絶対駄目です!



数分後--。

あかねとアーネストは黎明館に着いた。

既に午後九時を過ぎており、それぞれ部屋で各々の時間を過ごしているのだろう。

シャンデリアの豪華な明かりと静寂だけが、二人を包むんだ。


「思ったより遅くなってしまった。あかね嬢は明日も学校がある事だし、早く寝ないとね」



玄関でアーネストと別れた後。

二階までの階段を上がり、三階へと続く階段へ足を踏み入れた時、不意に後ろから声を掛けられる。


「あかね」

「結祈!」


自分の名前を呼ぶ優しい声に振り向けば、後ろには結祈の姿があった。


「おかえりなさいませ」

「ただいま。なんか色々と持ってるね」

「ええ。これから浴場へ向かう途中ですので……それより」


話を腰を折り、いつも以上の笑みを向ける結祈。

だが、よく見ると目が据わっているように見えた。


「貴女様は無事義務教育を終え、自身の行動に責任を伴う年頃に近付きましたが、まだ未成年で保護者が必要である事はご理解頂けますか?」

「そりゃあ……一応理解はしてるけど」

「ならば!!」


唐突に大きな声を出され、あかねは驚いて思わず肩が跳ねる。


「このような時間まで遊んではいけません!非常識です!聞いたところによりますと、今日は逢い引きだとか。男はみんな狼なんですよ!何かあったらどうするんですか!?」

「あ、逢い引き?狼?……いきなりどうしたの意味分かんないんだけど」


驚きと困惑に若干どもる。


「何を勘違いしてるか知らないけど、私は今日アーネストさんと一緒にいたんだよ」

「アーネストさん!?」


悲痛にも似た声を上げる結祈。


「いけません!絶対駄目です!彼はすけこましなのです!」

「すけこましって……まぁそんな感じだよね。あははっ」


真顔で言ったのが可笑しかったのか、言葉が面白かったのか、あかねは思わず笑ってしまう。


「笑い事ではありません!」

「大丈夫だよ。私とアーネストさんはそんな関係じゃないし、なることもないから」

「甘いです!そう思っていた女性が今まで数多にいたことか……!そのほとんどが、彼の毒牙に掛かったんですよ!」

「毒牙って。そんな大袈裟な」

「貴女に何かあっては遅い。今後一切、二人で出掛けては駄目です!話すときも半径一メートル以内に近付けさせない!いいですね!」

「えー」

「絶対駄目です!だめ、ぜったい!」


それから廊下にてしばらく話し続けたが、結祈は頑なに首を横に振るばかりで、最後まで折り合いがつくことはなかった。

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