第2話 女の性
朝、何気なくテレビをつけたら観たこともない評論家のおじさんが「お母さん」についての歌の歌詞を批判していた。
どうやら「お母さんばかりが自己犠牲を強いられるのは時代に合わない」とかなんとか言って批判しているようだ。
誰でも評論家になれる時代だからか、その評論家のオジサンは早口でまくし立てるように、
歌に対する批判コメントを「男性が女性ばかりに自己犠牲を強いるから、不倫する女性も多くなる」みたいなぶっ飛び発言を交えつつも、早口でまくし立てていて、司会の人が若干困っていた。
テレビから流れるそんな様子をボーッと眺めていたら、4歳の息子の琢磨が盛大に牛乳をこぼした。
思わず「あーっ!」と声をあげたら、その声にビックリして、今度は下の2歳の娘の瑠璃も持っていたジュースを盛大にこぼしてしまった。
「もう何やってんねんよぉー!」と母親の私があきれた声をあげると、息子も娘も怒られると察して、ちょうど飲み物をこぼしたところを踏見散らかしながら、布団の中に逃げ込んだ。
「あー!もう!今日は曇りやのに、布団干さなアカンやん。はぁー。」
思わず、ため息が漏れた。
こんなハズじゃなかった。
髪だってボサボサだし、どうせ汚れるから、いつも同じような服。
面白いことなんて、何一つない。
自分がやりたいことなんて何一つ出来ない。
私はただ子供の世話をして、子供を叱って、散らかしたオモチャを片付けるそんな役割だ。
漢字で書くと「損な役割」。
本当にそう思う。
子供から離れる時間も欲しくて、働きに出たいと思ったこともあったけれど...。
住宅ローンまで組んで購入した家は駅から30分。おまけにバスの本数も少なくて、バスが一本も走っていない時間帯まである。
更に下山登山のような急な坂道。
私は...って言うと免許無し。
そして旦那は泊まりの仕事。
泊まり→明け→休みの繰り返しの仕事で、最近は夫婦仲も冷めてしまって、明けも帰って来るのが遅いし、休みの日も一人で出かけてしまって、めったに顔を合わせなくなってしまった。
見た目の問題じゃないけど、はじめから、旦那みたいな人は私の好みのタイプじゃなかった。
...なんで結婚したんだろう。
ふとそんな考えが頭をよぎった。
旦那が珍しく家にいると思ったら「部屋が散らかっている」とか「子供の世話をもっときちんとしろ」とか「要領よく家事をこなせ」とか。
私が反論してしまったら、喧嘩になって、やっぱり旦那は外に逃げ出す。
私だってもっとちゃんとしたい。
隣の芝生は青いじゃないけど、どこの芝生も我が家より青々と繁って見えてくる。
いわゆるリア充ってやつが羨ましい。
...私は...。
...私は...。
...私は違う。
リア充からはかなり遠い位置にいる現実。
いつも幸せとは程遠い。
こんなハズじゃなかった。
もっとちゃんと家事をして、もっときちんとした母親になって...。
駅が近いオシャレなマンションで暮らして、その家から出てくる小綺麗な母親。
優しくてスラリと背が高くて年収も良いダンナと家事もきちんと出来る小綺麗なお母さん。
そう言う家庭に憧れてた。
でも現実は違って、旦那の希望で戸建て。
小綺麗とは程遠い身なりしか出来ない自分。
私だってそんな理想とは程遠い毎日から逃げ出したかった。
自分は家事も育児も向いてなくて嫌いなんだと思った。
「現実を見ろ」って嫌味しか言わない旦那にも冷めてきた。
でもほんの少しで良いから温もりも欲しかった。
牛乳とジュースを拭きながら、情けなくて、涙がこぼれた。
「ママ?どうしたの?」
琢磨がその様子を不思議そうに覗き込み私の頭を撫でてくれた。
どうやら母親の私が泣いていたから、心配してくれたようだ。
母親の私はと言うと、幼稚園のバスの時間が迫っているのに、まだなんの用意も出来てなかった。
本当に母親失格だ。
私は母親にはなれない。
バス待ちの間、無邪気にはしゃぐ子供達を見ながら、その視線は母親の暖かさではないように冷たかった。
私は母親である前に、一人の女性だと、瑠璃が昼寝をする間に、子供達が汚した布団のシーツを洗いながら、私の中の女の性がうずいた
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