分かったよ



「おまたせ〜」


陽気な声を響かせながら、沖田が飲み物を持って現れる。


「コーヒーとミルクティー、あとオレンジね」

「ありがとうございます」

「どういたしまして。ふふ」

「?」


沖田は愉しげに笑みと声を零す。


「ああ、ごめんね。アーネストが連れてくる子ってさ、大体あっち系の女性ばっかなんだけど」


具体的に何がとは言わないものの、言わんとすることがなんとなく分かり、あかねはただ笑みを浮かべる。


「君みたいな子は初めてで、それがとても新鮮ってわけ」


沖田の言葉や周囲の話と反応を見る限り、アーネストは自分のような年代の女子と、行動を共にしていることなどあまりないだろう。

むしろ不特定多数の美女達に、囲まれてる方が想像が容易い。


「言われてみると結構な面構えですよね。アーネストさんって」

「あかね嬢。念のため聞いておくけど、それは褒め言葉かな?」

「もちろんです。綺麗だなって思ってますよ」


苦笑しながら尋ねるアーネストに、あかねは素直に頷く。


「それを言うなら佐倉くんもだよね。女性客が熱い視線を向けてることもあるし」

「まさか。気のせいですよ」


思い出すように話す沖田の言葉に、あかねは司郎へ視線を向ける。

焦茶色の髪に、感情の起伏があまりないが凛とした佇まい。

よく見てみれば整った顔立ちをしているように見えなくもないが、あかねにとっては、安心するほど見慣れた顔でしかなかった。


「ふーん。なんか意外かも。しろちゃん逆ナンされてもガン無視だったし」

「無愛想で悪かったな」

「怒ってる?」

「別に」

「気にすることないのに。私は好きだよ」

「……」


押し黙る司郎に、沖田はあかねをまじまじと見つめる。


「なるほど度胸もあると。なんとなくだけど、彼に似てるね」

「彼?」

「昔の友人さ」


沖田はそれ以上は答えることなく、どこか懐かしむような視線を向けるだけだった。


「ともあれ、アーネストは君を気に入ってるみたいだね」

「否定はしないね。あかね嬢は可愛らしく素直で、人を惹き付ける魅力があって実に興味深い。それに私自身も、彼女といると何故だか落ち着くからね」


いつもと変わりない笑みを浮かべるアーネストだが、何故だか彼の本音を垣間見た気がした。


「そういえば、来週だったかな?ジョエルが養成所に行くようなこと言ってたから、一緒に行ってみてはどうかな」

「一緒に…」


あかねは厳しげな表情を浮かべる。

異能者を探す為にも知る為にも、その行動は最適と言える。


――でもあのジョエルと一緒にいるとか、正直しんどい。

――また何か企んでたりしたら困るし。


「…あかねちゃんって、ジョエルの事嫌いなの?」

「そういうわけでは……あまり良い印象は持っていないだろうけど」

「あー……なんとなく分かるかも。この前だってさ」


沖田はアーネストの耳元に近付き、小声で何やら話し始める。

一人悩むあかねを眺めていた司郎は、肩にそっと手を置いて声を掛ける。


「ジョエルは確かに善良な人物かと言われれば判断しかねますが、今の君には頼りになる存在かと」

「でも…」

「君が嫌なら、無理にとは言いませんが。やると決めたことは、最後までやり遂げる。俺が知る君の美点だと思ってますよ」

「………分かったよ」


あかねは軽く溜め息を吐く。


「帰ったらジョエルに言ってみます。もし反対されたら、協力して下さいね。アーネストさん」

「ああ。もちろんだよ」


アーネストの了承に、あかねは小さく微笑む。

今優先すべきは私情ではなく、目の前にある事実。

複雑に思いながらも、ひとまず感情に抗うことにした。

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