少年は襲われるその1

 ユーリス学園。未来ある若者たちが、魔物の脅威から人類を守るために日夜力を付けている学園。

 そんな勇敢な若者たちが通う学園に変化が起こったのは、魔物の襲来から一ヶ月が過ぎた頃のことだった。




 ――アルティの朝は早い。

 日が出始めたばかりの時間に起きて身支度を整えると、寮を出て鍛練をする。

 鍛練の内容はランニング、筋トレ、剣の素振り。これらを時間をかけて丁寧に行う。

 彼女がクラスでトップの成績を維持しているのは、この努力があってのものと言えるだろう。

 鍛練を終えた後は、親友でありルームメイトでもあるミリィを起こしに部屋に戻る。ミリィは寝起きが悪く、アルティは起こすのにいつも苦労している。

 何とかミリィを起こした後は、一緒に寮の食堂で朝食を取って学園に向かう。

 それが、アルティにとっての変わりない日常。

 しかし本日、その日常に小さな変化が生じた。

「ねえアルティ、あの子誰かな? 多分この学園の生徒じゃないよね?」

「そうね……新しく生徒が入るって話も聞いてないし、教官の親族か何かじゃないの?」

 二人は現在、Aクラスの教室にいた。

 時刻は授業開始十分前のため、Aクラスの生徒は全員揃っている。

 普段なら益体のない話をして時間を潰している彼らだが、この日ばかりは違った。

「あの子誰だよ?」

「編入生か何かじゃねえか?」

「編入生の話なんて聞いてないし、違うだろ」

 ざわめきと共に、クラス全員の視線がに向けられていた。

 年は十にも満たないであろう少女。瞳には感情の色がなく、窓の外をじっと見つめていた。

 いつからいたのかは誰も知らないが、少なくともAクラスの誰よりも早かったことだけは明白だ。

 何人かの生徒は素性を知るために声をかけたが、当の少女は反応すらしない。

 本来なら部外者は学園への立ち入り厳禁。見つけ次第追い出すのが決まりだが、そもそもの少女が話に応じない。かと言って、幼い女の子を強引に追い出すのは躊躇われる。

 結果として、Aクラスの面々は少女を遠巻きに見守ることしかできない。

 しばらくの間、何とも言えない空気が場を支配したが、それは一人の少年――カインが教室の扉を開けると共に破られた。

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それでも彼は、勇者だった エミヤ @emiya

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