第9話:バブル崩壊と妻の死1(1980-1990)
1990年が始まり、大発会から、平成バブルがはじけだした。それと共に、円高が進んできて、日本株の低迷が続いていた。そんな時に、七郎にも、大きな不幸が、忍び寄ってきた。この年の夏に、七郎の奥さんが体調を崩し、入院した。1週間にわたり、東京のKO病院で精密検査をしたところ、原因不明の白血病だとわかった。
七郎は、一気に不幸のどん底に突き落とされ、どうして良いかわからなくなった。リチャードに相談すると、最善を尽くすしかないと言われ、後は、七郎の気持ちの持ち方だと言った。そこで、どうしようと言うと、七郎、君の人生は、君自身で考えるべきだと言われ、突っ放された様な気がして、気が動転した。
そこで、以前から、お世話になっている柔道の恩師に、相談してみることにした。彼は、人生って、良い時も悪い時もある、柔道人生だってそうだろ。悪い時き、お前はどうした?と聞かれ、平常心でしっかり練習に励んだと答えた。今もすべきだ、平常心を持って、ベストを尽くせと言われた。
人生の中で、どうにもならない事って、必ず、あるんだ、そんな時は、人は、運を天に任せて、平常心でベスト尽くすだけしかできない。結果は、だれにもわからない。つまり、運だ。でも、平常心でいることはできる。またベストも尽くせる。逆に言うと、それしかできないだよと言った。恩師からこの話を聞いて、少し落ち着くことができた。折角、柔道場に来たのだから、畳の上で座禅していけば良いだろうと言ってくれた。この恩師の優しい言葉に、七郎の目に、大粒の涙が浮かび、やがて、こぼれ落ちた。
少し落ち着いて、柔道着に着替えて、正座して黙想をすると、動転していた心が、晴れ渡る様に、暗雲が去って、太陽がさしてきた。何があっても、その時、七郎は、落ち着いて、平常心で、ベストを尽くそうと心に誓った。
その足で、KO病院のサリーの病室をたずねた。サリーは、七郎に、こめんね、こんな身体になってと謝った。その言葉に対して、七郎は、精一杯の笑顔で、仕方ないよ、運命には逆らえないからと言った。おちついて話す七郎を見て、サリーは、感極まって、大声で泣き出した。すると、七郎は、だまって、サリーの身体を抱きしめた。ひとしきり、泣いた後、サリーが、七郎を選んで本当に良かったと言い、又、泣き出した。サリーを抱き寄せていた七郎も、この言葉を聞いて、もらい泣きをするのだった。
その時、病室のドアが開き、リチャードが見舞いに来た。サリーと七郎の姿を見たリチャードが二人の身体を両腕ではさんで、頑張れよと、涙ながらに励ましてくれた。七郎は、やっと、自分がRCH家の仲間に入れてもらったような、妙な気持ちがした。人の感情って、生まれ、育ち、言語、国、性別、人種なんて関係ないんだ、わかる者には、わかるんだと再確認した。
看病の甲斐なく、翌月、秋風が涼しくなってきた頃に、サリーは天に召された。残された10歳のジョージと37歳の七郎は、参列者、数人の小さな葬式に参列して、参列者に、今日は、サリーの葬式に参列してくれてありがとう、私とサリーは、結婚して、わずか10年でお別れする事になってしまいました。でも、私にとっては、この10年は、100年、いやそれ以上にも匹敵するほど、楽しい日々、幸せな日々だった。幸いに、ジョージも授かり、サリー、君との楽しい日々の思い出とともに、君を絶対忘れな事を神にちかって贈る言葉としたいと話した。
そのスピーチに、参列者からは惜しみない拍手をもらった。日本式の葬式で、サリーの遺骨は、七郎が用意した、お墓に入った。最後に、七郎が、また、後で君の所へ行った時、楽しい時間を過ごしましょうという言葉を聞いて、参列者から、すすり泣く声が聞こえた。
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