蚤男のサアカス
安良巻祐介
私の机の上には蚤男が棲んでいて、夜ごと器用に芸をする。豆粒よりも小さい体と醜やかな面でもって私の心を掻き乱す。彼はほぼ身一つだが、その手にかかれば机の木目模様や散らばる芥や埃や、壁蝨や虫の死骸などが全てサアカスの材料となる。骨道化、偽造魔法陣、マイクロ細工の垂れ幕に屑吹雪、虚ろ胴の侏儒楽団、虫犬や虫兎やボルボックスもどき。小さな手でどのような技を使うものか、蚤男以外一つも生きたもののないはずなのに、その小さく邪悪なサアカスは気味の悪いほど全てが生き生きと蠢く。私は私の机でそんな催しをやるのをやめてほしくてたまらないけれども、潮の満ち引きが月の満ち欠けに引かれるように、そのサアカスは全て私の心の有り様に引かれて動くことを知っているからどうしようもない。蚤男のサアカスの天幕の上に浮かぶ痘痕だらけの陰気な満月は、私の心だ。その月の有る限り、蚤男とサアカス団は、いつまでも続く不安と不穏の夜を謳歌してやまないのである。
蚤男のサアカス 安良巻祐介 @aramaki88
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