おはよう。
ハイジ
目覚め
「おはよう」って優しく微笑む彼に、私は笑顔で抱きつく。
そして、そのまま彼とベットへ倒れこむ。
とても幸せな気分だ。
――ピピピピッ、ピピピピッ――
ここで私の意識は現実へと引き戻される。
徐々に覚醒していく意識の中で、私は自分の頬が湿っていることに気づいた。
それを拭って、病院へ行く準備をする。私に何か病気やケガがあるわけではない。
彼が病院にいるのだ。
彼は事故にあった。私の目の前で、私を守って。
あの日、私たちはデートをしていた。
2人で信号待ちをしていた時、1台の車が歩道に突っ込んで来た。後から聞かされた話だが、飲酒運転だったらしい。
彼は私をかばって車にはねられてしまった。
それ以来、彼は5年間ずっと眠ったまま1度も目を覚ましていない。
いわゆる、植物状態というやつだ。
あの日から私は毎日、彼の眠っている病院へ通っている。
私は今日も、反応がない彼の手を握りながら彼に話しかける。
「ねえ、覚えているかな。今日は記念日なんだよ。毎年お泊りしていたよね。
それで翌朝あなたは寝坊して、優しく笑って言うんだ。
『寝坊しちゃったかな』って。
私はそれに『私も今起きたところ』って答えるんだ。
ああ、大好きだよ。いつまでも、いつまでもずっと大好きだよ。
またあなたの声を聴かせてよ。また私を抱きしめてよ。もう1度私に微笑みかけてよ」
私は今にも泣きだしそうになって涙をこらえる。
するとその時、彼の手が私の手を握り返してきたように感じた。
私は驚いて彼の顔を見る。
そこには確かに目を開いた彼の顔があった。5年間1度も開かなかった目が確かに開いていた。
そして、ずっとずっと聴きたかった愛おしい彼の声が微かに聴こえてくる。
「お、は……う。ね……ぼ…し、ちゃった……な」
「ううん、私も今起きたところだよ」
微笑みかけてくる彼に、私は今度こそ涙を零しながら抱きついた。
おはよう。 ハイジ @6hige7
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