第2話 二度あることは三度有る Byうんち
その衝撃的な告白は、個性派プロボーカルとして活躍する高橋氏(偽名)。
プロボーカルはアーティストボーカルのライブ等でバックコーラスを担当するミュージシャンだ。類まれなる声量と抜群のボイスコントロールを持つ彼は、オリジナルソングがかなり良い。アガれる曲から泣ける曲までその幅が広く、ライブをやれば常に満席だ。
「え、高橋氏もうんちもらしたことあるの?」
「うん、あるある。というか割とある」
「割とって、どれくらいよ」
「そーね、少なくとも一ヶ月に一回」
そこにいた誰もが目をひんむいて驚いた。高橋氏は個性あるステージングをするが、黙っていればかなりのイケメンだ。そのイケメンが一ヶ月に一回はうんちをもらすという衝撃がメンバーに突き刺さった。
「いやさ、ボーカルって結構腹筋使うのよね。特にバラードのテンション高い所とか、シャウトとか。ある時ライブ中にお腹が痛くなって仕方ないから漏らしたまま歌ってたんだけど、それ以来、なんか出やすくなったというか、癖になっちゃったみたいで」
彼の意外な告白とその真面目な語り口にメンバーのテンションは上がっていく。見た目とその行動のギャップが笑いを誘うのだ。
「えー、超以外! あんな素敵なバラード歌うのに」
彼のオリジナルソングには「君とはいずれ」というバラードがあり、メロディーの美しさはもちろんのこと、歌詞がまた泣けるのだ。愛の美しさ・悲しさを説いた上で、いつか訪れるであろう別れを示唆した内容に胸が詰まる。
だがどういう訳か最近のライブでは披露していないのだ。
「いや実はさ、あの曲が脱糞癖なの」
「嘘! まじで!?」
その場にいた女性陣の悲鳴にも近い笑いが響き渡った。
「一番盛り上がる所あるじゃん?」
そのオリジナルソング「君とはいずれ」には、二番サビと三番サビの間につなぎのメロディがあり、この時初めて、君が好き、明言するシーンがあり、一番のクライマックスを迎える。体の全身から絞り出された突き抜けるハイノートが抜群に気持ちよく、背筋が震えるのだ。
「あそこのさ、♪きみがすき~だと~♪、の、す~の所で、なんかいつも出ちゃうんだよね」
なんということだろう。愛を説くその瞬間に脱糞しているとは。
「それ以来、あの曲をやると絶対出ちゃうんだよね。だから、ファーストステージの最後に持っていったりしてたんだけど」
ワンマンライブを行う時は、やはりミュージカルと同じく前半・後半にわけていくことが多い。1stステージ、2ndステージと言った具合だ。各ステージの最後にはそれなりに盛り上がる曲を持ってくるのが普通だ。その方が次のステージに向けて期待感を与えられるからだ。高橋氏はそのセオリーとは異なり、「君とはいずれ」というバラードをステージの最後に持ってきており、それがメンバー内でも不思議だったのだ。
「ステージ中程に持ってくると、もらしたまま他の曲歌い続けないといけないじゃん? だからステージ最後に持ってきたの」
「なるほどねー。もしかして最近あれやらないのって」
「そ。このままいよいよ本格的に癖ついちゃうとこの先困るから、癖が治るまで封印してるわけよ」
まさかそんな理由で名バラードを封印しているとは思わなかった。私はそのステージにサポートメンバーとしてのったこともあるし、観客として見ていたこともあったけれど、あの曲で多くの女性は涙していた。そんな涙を誘う一番のシーンに、当の本人は脱糞してしまっていたという衝撃の告白だった。
ちなみに彼はその脱糞癖をなんとかしようと、高齢者向けのリハビリパンツを履きながらステージに乗ったこともあるらしい。しかし結果は、漏らしてもいいという安心感からより出やすくなってしまったので却下した、とのことだった。
彼らは今でも最前線で活躍している。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます