第7話 非道い女
世の中、非道い奴ってのは探せばごまんといる訳で、そのカテゴリーで言えば、私の人生において彼女以上の非道い奴は、いまのところ現れていない。
今回は友人、というよりは過去の知り合い、と言ったほうがいい間柄ではあるが、強烈なインパクトを残してくれた後輩について語ろうと思う。
※本作は相当にゲスい話です。シモネタやゲスい話に耐性の無い方はご遠慮ください。
「ありがとぉございましたー☆」
黄色い声で客を見送るのは、
彼女を誤解なく表すなら、嫌味のない小綺麗で小さなおデブちゃん、だ。
まずメイクが完璧だ。ナチュラルメイクは清潔感たっぷり、彼女の武器とも言える張りのある素肌の魅力を一段と引き出している。笑顔は一級品、声はよく通るし女子力だって十分にある。
しかしおデブちゃんである。身長は150cmを割り込むかもしれないと言うところ、たるまない程度に張りのある健康的なぽっちゃり延長系で、それでいてイマイチ美人じゃない。
私が入社した頃にはすでに、同僚から「装備品は超一級品、中身はゴミ以下」と呼ばれており、「おいおい、後半はひどいんじゃないか」と心で思っていたのだが、しかしその認識は間違っていなかったと後になって思うのだ。
まず彼女はモテない。しかしこれは日本人男性に限った話で、こと視野を広げてみると、むしろ逆にモテる。特に黒人男性からの人気が凄まじく、外国人が多く集まるバーに友達と潜入し、お持ち帰りされる日が、それこそ週間イベントかのように発生する。
そしてそれを隠さない。当時職場にはそれを分かっていてちょっかいを出す、目立つ男性職員がおり、そんな彼女の変化に気がつくのだ。
「おい、お前昨日、あれだったろ」
「ええッ!? もう先輩、なんでわかるんですかぁ~?」
二人して声が通るもんだから、彼女の自白は結局のところ殆どの人が耳にすることになる。当時の店長は高齢の男性だったが、「娘がこんな風になってしまったと知ったら、胃が痛いでは済まされないよな」と心を痛めていた。
そのオープンさは先程の先輩限定では無く、誰に対してもであるというところがまた彼女のビッグさの証でもあった。
ある日、配置の問題で彼女が私の隣に座ったとき、
「っつ! ……いったぁー」
と小声で痛みを堪えていた。私は体調不良かと思い、
「大丈夫? お腹いたいの? ここは私が見ておくから、休んでていいよ」
と声を掛けたときの話だ。
「あ、いえ、大丈夫です。ちょっと今、ヒリヒリしてて」
「ヒリヒリ?」
「そう、お股が」
「……は?」
耳を疑うとはこの事である。
「昨日、休みだったんですけど、5回もしちゃって。それで少し痛くて。だから大丈夫です♡」
目が点になるとはこの事である。一体何が大丈夫なのだろうか。
さてそんな彼女のとびきりエピソードをご紹介しよう。
毒島には、一応、彼氏がいる。その彼氏は2つ年上のそこそこお金もちで、その地域に広大な面積の土地を代々持つ、土地百姓と言うやつだった。そこの長男かつ一人息子なので、なかなか柔らかく育った彼だったわけで、最初はそんな彼のアピールに嫌な気はしなかったそうだ。
「でも聞いてくださいよ。そいつ、マザコンなんですよ」
と、タバコをふかしながら語る彼女。結局そのマザコンぷりについていけず、交際からわずか一ヶ月で破局を迎えるわけなのだが、どういう訳かくっついたり離れたりを繰り返している。単刀直入に言えば、寂しいときだけ構ってもらうという、都合のいい男として扱っていたのだ。
そんな彼にハワイ旅行に誘われたらしく、なかなか行く気がしない彼女は、それを先程の目立つ先輩に相談していた。
「いやお前それ、行くべきだろ。まぁお前がそいつのことをどう思ってるかどうかは知らねぇが、普通に考えて、ハワイだぞ。滅多に経験できることじゃねぇんだし、ラッキー程度に思って遊んでくればいいじゃんか」
「んー、そっか☆ そうですよねっ! じゃあ行ってきます!」
そして彼女は「全額、彼氏のおごり」でハワイ旅行に一週間旅立った。
彼女のすごいところはここからである。
移動中、結局喧嘩ばかりだったらしく、まぁそれは彼女にそんな気がないからだとは思うのだが、初日の夜からそんな調子だったので、二日目の日中からは別行動を取っていたらしい、それで日中何をしていたかと言うと、彼氏に事前に渡されたカードで衣服を買いあさり、おいしい名物を食べ歩いた。その額は日本円換算で15万円を超えており、まぁこの時点でだいぶクズなのだが、そのことを夕食のレストランで指摘された彼女は激昂、レストランを飛び出し夜の海岸へ出かけたらしい。
泣いている日本人女性を放っておけない黒人男性から次々に声を掛けられ、有ろう事か、夜の砂浜でやることをやってきてしまった。
先輩「お前クズだなー!」
ちなみに彼女の英語力は決して高くない。付き合いの長い彼氏より、初対面の意思疎通が怪しい黒人男性を選ぶという時点で、彼女のネジの緩み具合が良く分かる。それも全額おごりのハワイ旅行中に、だ。
毒島「えー! だってぇ仕方ないじゃないですかぁ! 寂しかったんですもん!」
先輩「てかお前、やっぱり黒人のアレって、でけぇの?」
毒島「……はい♡」
先輩「ほんとクズ!」
私と店長は胃をキリキリさせながら話を聞いていた(というより同室にいたので聞かされたという方が正しいが)。
彼女はこれにとどまらない。結局ハワイ旅行中は彼氏といたすことはせず、買いたいものは買い、連日のように夜の海辺へと出向いて、ワールドワイドなワンナイトラブを築いてくるなど、文字通り「滅多に出来ない経験」をその身に刻んできたのだ。
「やっぱり海外はいいですね! 日本人より外国人ですよ。先輩もどうです? 海外旅行」
私「………いや、いい」
思い返せば、彼女もそろそろいい歳である。二言目には出てくる「理想の結婚」が叶ったかどうか、私は知らない。
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