第3話 着信

布団を干し終わり、家に入ると、ちょうど昼寝から起きた瑠璃が泣いていた。


どうやら私が見当たらなくて、寂しかったらしい。それは分かっているのだけれど、毎日泣かれると、本当に嫌になる。  


「もぉー。なんで泣くの。もぉー。いい加減にしてよ。ママだってやること一杯あるんやから。」


優しく言えたら良いのに。本当に私は大人になりきれない。


「ママ嫌いー!パパが良いー!」

そんな私の気持ちを瑠璃に見透かされたのか、瑠璃はパパっ子だった。


私の嫌いな旦那が瑠璃の父親だった。

その事実が私のイライラに拍車をかける。


「もぉー。今日はパパは居ないの!」


そう言えば、瑠璃も最近父親と接する機会が少ないかもしれない。仕事の忙しさを口実に旦那はめったに家に居ないからだ。


瑠璃の気持ちは分かるけれど、私達は家族としてはすでにオワコンだった。


そんなことを考えていたら、珍しく私のスマホの着信が鳴った。


旦那からの着信が無くなってから、私のスマホはめったに鳴らない。

 

「もう~忙しい時に誰なんよー!」


私は瑠璃を抱き抱えながら、着信履歴を確認した。


目に飛び込んできたのは、高校生の頃、付き合っていた元彼の番号だった。


好きで、大好きで...。

でも振られてしまった元彼の番号。


その元彼とのプリクラだけは捨てられなかった。押し入れの奥にしまいこんでいた。


「...まだ番号変わってなかったんだ...」  


...かけ直してみたら?


私のなかの女の性が呟いた。


「...ママ?どうしたの?」


私の腕に抱かれがら、瑠璃はなにかを察したように、私の顔を見て呟いた。


瑠璃がいつもより重くのしかかるように感じて、罪悪感から瑠璃を床におろした。


....旦那だって、もう他に女がいるかもしれないし...。


私の中に必死に自分を正当化しようと言う気持ちが芽生えた。


そして、震える手で電話の受話器のマークを押した。


呼び出し音のコールを聞きながら、


「母親が自己犠牲になるなんて時代に合わないんですよ」って言葉が妙に説得力を増してカムバックしてきた。


そしてほんのさっきまで観たこともないオジサン評論家のぶっ飛び発言だと思っていた「男性が女性ばかりに自己犠牲を強いるから、不倫する女性も多くなる」みたいなセリフが何度も私の頭の中をエンドレスリピートしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夕焼け @hotlove

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ