いずれ分かる時が来るよ
黎明館 周辺
「アーネストさん。今日はありがとうございました。夕食までご馳走していただいて」
「こちらこそ。貴重な時間を、私と共に過ごしてくれて嬉しいよ」
太陽が沈み、夜空に星が輝き始めた頃。
ヴィオレットを後にしたあかねとアーネストは、黎明館への帰路についていた。
「あの店を気に入ってくれたみたいだし、店長も気に入ってくれたから良かった」
「そうですね…」
アーネストの言葉を聞きながら、あかねはヴィオレットを去る直前の出来事を思い出す。
―――――――
「さて。今日はあかね嬢もいる事だし、そろそろお暇しようかな」
「ツケはなしだよ」
「分かってるさ。少し待っててね」
そう言い残して、アーネストは部屋を後にする。
「あかねちゃん」
不意に名前を呼ばれ、ゆっくりと顔を向ける。
「アーネストが言ってた通り、良い子だね」
そう言って沖田は、優しい笑みを浮かべた。
「またこの店に来てね。僕の妻にも会わせたいし、ディナーでも少し割引してあげるから」
「ぜひ!今日は夕方までお邪魔してしまってすみません」
「いいんだよ。僕も楽しい時間を過ごせたよ。だってほら、ジョエルとアーネストなんて、ある意味厄介なお客様じゃない?」
「ふふっそうですね」
「でしょ」
互いに笑い合う。
すると何か思いついたように、沖田が掌を軽く叩いた。
「そうだ。せっかくだから、君を通して少し視えたものを教えてあげる」
「え?」
「僕の異能さ。アーネストとは視えるものは違うけどね。ようは軽いお告げのようなものってことで」
「なるほど…」
「まぁそうは言っても、未来の方はさっぱりだけどね」
そう言って、沖田は目を伏せる。
「--新しい環境になって、君を取り囲んでる人がいっぱいいるね。様子を伺ってる人もいれば、守ろうとしたり、執着したり、悩んだり……人によって様々だ」
耳を澄まして、呟くように紡がれる言葉に意識を集中させる。
「その中でも、様子を伺ってる子がいるね。君の近くで。その子はあかねちゃんに対して、様々な感情を抱いてるみたい」
「様々?」
「うん。強い感情だと憧れ、親愛、心配……そして依存」
「依存?」
「この子もあかねちゃんと同様に、強い輝きを放っているけど、時々黒い靄が掛かって霞むね。これは……ちょっと読み取れないかな」
言い終わると沖田は瞼をゆっくりと開けて、翡翠の瞳にあかねを映した。
「ざっとこんなものかな。もっと深く見たいけど、時間がないからね。今度ゆっくり視てあげる」
「沖田さんって、何でも見えるんですか?」
「見れないものもあるよ。それに部分的だし、相手に伝わらない時だってあったり」
「そうなんだ…」
「それもまた楽しいからいいんだけどね。ちなみにもう一つあかねちゃんを遠くから見守ってる存在があるね。君にとって、頼りになる存在だよ」
「頼りになる……」
あかねは振り返ってみるが心当たりが二、三人程いて断定は出来なかった。
「うーん……まさか。」
思案するあかねに、沖田は変わらず笑みを浮かべる。
「今は分からなくても、いずれ分かる時が来るよ。その時が来たら、どんな事があっても離しちゃ駄目だよ。君にとって、絆が最大の強さになるから」
―――――――
「……絆が最大の強さ、か」
「あかね嬢?」
「何でもないです」
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