせよ。
「これだけ言ってもまだミステリーの良さが分からんか!」
「分かろうとも思わん」
「ムキィィィ!」
「まあまあ、二階堂君。落ち着きたまえ」
部長が二階堂に手を振ってなだめる。
「ラノベを好む宮藤君みたいに、二階堂君はミステリーが大好きなんだな」
「はい。ミステリーは最高の物語です。犯人が判明したかと思いきや、さらにどんでん返しが待ち受けている。また騙された! ってなった時のあの気持ちの高鳴り。くう~、たまりません!」
いやいや、騙されて何で気持ちが高鳴るんだよ。てめぇこのやろう、って怒るだろ、普通。騙されて嬉しくなるとか、お前はMなのか?
「たしかに、ミステリーではそのどんでん返しが肝だな」
「そうです。どんでん返しとミステリーはかけ離せない関係です。それがあるないでは質が断然違います」
「ラノベだってあるだろ。どんでん返し」
「どこに?」
「ほら、バトルの最終局面。負けそうな主人公が窮地を覆すじゃねぇか」
「あれはどんでん返しとは言わない。読者の予想を覆すのがどんでん返しよ。あれはただの平凡なバトル」
「何ぃぃぃ⁉ どこが平凡だ! 手に汗握る熱いバトルだろうが!」
平凡と言われては俺も黙っちゃいられない。
「全然ね。この前読んだラノベなんかむしろ冷めたわ。主人公が負けそうになってたけど、ただ女の子に手を出さないという信念からボロボロになってただけじゃない。しかも、今まで攻撃してた相手の女の子は途中で心折れて負けを認めるとか、意味分かんない」
「バカやろ! その女の子、ミッシュリーゼは今まで可愛いなんて言われた事なかったんだぞ? 自分の生い立ちを気にして、回りからも冷たい目を向けられていた。そんな中、敵でありながらも始めて主人公から可愛い、って言われたんだ。惚れるだろ!」
「惚れるか。女の子見ればあちこちで可愛い連発する男なんか魅力も何もないわ。何でそんな男に心奪われるんだか。それに、その女の子最後は裏切ろうとした組織に殺されたじゃない。バカみたい」
「ミッシュリーゼをバカにするなぁぁぁ! ミッシュリーゼは指令よりも自分の心に従ったんだよぉぉぉ!」
何でそんなに無感情なんだよ。メチャクチャ感動シーンじゃん。『私に、愛を教えてくれて、あり、がとう……』って号泣するだろ。ちくしょお、あんな健気なミッシュリーゼを殺したグランワーゼは絶対許さねぇ!
話を思い出した俺は悲しさと悔しさから涙を流し、テーブルを叩きつける。
「ふむ。二階堂君はラノベが合わないんだな」
「はい。ラノベって、女の子が出てればいいみたいな感じじゃないですか。物語の厚みが薄い印象です」
薄くねぇよ。これでもかと言うぐらい凝縮されてるだろ。
「宮藤君はラノベ。二階堂はミステリー。ジャンルは違えど、小説に思いを馳せるのは同じなんだが、互いにそのジャンルが苦手、か」
部長の言う通り、俺と二階堂は互いのジャンルが苦手なのだ。ミステリーは堅苦しいと感じる俺に対し、二階堂はあっさりしすぎて読み足りないという。まさに非対称。磁石のプラスとマイナスの関係。
「好みの問題もあるだろうが、お互い少しは認め合ったらどうだ?」
「二階堂がラノベを認めたら考えます」
「宮藤がミステリーを認めたら考えます」
「いや、相手を先にするのではなく、自分から認めてはどうかと――」
「二階堂がどうしてもと言うなら考えます」
「宮藤がどうしてもと言うなら考えます」
「……ダメだ。二人とも譲る気がない」
「めんどくさ~」
脱力して溜め息を付く部長と柏崎。
自分から? それは無理な提案だ。ラノベは崇高な小説なんだ。魅力ある可愛い女の子、異世界やファンタジーでありながら架空とは思えない世界描写、読者の心を惹き付ける設定と物語。まさに小説の中の小説。これを知らずして小説は語れない。ミステリーを認めるより、まずはラノベの良さを知ってもらう方が先だろう。
「ほんっと、二人は似た者同士だね」
……ピクッ。
「似た者……?」
「同士……?」
柏崎の台詞に、俺と二階堂の体が反応した。
「ちょっと待て、柏崎! 俺をこいつと一緒にするな!」
「そうよ柏崎さん! 何で私がこんな変態妄想野郎と一緒なのよ!」
椅子から立ち上がり、柏崎に詰め寄る。
「いや、似てるでしょ」
「似てるか。俺はこんな人がばんばん死ぬミステリーを好む変人とは違う」
「誰が変人よ。柏崎さん、撤回して。こんなヤツと同類にされるぐらいなら、ドラム缶にコンクリート流し込んで、その中に宮藤を放り込んで海に捨てるわ」
「そうだ。俺だって二階堂と似てるなんて言われたら死――って待てこら! 何で俺!? そこは自分が死ぬんじゃないのかよ!」
「嫌よ。何で私が死ななきゃならないのよ。片方がいなくなればいいんだから殺せば万事解決」
握り拳を作って、何かの決意をする二階堂。
怖ぇよ。こいつならやりかねねぇよ。夜道気を付けて帰らないと。
「というわけで宮藤、土下座しなさい」
「どういうわけで⁉」
「あんたみたいなのと同類に見られた私に対してよ。当然でしょ?」
「全然意味が分からん!」
「土下座して謝るならドラム缶じゃなく、縄で縛って海に投げてあげる」
「変わんねぇよ!」
「縄ならほどいて生きれる可能性があるわ。可能性を残すんだからありがたく思いなさい」
思うか。まず殺すことをやめろよ。
「ほら、さっさとやりなさいよ。『神様仏様ミステリー様を汚して申し訳ありません』って」
「おい、お前いい加減にし――」
「ふんっ!」
「おわっ!」
二階堂の肩に手を掛けて止めようとしたが、その瞬間体が浮いた。上体が反転し、背中から床に叩き付けられる。
「人の肩に触れないでくれるかしら?」
パンパン、と手を叩きながら俺を見下ろす二階堂。
「いって~」
「ピピピーッ! 一本! 一本です!」
痛がって寝ている俺に向かって、持っている笛を吹きながら柏崎が審判の様に高らかにコール。
何が一本だ。柔道じゃあるまいし……いや、ちょっと待て。今のは柔道の技じゃないか? まさか……。
俺は抱いた疑問を柏崎に聞いてみた。
「おい、柏崎。お前、二階堂に柔道教えたのか?」
「えっ? うん、教えたよ」
やっぱり……。
文系である文芸部で、唯一体育系の能力を備えているのはこの柏崎だ。中学まで柔道をしていたらしく、その実力はかなり高い。何せ、男の俺を軽々と投げれるぐらいだから。
「何で教えたんだよ?」
「いや、えりっちに頼まれたから」
「二階堂に?」
「最近物騒だからね。柏崎さんに教えてもらったの」
仁王立ちして俺を見下ろす二階堂。
「今のは綺麗に決まってたよ。えりっち、ナイス!」
二階堂に親指を立てて突き出す柏崎。
「ナイスじゃねぇよ。攻撃的な性格なのに、行動まで攻撃的になったら手に負えない――」
そこで俺はある物が視界に入ったため、思考と体が停止した。
「防犯グッズもあるけど、それが使えない状況もなくはないはず。防御だけじゃなく、素手による攻撃も覚えなきゃ危ないわ」
二階堂は気付いていないらしく、話を続けている。
「それに、身近におっぱいとかパンツとか口にする変態もいるわけだし。いつ変な事されるか分からないわ。今のうちに身に付けとかないと――」
「二階堂君」
「何です、部長?」
「現在進行形で変な事をされているが、いいのか?」
「はい?」
「下、下」
「下?」
部長に指で指摘されて、ようやく二階堂が俺に顔を向けた。
「……無地の薄緑か」
「……っ!」
状況を把握した二階堂が慌ててスカートを押さえる。その顔は耳まで真っ赤だ。
はあ~。違う、違うよ二階堂。学生のパンツは基本、縞パンツだよ。『無敗の最弱機甲使い』『神龍学園イフリート』『電光石火の娘×堕落の王』。ラノベの学園もので、女の子学生はみんな縞パンツだぞ? なぜかって? 縞々が一番色気があるし、至高の柄だからだよ。そう。だから、お前もそれに習って足を上げてそのまま俺の顔を踏みつけてきたぁぁぁぁ!
力の限り振り下ろした二階堂の右足が、俺の顔面にメリメリと食い込む。その後も、五、六発の踏みつけが炸裂した。
「うごぉぉ……鼻が……鼻が……」
「スケベ! 変態! 覗き魔! 青酸カリ飲んで死ね!」
二階堂の罵声が部室中に響く。
こいつ、本気で踏んできやがった。鼻、折れた? それとも引っ込んだ?
「ピピピーッ! 一本! 一本です!」
一本じゃねぇ! どう見ても反則だろうがっ!
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